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地球の原材料  作者: 海那 白
地球
59/72

もぐもぐたいむのもぐもぐわかめ

 つかつかと足音を鳴らして向かった先は、午前中に長らくいた、いつものあの倉庫だ。

 こんこんと軽くノックをした後、返事を聞くよりも先に、振り返って情さんがいることを確かめるよりも前に、ドアを勢いよく開ける。

 中のぐちゃぐちゃ具合もお構いなしに、僕はすたすたと入り込み、できるだけ住の角の方にドカッと腰掛ける。

 後ろからのそのそとついてきていた情さんが恐る恐る中へ入ってきたことを確認すると、僕はレジでもらったお昼ごはんの入ったビニル袋へと迷わず突っ込む。

 ガサゴソと誠に五月蠅い音をたてながらビニル袋からこんぶ入ったおにぎりとあんパンと野菜サラダと緑茶を取り出す。

 そしてそれを、情さんの前に差し出した。


「…どーぞ。食べてください、情さん」


 僕がそう言うと、情さんは慌てたようなそぶりを見せてからきょろきょろと、何やら不審な動作を見せていた。

 …もう、何やってんだよ、じいさん。

 そう思って、情さんのきょろきょろとした目線をたどっていくと、僕はその光景に目を疑った。

 まさか…まさか…まさか水樹がまだここで昼食を食べているだなんて!

 うう…不覚だった。

 ちゃんと確認しておけばよかった。

 このまま気が付かなかったふりをすることもできるが、相手が相手なだけに、その行為だけはしたくない。

 しょうがないしょうがない…と自分で自分をなだめつつ、意を決して話しかけてみることにする。


「…あっ。水樹っ!」


 そう言って水樹に向かって軽く手を振ると、わずか一秒で水樹は僕に呼ばれたということに気づいたのか、すぐに手を振り返してきた。


「…何?星斗。どうしたの?」


「僕今から情さんと一緒にお昼ご飯を食べようと思ってるんだけどさぁ、よかったら水樹も一緒に食べない?」


「嬉しい、星斗。…でも、私もうすぐ食べ終わっちゃう…」


「別に、それでもいいよ、水樹。一緒にお話しよっ」


「星斗がそれでいいなら…分かった。そうする」


「やったぁ。ありがと、水樹、嬉しいよ」


「…ん。私も、嬉しい。ありがと、星斗」


「僕がやりたくてやったことなんだから、お礼なんて必要ないよ」


「…ふふっ。やっぱり優しいね、星斗は」


「そんなことはないよ。…ほら、ここ、おいで」


 そう言って僕は、一人分右にずれてから、僕がさっきまでいた場所を、左手で軽くポンポンと叩く。

 すると水樹はその場に立つと、てこてことこちらに近づいてきて、僕がさっきまで座っていた場所に、何食わぬ顔ですとんと座る。

 やっぱり相変わらず、水樹はどこまでも水樹だな。

 僕は心の中でそう確かめると、ほっと安堵の息を漏らした。

 ちなみに水樹の今日のお昼ご飯は、しゃけのおにぎりとツナマヨサンドと海鮮サラダ、おやつに煮干しとよっちゃんイカを食べていた。

 その証拠に、水樹の隣にはそれらのごみとお買い上げ済みのレシートが入っているのを僕はこの目でしっかりと確認した。

 えーっと、気を取り直してー…コホン。


「…ではそろそろ食べ始めましょうか。

 〝手を合わせてください〟」


「「〝合わせましたっ!〟」」


「〝いただきますっ!〟」


「「〝いただきますっ!〟」」


「…って、このノリは何なのだ~?わけわかめなのだ~…」


 わ…わけわかめ?なにそのわかめ…。


「…えっとね、小学校とかでよくやる、給食を食べる前にする挨拶です。誰もが知っているものかと思いましたが…お年を召されすぎて分かりませんでしたか?」


「…うっ…。それを言われると何も言い返せなくなっちゃうからやめてほしいのだー、星斗くぅーん。お願いしますなのだー…」


「…し、仕方ないですね。分かりましたよ、おじいさん」


「…っんだっ、だからやめてほしいって言ってるのだ~ぁ」


「す、少しからかってみただけですって。すみません」


 そんな風にお決まりの会話を他愛もなく続けていると、突然慌てたように水樹が割り込んで入ってきた。


「まっ、待ってっ」


「「…?」」


「そっ、そっちのっ、そっちの子っ」


 水樹は情さんを指さしてそう言うと、情さんは自分で自分のことを指さし、小首をかしげた。

 み、水樹正佳、情さんが僕たちよりもすごい年上だってこと気づいてなかったから冗談が分からなかった…とかか?


「さっ、さっき〝わけわかめ〟って言ったよねっ」


「…?うん。言ったのだ…」


「そのわかめって、どんなわかめっ?」


「…へ?」


「…は?」


 あまりにも予想だにしていなかった質問が飛んできた。

 あっけらかんとしている僕と情さんのことは気にも留めず、ただただ一方的に質問をうざいほどに投げかけてくる。

 そしてその目は、いつもの数倍輝きを放っていた。


「し、新種のわかめなんですよねぇ。どこら辺の地域に生えているんですかっ?色は?形は?味は?匂いは?食感は?どんな感じなんですかっ?教えてくださいっ、情さん。お願いしますっ。あなただけが頼りなんですっ」


 あきれ返るほどの質問攻めにあい続けている情さんは、ひきつった笑顔で僕に助けを求めるような目をしてみてきた。

 まあ、無理もない。

 僕でさえも、彼女のこんな一面は初めて見た。

 僕の知らなかった彼女の姿にかなり引きつつ、仕方なしに僕は、コホンッ…と、大きめの咳ばらいを一つして見せた。

 そのおかげか、あたりは一瞬で静かになった。

 よし、やっと落ち着いてお昼ご飯が食べられるっ!

 そう思ったのもつかの間、彼女が「じゃあ…」とでも言うように話し始めてしまった。

 こうしてつかの間の静かな時間は、一瞬ではじまり、一瞬で終わらされてしまった。


「あのそのあのっ…情さんっ」


「こっ、今度は何なのだぁ?」


「今、昆布のおにぎりを右手に持っていますよねっ?」


「あっ、あぁ…た、確かに持っているのだっ」


 そう言って持っていたこんぶのおにぎりと一緒に右手を挙げて彼女に見せると、ようやく彼女の意図に気づいたのか「あっ、そういえば…」と、顔が見る見るうちに青ざめていく情くんに気づいたときには、もう手遅れだった。


「昆布っ、好きなんですかっ?」


「えっ…あっ…いや…そんな、ことは…」


「そうですよね、分かりますっ。おいしいですよね、昆布」


「えっ…あっ…う、うん…」


「まあ、一般的におにぎりに使われていることが多く、日常的になじみのある昆布といえば、やっぱり日高昆布ですよね。応用性が高いので、私的にも一番おすすめの昆布なんです~。

 そもそも昆布というだけで、いろんな料理に使うことができますよね。スープやみそ汁などのだしとして使ったりすることもできますし、細かく切れば、サラダや煮物や炒め物など、幅広い料理に使うことができて、可能性は無限大です。

 昆布と言う者はメインを張ることがあまりなく、実を言うとわき役ばっかなんですよね。それでも味の要となるだしとして使用されたり、味付けとして使用してみたりしています。なので、主役をより魅力的になるように引き立たせる、そんな大事な役割を任されていて、主役なんかより到底大変で難しいと思うんです。。それなのに頑張って主役を引き立たせようとしていて、私はその姿に励まされ、それと同時に尊敬と好意の念を抱かされました。昆布は、それぐらいすごい海藻なんですっ」


「…う、うん…そうなのだね…うん…うん」


 みっ、水樹っ。さすがにこれはいくら僕でもかばえないよ。

 てかもう、完全に引いたよ。

 やっと同じ趣味の人を見つけてうれしくなったのはわかるけど、さすがにこれはやりすぎだと思うな…。

 それに情さん、魚介類や海藻が好きだったとしても、水樹ほどではないと思うから、話について行けないと思うぞ…。

 …いや、意外とついて行けてきたりするのか?一応情報の精霊使いなんだし…。

 ていうかそもそも、この昆布のおにぎりは僕が渡したものなんだぞ。まさかその瞬間を見ていなかったとでもいうのかっ?

 …水樹のことだから、あるかもしれない。


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