20.止めたくない訳じゃない
楽しそうに鼻歌を歌いながら大きな剣を引き摺るソフィーを、クレアとクロエは溜息混じりに見守っていた。
「あいつに大剣なんて持たせたのが間違いだったぜ」
「それは神的な存在に言うことだね」
自分の内に眠る武器は、その者の才能の一つとも言われる。だが、多くの人間に宿るそれは、全員がその武器を発現させるわけでもなければ、適合して才能を伸ばせるわけでもない。合致した武器を手に入れた人間は幸運だ。その点でいうとクレアやソフィー、クロエはその部類に入るだろう。彼女たちは他のことで苦労したが。
「でも、だいぶ間引いてくれてるはずだしそんな都合よく見つかるか?」
「ソフィーはそのあたり運がいいからな」
「不審者を見つけるのは運がいいのか?」
クレアの疑問に答えながら、クロエはソフィーに視線を移した。その瞬間、バキィッと大きな音がして、二人は顔を手で覆った。本当に見つけちゃったよ、という気持ちで。
「ご主人、見つけた場合の命令は出してるか?」
「突き出さないといけないから、殺すなとは言ってある」
そんなことを言っても相手が強くて興奮してしまえば忘れてしまうだろうことが想像できた。そんなに強い相手であればクレアも注意はするけれど魔王と戦った経験があるからこそその辺の感覚がザルな部分はあるし、その自覚も少しだけだがある。
るんるんで大剣を振り回す彼女を見ながら、潜伏していると近くで葉が揺れる音がした。クロエが太腿あたりから短剣を取り出してくるりと回すと、黒い覆面の男が人差し指を唇に当てて静かに、というジェスチャーをした。スッと取り出されたのはアレーディアの印がついた記章だった。
「止めないンスか?」
小声で問われた言葉に、「止められるものなら止めている」と返す。
「ご主人様ぁ〜、悪い方捕まえました!」
輝かんばかりの笑顔で剣を持った腕を振る。周囲の木もぼろぼろで、「植え直しと成長促進と栄養剤の投与が必要か?」とクレアが言うと覆面の男も「ぜひ」とくい気味に言った。
「エリアス殿下もですが、あまり暴れられるとその後の景観が悪いんですよね」
「分からなくもねぇな。ソフィーが暴れた後もご主人ってばせっせと実のなる木とか建築に使える木を植えて景観整えてるし」
クレアは一度庭師の人がしょんぼりしていたのでそうしているだけである。実はクロエほど景観に興味がない。そして、どうせならと役に立つ木を植えている。庭師のお爺さんにはちょくちょく「この木をあそこに植えられると全体的なバランスが……」と言われるのでついにお伺いを立ててからの作業となった。
褒めてとばかりに尻尾を振るソフィーを撫でながら、後ろで伸びている男たちを見た。明らかに悪い奴らと、おそらくはそうでない人がいて、そっとため息を吐いた。
こっそりと「向こうに伸びている方は牢に入れるにしても少し待遇がいいところになるかな?」と尋ねれば、「お伺い立ててみるっス」と言って他にもいた覆面の人たちに声をかけた。
「それじゃあ、ソフィー。帰ろうか」
「はい!」
そっとクロエに目線を向けると心得たとばかりに頷いた。
コルツ王国の鍛治師特有の癖がついた剣を持った男たちの情報を得るために、クロエはこっそりと覆面たちについていった。
※太腿から取り出した短剣はクロエの装備してきたものです。




