なんか違う店長
「おはようございまーすっ」
火菜さんがそう声をかけると、ガラガラな店内にいる、コンビニの制服を着た(おそらく店員さんであろう)人が一斉にこちらを向き、
「おはようございまーす」
と返した。
その人たちの中には、顔を赤くした風香さんもいた。
「店長はどこにいるか知ってるー?」
と火菜さんが聞くと、手前側のレジにいた若い男性の店員さんが、「なるほど……」とでも言いたそうな顔をしてから答えた。
「店長なら中にいるよー」
「おっ!ありがとー」
火菜さんはそう返事をすると、僕と水樹を引き連れて店の奥の方へ歩いて行った。
そのコンビニストア(〝エイトマート〟とかいう名前らしい)は、まず駐車場が結構広く、あと二、三店舗は同じ建物を建てられそうな位の敷地面積を誇っていた。
外見は極めて普通の大きさだと思った。
でも、こんなにも駐車場がだだっ広いのなら、昼になったら結構お客さんが来るのだろう。
……ただ、今は怖くなるほどのガラ空き具合だ。
見てるだけで悲しくなってくる。
中に入ってみると、朝だからか、品揃えが良かった。
内装も明るくカラフルで、広告等がたくさん飾られていた。
商品の配置も、手前から、本・雑誌→日用品・文房具・ドリンクゼリー等→お菓子・食料品→パン・デザート・アイス・冷凍食品→お弁当・ジュース、トイレがある方にはペットボトル飲料やお酒があった。
……ただ、なんだか〝マニュアル通り〟って感じだった。
なんか規則的すぎて、つまらない。
店員さんはというと、結構笑顔で仕事も丁寧だった。
若そうな人が多くて、全体的に〝元気だー!〟っていう印象が強かった。
でも第一印象的には「あ、いい店員さんだな」という感じなので、良いのだろう。
うまくやっていけてるのだろう。
……ただ、人数が無駄に多く、お客さんがいてもいなくてもうるさそうだ。
そして店員さんたちの、〝不本意でめんどくさい、しょうがなくやらされてる感〟がすごかった。
ああ、なんともかわいそうに……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
店の奥には三つの部屋があった。
手前から、唐揚げを揚げたりする〝厨房〟、荷物や着替え等をする(らしい)〝スタッフルーム〟、仕入れた品や余った品等を一時的に保存しておく(らしい)〝ダンボールルーム(というらしい)〟。
そのダンボールルームには、なぜかパイプ椅子と机があった。
そしてそのパイプイスのひとつに、なにかの書類をペラペラとめくっている一樹さんが座っていた。
「お、おはようございます、店長」
「っ?……あぁ火菜さんか。失礼したな。おはようございます。あ、その子たちは……昨日言ってた子たちか。連れてきてくれてありがと」
そして一樹さんは僕たちの方を向き直って言った。
「一回火菜さんから聞いたけど、改めて本人たちに聞こう」
じゃあ聞くなよ。
「名前と年齢を聞いてもいいか?」
なんで疑問形なんだろ……。まあいいけど。
「僕の名前は星斗。一〇歳です」
「わわわ……私は、水樹……です。じっ……一二……歳です……」
一樹さんは、「なるほど……」というような顔をして頷いた。
そして盛大に言い放った!
「ようこそ!俺の店、〝エイトマート〟へ!」
・・・!?
「俺がこの店の店長、ステ●ーブン・スピルバー……いや違う。……失礼。俺がこの店の店長、金城 一樹だ。今後俺の名前を呼ぶときは、ステ●ーブン・スピルバーグかマ●ケル・ジャクソンかポール・マ●カートニーか私の愛する一樹様か。……まあ全部言われたことないんだけどさ。ははは。……これから、まぁ、よろしくな」
ぽかーん。
僕はぽかーん。
水樹も口が開いてぽかーん。
コイツのキャラ、やばくね?
頭大丈夫か?
つか、コイツが店長で本当に大丈夫なのか?この店。
一樹さん、昔は、つか昨日はこんなキャラじゃなかったような……。
「ま、まぁ冗談はここまでにしといて……」
冗談だったのか。
よかった。
……いや、よくないか……。
「この店のルールや決まりごとを教える。よく覚えておけ。分からないことがあったらぜひ聞いてくれ」
「「……はーい」」
「一応、この店には〝また行きたい場所に〟という社訓がある。お客様が安心して買い物をし、満足して帰ってもらいたいのでこんな社訓にした。でも一番は、お客様のことを考え、お客様を思い、ひとりひとりのお客様を大切にして欲しい。お客様ひとりひとりは、この店の宝物だ。このことを頭に入れてこれからは仕事をしてくれ。
次に一日のスケジュールのことだ。基本的には、何時から何時までと時間が決まっていない。だから、ロッカールームにある個人ロッカーには指紋認証装置がついていて、その装置で誰がいつ来たのか、いつ帰っていったのか、記録する」
「あ、あの……」
僕は右手を挙げて、ちょっくら言ってみることにした。
「それだとズルする人とかが出てくると思うんですけど……」
一樹さん(自称ステ●ーブン・スピルバーグ)は、ニヤッと笑い、
「さてはお前、ズルするつもりなんだな。……名前、〝星斗〟とか言ってたっけ?よし、覚えておこう」
と言った。
そして、僕を指差して言った。
「だが残念だったな、お前。スタッフルームやロッカーの中には防犯対策用小型カメラが付いているんだ。ズルしたときはまるわかりだぞ。それでもズルしたら、店の外に顔写真やお前の個人情報を書いて貼っといてやる」
ひ、ひでぇ……。
やっぱ相変わらずだな、この人は。
つかなんでこんな人がコンビニの店長なんかやってんだろ……。
意味分かんねぇ……。
「んで、基本的にお前らは小学生だから時給五〇〇円。でもこの金額は、仕事をする時間帯や仕事ぶり、素質等によって左右されることがある。例えば、深夜に店に出てくれたりすれば日中時の給料よりも上がるし、よりよい接客や対応をした人の方がサボってる人の給料よりも上になる。逆にいつもサボってると、給料は下がっていく」
「……はいっ!」
「はい、ズルをするつもりの星斗くんっ」
僕が元気よく手を挙げると、一樹さんは嫌味ったらしく言ってきた。
ちょっと……いや、結構ウザかった……。
「あの、誰が良い接客や対応をしているのかとか決めてるんですか?」
「それはだな……この俺だっ。俺が決めんのさっ。フッ。……まああとは、〝お客様アンケート〟で評判がいいかどうかを見る」
……なるほど。
意外とまともに答えてくれるもんなんだな。
「次は店内の案内をするからついてこい」
一樹さんはそう言いながら、立ち上がって椅子をしまった。
僕たちも、立ち上がって椅子をしまう。
不本意だが、ついていくことにした。
それを見た一樹さん(自称ステ●ーブン・……以下略)は、ニヤッと笑い、踵を返した。
僕と水樹は、仕方なしに続いていった。




