最悪の人
食べたくもないような、見るだけで吐き気がしそうな朝食を、医師による監視の下で無理やり食べさせられ、苦痛な時間を過ごした。
そんなことを思い出しつつ、今すぐ食べたものが出てきてしまいそうな口をなんとか押さえて我慢しつつ、なんとか自分の病室に戻ると、すぐにビニール袋の中に吐き出した。
それまで、うっかりと気が抜けてしまったのち、吐いたりすることのなかった自分を、我ながら賞賛しておくことにした。
さて、と……帰る準備でも始めよっかなー。
そう思った時だった。
コンコンコン
病室のドアを軽くたたくような音がした。
私は思わず返事をしてしまう。
「……は、はいぃっ……」
「水樹様の担当看護師の谷村です。検温のお時間になりました」
「あっ……ど、どうぞ……」
「失礼します」
その、少し冷徹めなインテリっぽくて、無駄に美人でスタイル良くて、見た目からも性格からも言動からもクールだと分かってしまうような、谷村と名乗る私の担当看護師は、遠慮なく、容赦なく病室のドアを開けて、偉そうにつかつかと入りこんできた。
正直言ってこの人、苦手なタイプの人だ……。
別の意味でも。
そう、別の意味とは……。
「ああ……やっぱりいつ見ても可愛いわね、水樹ちゅあん。私の娘にしたいくらいだわぁ……」
「……」
そう言って私の頬を気持ち悪い手つきで触ってくる。
もうやだ、この人。
私の担当看護師、なんでこんな人になっちゃったの?
聞くところによると、中学生以下の子が入院してくると、自分から希望してその子のところに入り、私と同じように接しているらしい。
それだからか、精霊使いに理解のあるこの医師が経営しているこの病院によく来る精霊使いたちの間ではかなり有名人らしい。
「ねぇねぇ水樹ちゅあん。今日でもうお別れなんだからさぁ……うちに養子としてこなぁい?お姉さん、水樹ちゅあんと会えなくなると思うと、寂しすぎて死んじゃうよぉ……」
「……え、遠慮……して、おきますぅ……」
勝手に死んどけ、この変態ロリコン女め。
「あーん、つれないなぁ。でも、そんなところもかんわいいっ」
「…や、やめて…くだ、さい…」
「んきゃぁああぁぁ。やっぱ、さすが私の水樹ちゅあんねっ」
すりすりすりすり
ぞわわわわわわっ
すりすりすりすりすりすりすりすり
「…ひっ、ひぁぁぁぁ。…や、やめっ」
「ああ…このまま時間が止まってしまえばいいのに…ね?水樹ちゅあん?」
「…けっ…あのっ…け検温っ…しに来たんじゃ、な、ないん…ですか?」
もうやめてっ。早く…早く終わってくれ、コイツっ。
「あぁっ。そうだった。水樹ちゅあんのかわいさに見とれて忘れちゃってたわぁ。水樹ちゅあんてば悪い女ねっ。ま、そんなところもいいんだけどっ」
「あ、あの…た、体温計…まだ、ですか…」
「あぁはいはい、体温計ねっ。はい、どーぞっ、水樹ちゅあんっ。…あ、なんならお姉さんが計ってあげてもいいんだよぉ」
「…け、結構…です。やめて…くだ、さいっ…」
「え~、だめなのぉ~?…まあでも、水樹ちゅあんがそこまで言うならしょうがないかなぁ~。少し残念なんだけどなぁ~。ぷぅぅぅっ」
私はそんな変態ロリコン女の言うことなんか気にも止めず、さっさと受け取った体温計の電源を入
れて、自分の体温を計り始めることにした。
あいつの相手をしてるのはめんどくさいし、余計に疲れる。
それに私は、あいつの話を聞く権利はあるけれど、それは義務ではない。
つまり私は、あいつと接する気はないし、接する必要も全くないということだ。
ピピピピピ ピピピピピ
どうやら体温計は私の体温を計り終えたようだ。
「おっ。どうだったぁ?水樹ちゅぁあぁぁんっ」
私の呼び名が、少し進化されていた気がする。
まあ、いいや、この人とも、あと一時間くらいで「さようなら」なんだしっ。
「…三五・八…度、です…」
「はいっ。分かりました。三五・八度ですわねっ。それではみz…」
「…あなたの用、済んだ…でしょ?だ、だから…この部屋、から…出てって、くだ…さ、い…。い、今…すぐ、に…で、も…です」
「ふふふっ。やっぱつれないなあ、水樹ちゅあんはっ。でも、かわいいかわいい水樹ちゅあんの言うことだから聞いてあげるっ」
そう言って、その変態ロリコン女は病室のドアを開けて出てった。
「じゃあね、私のかわいいかわいい水樹ちゅあんっ。例え離れていても、ずっと水樹ちゅあんを愛し続けていることにするわっ」
「…か、勝手に…してくだ、さいっ…」
私は初めて「愛している」とかいう言葉を聞いてしまったからか、顔が少し赤くなってしまった。
私は親にすらそんなこと言われたことがなかったならな…。




