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よーこさん、過去を語る

 ようやく落ち着いた頃を見計らって葛葉が近寄ってきた。露骨に避けようとすると肩をすくめる。円満に俺たちの輪の中に入れるとでも思っていたのか。

「まったく、厄介な人間と関りを持ったものですね、よーこ」

「美琴はともかく、浬のことを悪く言うのは許さんぞ、葛葉よ」

「ちょっと、私はともかくとはどういう意味だ」

 どうにか泣き止んだ美琴が美少女台無しの形相で睨みつける。とりあえず、事態の収拾を図るためにもこいつとは早々に決着をつけなくては。


「よーこさんは葛葉とは知り合いなのか」

「うちが妖狐になったばかりの頃に世話になった、師匠みたいなものじゃ」

「白々しいことを。妖術の使い方や妖怪としての在り方を説いたのですが、とんだじゃじゃ馬娘でしたよ。弟子にはあまり取りたくないですね」

「そうはっきり言わんでもいいのに」

 しゅんとするよーこさんだけど、いわゆる問題児タイプだったというのは想像に難くない。相手が師匠にも関わらず全力で炎をぶつけていたし。


「問題行動が多かったのですが、基本的にはその他大勢の妖狐と大差ありませんでしたよ。いたずらが過ぎるぐらいはわたくしとしては目をつむります。しかし、ある時を境に無視できない行動を取るようになったのです」

「一体、よーこさんはどうしたというのです」

「悪霊にでも憑かれたのでしょうか。一心不乱に人間について勉強するようになりました。妖怪としての振る舞いを教える建前で人間の習性について教えたことはあります。ところが、彼女はより熱心に、それこそ人間として完璧に振る舞おうとしたのです。

 古来、わたくしたち妖怪と人間は交わることはあっても境界を設けていた存在。公に関係性を築くなど御法度なのです。彼女の行動はわたくし共の掟に抵触する。なので、彼女を勘当したのです」

 血が繋がっているわけではないので、師匠と弟子の関係を断ったということだろう。そうなると、よーこさんは天涯孤独の身となるが、それからどうしたのか。


「葛葉の話に補足するなら、うちが人間について知ろうと思うたきっかけは、ある人間に助けられたからじゃ。

 ある日、腹が減ったうちはちょいと畑の野菜を拝借したのじゃ。じゃが、心の狭い人間がいきなり鍬で襲い掛かってきての。楽勝で逃げられると思うたのじゃが、へまをして後ろ脚に一撃をもらってしまったのじゃ。まったく、ひどい人間もおるもんじゃの」

「いや、それはよーこさんが悪いから」

 よーこさん以外全員一致の意見だった。「野狐だった時の考えが抜けきらない、若気の至りですね」と葛葉は達観していた。野生動物なら致し方ないけど、自我があってやっているならたちが悪いぞ。


「傷は予想以上に深くての。不覚にも全然動けんかった。あの時はまともに妖術も使えんかったからな。獰猛な野獣に襲われでもしたらひとたまりもなかった。

 困っておったら、偶然通りかかった人間の若者に見つかったのじゃ。人間は動物を食うと聞かされたからの。それはもう必死に抵抗した。

 じゃが、その人間は何も言わず、うちの後ろ脚に包帯を巻いただけで立ち去ったのじゃ。ああ、不思議な人間もいるもんじゃの。なんだか知らんが、胸の内が温かくなった覚えがある。

 それからじゃの。うちは人間について知りたくてたまらなくなったのじゃ」

 葛葉が言っていた「奴は人間オタク」という発言とつながるというわけか。感心していると、よーこさんは更に続ける。


「もう一度あの若者に会って礼を言いたいが、記憶にあるのは彼が人間の男で、浬たちと同じぐらいの年齢だということだけじゃ。だから、浬ぐらいの年頃の人間とより多く接することができる方法を追い求めておった。そうして行き着いたのが、宇迦学園が有する寮の管理人をすることだったのじゃ。そうすれば、寮に住まう学生だけでなく、学校に通う人間をも探すことができる。

 そして、入寮希望者の一覧で浬を見つけた時、電撃が走ったの。これは運命とさえ思うた。なぜなら、浬。ぬしはあの時の若者とうり二つだったからじゃ」


 よーこさんの回想で、どうして彼女が俺に執拗に拘るかは合点がいった。でも、俺としては腑に落ちないことがある。

「若者に助けられたっていつの出来事だよ。少なくとも、俺は過去に狐を助けた記憶なんてないぞ」

 野良犬や野良猫を助けたのならともかく、怪我をしている狐を助けたのなら記憶に残っていない方がおかしい。そもそも、狐なんて現代日本の町中でひょっこりと出会える動物じゃないからな。実家が北海道とかならまだしも、俺の実家は本州の真ん中に位置している。

「それがはっきりしないのじゃ。ほんの数年前のことかもしれんし、数百年前のことかもしれん」

「長く生きているとよくあることですよ。織田信長が暗殺されたこととか、鎌倉幕府が発足したことが昨日のことのようです」

「それはいくらなんでも時代感覚が狂いすぎてない。四百年ぐらい差があるわよ」

 あまりに長寿すぎるのも問題だな。一年前のアニメの話題をするだけでも「懐古厨乙www」って貶される世の中なのに。


「でも、あの顔は忘れたくても忘れられない。そやつとそっくりの浬は無関係なわけがないのじゃ」

 勢いよく俺を揺らす。リバースしそうになるからやめてほしいが、よーこさんの言い分は分からんでもない。実は俺が認識していない記憶があるとか、過去からタイムスリップしてきた存在だったという可能性があるかもしれないのでおざなりにはできない。別に中二病じゃないからな。

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