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おまけ かあさんと彼の話。

僕は、ヘンゼル。

継母であるかあさんと、妹のグレーテルと一緒にカフェを開いている。


「ごちそうさまでした」

「さらばだ、狐男」

「はいはい、さらばだ、魔女様」


ドミニクさんが、支払いを済ませカフェを出てしまう。


くっ、今日も駄目だったか、あの人。


昨日はあんな出来事もあったしなぁ。伝えないと。


「店長、三十分だ休憩もらっていい?ちょっと外の空気吸ってくるよ」

「大丈夫だ。行ってらっしゃい」


かあさんに見送られ、カフェを出る。


カフェから少し離れた、森の開けた場所。

切り株でドミニクさんが頭を抱えていた。


「ドミニクさん」

「ヘンゼル少年、俺はまた駄目だった…」

「知ってます」

「厳しいな」


ドミニクさんは、毎日カフェにやってきてくれる。

それはかあさんが好きだからである。

そして、その気持ちは未だ伝えられていない。


「ドミニクさん、一つ報告が」

「なんだ、ヘンゼル少年」

「昨日常連さんの一人が、かあさんに愛を伝えました」


ドミニクさんの身体が硬直した。


「マジで?」

「マジです」

「レーナはなんて?」

「かあさんの答えはいつも通りです」


かあさんはモテる。

常連さんの中には、かあさんが好きで通っている人も多い。


かあさんはあまり接客が上手とは言えない。

だが、そっけなく見える態度の中に、素直じゃない優しさがある。

それに気づいたお客さんはだいたいかあさんのことが好きになってしまう。


かあさんは、常連さんの愛を受け取ったことはない。


ドミニクさんは安心したというように息をもらした。

だけど、僕は安心できないと思っている。


「その常連さんはイケメンでした」

「え」

「かあさんは面食いです」

「知ってる」

「ちょっと頬染めてました」

「ヤバい」

「そう、ヤバいんです」


僕はドミニクさんをじっと見る。


「彼はおそらく諦めてません。手ごたえを感じたのでしょう。つまり、ドミニクさん」

「俺が早く思いを伝えなきゃ」

「取られますよ」


ドミニクさんは見るからに動揺している。


「しかも、ドミニクさん。あなたは男性としてかあさんに意識されていない」

「うぐっ!」

「早く思いを伝えるべきです。あなたは魔法で化けていない姿もイケメンだとかあさんから聞きました。いけます」

「うぐぐ、分かってる。分かってるんだ」


ドミニクさんは、かあさんの元夫だと聞いている。

常々疑問に思っていたのだが。


「結婚されてたんですよね」

「ああ」

「どうやってお付き合いされたのですか?」


かあさんは素直じゃない。でも優しい。

あれをツンデレという。


常連さんが教えてくれた。


そして、ドミニクさんも素直じゃない。

かあさんのことが、すっごく好きなのに。


これは、どこまでいっても恋人にはなれない。

だが、一度は夫婦となったのだ。


ドミニクさんが、俯く。


「ヘンゼル少年。君は知らないと思うが、昔の結婚は親が決めていたんだ」

「あ」

「そう、レーナとの結婚は親が決めた結婚だった。ラッキーマリッジだった」


ラッキースケベのような言い方をするな。

だけど、納得だ。納得しかない。


「だから、レーナに愛を伝えられたことは一度もない」


耳を疑う。


「一度も?」

「一度も」


重症だ。


ここ数年ずっと話を聞いてきたし、態度を見てきたが、どう見てもこの人はかあさんのことが大好きである。


「どうしようもないですね…」

「ヘンゼル少年。君は時々的確に人の心をえぐってくるな」

「事実なので」

「ひどい」


僕は時計を見る。


「そろそろお店に戻ります」

「ああ、ありがとう。ヘンゼル少年」

「ドミニクさん。本当に、本当ですよ。焦った方がいい」

「りょ、了解!」


カフェに戻る。


忙しい時間が終わり、店の中にお客さんの姿はない。

かあさんとグレーテルが二人で何やら話している。

だが、僕に気づくと、話をやめてしまった。


僕は首をかしげる。


「僕、なにか、不味いことした?」

「違うよ!」


グレーテルが口元に人差し指をあてた。


「おかあさんと恋バナしてたの!これは女の子だけの秘密なんだからね!」


かあさんも笑って頷いた。

できれば、ドミニクさんのことがいいなぁ。


「そっか」


僕は笑顔で頷く。


三人でおしゃべりをする。

とっても幸せな時間。


かあさんは僕たちに幸せを教えてくれた。

だから、いっぱい幸せになってほしいんだ。


そして、おそらくドミニクさんは、かあさんを幸せに出来る人だ。


きっと、明日もドミニクさんは告白できない。残念ながら。

何かきっかけ作れないかなぁ。


僕は、しょっちゅうそんなことを考えている。

 

ねえ、君、何かいい案はあるかい?

もしあったら、僕にこっそり教えてほしいな。


終わり

閲覧いただきありがとうございました!

作者がどうしても書きたくなってしまったおまけです。お楽しみいただけたのなら幸いです。

この物語は、これにて幕引きとなります。ありがとうございました!

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