閑話・ミュンの旅日記―部屋割り―
これは星を巡る物語。
そこは、まだ星を星と呼ばず、魔法すら存在していない世界。不思議な能力を持つ元劇団員の少女ミュンが、自分自身を見つけに行くお話。
今回は、少し寄り道して、彼らがまだ四人だった時のお話。
どうしてこんなことになったのだろうと、ミュンは背中にウィルの寝息を感じながら数分前の自分の行動に後悔していた。
☆
数分前。
「たまには、二・二の部屋割りでも良いよね」
町について、昼の公演を終えてからのこと。経済的に潤っている時だった。団長の提案に団員は何も文句は言わない。
「そうね。こんな機会は滅多にないもの」
リラは、むしろ同意した。ウィルもミュンも、その言葉に頷く。この時はまだ、団員が少なく、ギンもアゲハもいなかった。
ミュンは当然、女性同士のリラと同室になるだろうと思っていた。しかし、その思惑は次の瞬間には、あっさりと砕かれることになった。
「せっかくだから、団長とリラさんが同室になったらいいよ。夫婦でゆっくりさ」
ウィルの提案だ。
「そ、そうね……。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
「そうだな」
二人は頬を少し朱に染め、モジモじしつつも同意。ウィルがミュンに目で同意を求めたので、軽く頷いた。ミュンも別に問題はないだろうと思って、気にしなかった。
☆
皆で食事を澄ませ、各々部屋に下がった。ミュンが湯を浴びて戻って来ると、ウィルは壁にコップを押し当てて隣の部屋の会話を盗み聞きしようとしていた。
「……」
ミュンは無言で自分のベッドに腰かけた。
「……え? 何も反応なし? 寂しいな」
「無言の方が痛い時もあるんです」
「ミュン、敬語」
ウィルは二人の時ぐらい、フェアで話して欲しいと前からミュンに頼んでた。ミュンは意識して、敬語を使わないようにした。
「それで、何か聞こえたの?」
「ううん、何も」
そう言うとウィルはコップから耳を離して、テーブルに戻した。そのままの足でミュンの隣に腰かける。
しばし沈黙。風が窓をカタカタと揺らす音がやけに大きく聞こえた。
沈黙に耐え切れなくなったのは、ミュンの方で灯りを自分の方に引き寄せると、団長に押しつけ……買ってもらった本を開き、続きを読みはじめた。ベッドの上で丸くなりながら本を読んでいると眠たくなってくる。そんな眠気を突然の重圧が吹き飛ばす。ウィルがミュンの上にのしかかってきたのだ。
「ちょっと、ウィル! 何するの」
「うん」
「どいて」
「うん」
「……眠いの?」
「うん」
「ウィル?」
「うん」
何を聞いても「うん」しか返ってこない。これは寝ぼけているのだと判断したミュンは、何とかしてウィルの下敷きから逃れようとした。すると、ごろんと横を向いたウィルが抱き枕よろしくミュンをがっちりとホールドした。壁、ミュン、ウィルのサンドウィッチの出来上がり。ミュンは完全に抜け出す機会を失ってしまった。
(朝まで、このままか……)
別に何かされたわけでもないので、ミュンは脱出を諦めそのまま寝ることにした。
翌朝、部屋に侵入してきた、団長とリラにこのことをしばらく、いじられる未来が待っているのも知らずに。
おわり
はじめまして、こんにちは無月華旅です。
今回は、本編は少しお休みして、サイドストーリーです。お楽しみいただけたら幸いです。
次回からは、本編です。劇団を離れ、山を出たミュンは、今後どうなっていくのか、よろしければ、お付き合いください。
最後になりますが、ここまで読んでくださってありがとうございました。願はくは、また次回のお話でお会いできますことを。