第012話 少女の覚悟
ジャッカスとアイリは共に、
生誕祭で盛り上がるヴェルズ村の中を歩き回った。
時には屋台や家が店になっている所で、
店主さんやその家族に挨拶して回っている。
アイリがヴェルズの家に訪れてから、
あまり家に出ていなかったのもあるが、
祭りで賑わう中で人がいつも以上に表に出ているからこそ、
話せるような村人達も居るので、
都合が良いと思い、
ジャッカスはアイリを村の人々達に見せて挨拶をしていた。
「あらぁ、ジャッカスぅ。その子がアイリちゃぁん?あなたの言うとおりぃ、可愛いわねぇ」
「お、バフォーんとこの奥さんか!そそ、この子がアイリだ、よろしくしてやってくれよな!」
「んふふぅ。あたしはねぇ、タンっていうのよぉ。よろしくねぇ」
「は、はい。よろしくおねがい、します」
ゆったりと喋り全体がぷっくりと膨れ、
ジャッカスより遥かに大きく、
アイリの五倍以上の体格差はあるだろう、
タンという牛頭族の女性が、
ジャッカスとアイリに店先から話しかける。
バフォーという牛頭族の旦那を持ち、
村では大きな畑で農作物を作り続けて生業にしている夫婦で、
子供が九人いるらしい。
牛頭族の男性はまるっきり牛の様な顔立ちだけど、
女性だと少しだけ人間に寄った顔立ちをしているようだ。
でも、体格は人間より圧倒的に大きいし、
服の上からでも圧倒するように胸がとても大きい。
先ほどアイリ達が飲んでいたミルクは、
牛頭族の女性の乳から提供してくれているそうだ。
とても甘くて美味しく、
身体も癒してくれるので多種族からも人気が高い飲み物らしい。
シチューにも使えるし、
疲れたときに一杯飲むととても癒されるから、
警備隊の人達や村の奥さん達は常連のように買っている。
軽く挨拶して、後でジャッカスの屋台に行くと告げるタンは、
そのまま旦那が戻るまで店番を続けるらしい。
子供達は旦那が連れて今は祭りで遊ばせているらしいので、
午後からが奥さんの自由時間のようだ。
「よぉ、ジャッカス!」
「あら、ジャッカスじゃない!」
「なんだぁ、店サボって可愛い子とデート中かぁ?ジャッカスも隅に置けねぇなぁ!」
「お店、昼からだって?落ち着いたから買いに行くから残しといてね!」
「ジャッカス!後でお店に行くねぇ!」
「おーい、ジャッカス!」
通りかかる人達が、全員ジャッカスに声を掛けて、
ジャッカスはその返事に応じていく。
その時に軽くアイリを自己紹介しながら、
アイリに町を案内するように、
ジャッカスは歩幅を合わせてアイリと歩く。
ジャッカスを呼ぶ皆の姿に、
アイリは改めてジャッカスも凄い人なのかなと、
アイリは思ってしまう。
通りかかる人達全員が、ジャッカスに声をかけていく。
いや、村人同士でも顔を見たら声をかけてるみたいなのだが、
ジャッカスだけには何か違うのだ。
海魔族と呼ばれる人達もその中には居て、
言葉が喋れないらしいけれど身振りで、
ちゃんとジャッカスに挨拶をしている。
アイリは改めて、ジャッカスは凄い人だと再認識した。
そして、それがちょっとだけ嬉しいとアイリは思ってしまうのだ。
*
アイリはジャッカスに案内され、
ヴェルズ村の大体の街並と立地をアイリは理解した。
ヴェルズ村は東西南北にそれぞれ地区があり、
西口に村の入り口となる門が在る。
そこで外部から来る魔族達を確認し、
誰が入ってくるのかを確認するようだ。
そして北・東・南地区にはそれぞれ出入り口とは別に、
農園や農作物を農畜する土地を村人達で管理し、
更に鳥や羊の魔物を飼い家畜として育てている。
山間で出来た村の為、
村の中央には山から流れ出る大きな水路が有り、
そこから生活となる水を使いながら、
井戸などを使って飲み水を扱っているようだ。
特に東側には大きな掘り池が作られ、
そこで魚達を養殖して釣りや掴んで獲る方法で、
食材としての魚も得ている。
町の大きさや周囲を囲む頑丈な石壁と柵を見る限り、
とても村と呼べるものではない。
本当に国と言っても過言ではないはずだ。
町の建築物の作りや文化形態は、
前世の世界の中世に相当するものを感じさせている。
唯一違うとすれば、
やはり魔族だけしか居ない、という所だろう。
そこはアイリも既に覚悟している。
住人達も全員で、2000人~3000人ほど。
魔族は長寿な種族が多いけれど、
その分、頻繁に繁殖というモノを種族が、
それほど多いわけではない。
先ほどの牛頭族の奥さんの様に子供が9人いる種族は、
全体の三割にも満たないと言ってもいいのだろう。
しかしその分、
その三割の種族が住民達の大部分を占めていると言ってもいい。
違う種族が雑多に住んでいるけれど、
異種族での夫婦というのは少ないように感じた。
獣族と呼ばれる種族は、
犬・猫・鳥・狼・牛・馬・虎・獅子の顔の人達と、
雑多に夫婦になっているが、
海魔族やエルフ族、ゴブリン族のような人達は、
あまり他種族と夫婦にはなっていないようだった。
後日になるが、
その理由を村長様に聞いた事がある。
異種族同士で子供を作れる可能性があるのは獣族同士だけで、
他の種族で子供を作るのは極めて可能性が薄いそうだ。
けれど、薄いだけで可能性はある。
後に私の幼馴染となる1人が、
まさにそういう稀有な例で生まれた人物になるが、
それは後ほど出てくるので、
敢えて説明はしないでおこうと思う。
祭りが始まってから多分二時間ほど、
アイリとジャッカスは歩きながら町を散策して回った。
祭りで賑わう風景を見ながら、
アイリとジャッカスは新鮮な気持ちになり、
町の風景と人々に夢中になることができた。
「お、そろそろ昼だな。アイリ、俺ぁ屋台の方に行くけど、一緒に店番するかい?」
「邪魔に、ならない?」
「大丈夫さ!アイリみたいな可愛い女の子が店番してたら、逆に客が寄ってきて繁盛するってもんさ!」
「う、うぅ…」
中央広場まで戻ってきた二人は、
ジャッカスの提案で串焼き屋の屋台へと行く事になった。
からかっているわけではないのだが、
ジャッカスの言葉にアイリは自分が着ている服が、
また恥ずかしくなってきてしまった。
ジャッカスが屋台を出しているのは、
南地区の広場。
その前に下ごしらえをした食材や、
調味料を家から持って来るというので、
アイリは一緒に南地区にあるジャッカスの家へ向かった。
ジャッカスの家は簡素だがレンガ積みで建てられた一軒家で、
中に入れてもらうと串焼きから匂う美味しそうなタレの匂いが、
部屋の中に微かに漂っている。
家の中にある大きな箱と、
大きめの麻袋をジャッカスは抱えて家の中から出てくると、
アイリを連れて南の広場へと向かった。
*
ヴェルズ村の南地区は、
非戦闘系の魔族達が多く住む地区でもある。
地形的に南は魔物が住む山には隣接せず、
大きな湖が外面で囲まれており、
畑や農園を置いて育てる環境としては、
最適の位置とされている。
ジャッカスも南地区の端に当たる部分に家を持ち、
そこからゆっくり歩いて5分ほど歩けば広場に到着する。
しかし、ジャッカスの荷物やアイリの歩くスピード、
祭りで人通りが多い中では、到着に20分ほど掛かった。
「わぁ……っ」
アイリ達は南の広場に着くと、
その光景にアイリは目を輝かせた。
広場の中央には芝が植えられた広い空間が置かれ、
その周囲の地面はレンガで敷き詰められた舗道となっている。
沢山の魔族達が賑わい、子供も連れた人達も目立って多い。
中央広場にも多くの出店や商店が置かれていたが、
それとは別に舗道の上で大きな布を敷いて物を並べて、
露店として売っている人々も多い。
子供と一緒に店番をする家族のような人達や、
楽器のような物を弾いたり叩いたりして歌ってる人もいる。
後で聞いた話だが、
中央広場は主に外来商人達が出店や簡易商店を構えて、
村人や来訪者達に物を売る者達。
南地区はその地区に住む人達が、
露店や商店を出す人達の場所らしいのだ。
各地区もそれぞれの住人達が露店などを出している。
村の入り口となる西地区は戦闘に向いた者達が多いので、
そこに警備隊の詰め所と訓練場も置かれている。
鍛冶・装飾品・織物などを作る職人の地区は北・東地区。
そういう物が欲しい時はその地区に行くと良いそうだ。
南地区は主に、
農作物や家畜から作られた食べ物の店が多く、
色んな良い匂いがしていた。
無意識に鼻から匂いを吸い込み、
この広場から溢れる美味しそうな匂いに、
アイリは喜びつつ興奮していた。
ぐぅぅ……。
お腹から鳴る音に気付き、
アイリはハッとなって鳴ってしまったお腹を押さえてやや赤面した。
「ははっ、腹空いたか?もうちょいで俺の店に着くから待ってな」
「う、うぅ……」
鳴ってしまった腹の音をジャッカスにも聞かれてしまい、
アイリは複雑な表情で赤面し、
恥ずかしそうにジャッカスに付いて行く。
ヴェルズに「食いしん坊なのね」と言われてから、
そういう部分は控えようと思っていた矢先だったので、
反省しないと…と、新たに決意を強めるアイリだった。
そう思って少し歩くと、
ジャッカスが「ん?」と言い立ち止まった。
「どうしたの?」
「いや、なんか俺の店の辺りがな。確かに祭りになると開店前に並んでる奴もいるんだが、いつもより多いなって」
目線を向ける先を見ると、
確かに人が多く集まっているような気がする。
アイリ達はそれを見て、
少しだけ急いで足を走らせた。
*
「おお、ジャッカスか!遅いじゃないか!」
「来たのねジャッカス!あ、その子……」
「あの時のお嬢ちゃんかい!元気そうだなぁ!」
「あぁ!良かったなぁ!ホント、良かった……」
ジャッカスの出店の前で人垣となっていた人々が、
アイリ達に気付くと囲むように近づいてくる。
突然押し寄せる人々に驚いたアイリは、
ジャッカスの後ろに隠れてしまった。
ジャッカスもこれには驚いたようで、
「みんな、どうしたんだ?」と聞いた。
「今日、アイリちゃんを連れてくるって言ってただろう?みんな、アイリちゃんに会いに来たんだよ」
「ジャッカスの話では聞いてたけどさ、ヴェルズ様んとこに行ってからずっと篭りっぱなしだって聞いて、なぁ?」
「ずっとあたし達、心配してたんだけど……、その子なんだよね…?」
アイリの事を気にかけて集まった人々だったが、
ジャッカスの後ろに隠れるアイリを周囲の人々は見ながら、
心配そうに見つめるようになってしまった。
「あぁ、えっとな。アイリの住んでたとこは魔族が居なかったらしいんだ。だからまだ魔族に慣れてないらしくてさ。だからそんな詰め寄んないでくれって、お袋がさ!」
ジャッカスが怯えてしまっているアイリに慌てながら、
急いで皆に事情を話す。
そう聞いて詰め寄っていた人々は、
慌ててジャッカスやアイリの側から少し距離を取った。
それを見てジャッカスは、
落ち着いてアイリの説得に掛かった。
「アイリ、ここの奴等は皆アイリに何かしようって奴等じゃないんだ。だからそんなに怯えないでくれないかい?ここにいる皆、気の良い奴等だからさ」
「う、うん……」
宥められたアイリは、
ジャッカスの後ろから横へ移動して人々の前に姿を現した。
注目されている事を自覚しているアイリは、
何か挨拶をしたほうがいいのかなと思い、
住民達へ挨拶をした。
「は、初めまして。アイリといいます。あの、エルフ族(だと思う)です。ヴェルズ様の所で今はお世話になっています。今日はジャッカスさんにお祭りを一緒に周ってもらっていました。お、お待たせしていたなら、ごめんなさい」
そう言って、静かに頭を下げてお辞儀をする。
すると周囲にいる村人達は、
「おぉ~」と感心するように声を上げた。
「言葉はこの間から喋れてるって言ってなかった?」
「数日前から喋れるようになったって思えないほど、自然に喋れてるよな?」
「ヴェルズ様が教えてるのよ。当たり前よ」
「いや、ジャッカスの話だと起きた二日後にはもう喋ってたって……」
「見た目通り、やはり賢い子なのだねぇ。流石は突然変異体じゃのぉ」
「え、あの子ってアルビノなの?俺、初めて見たよ」
「魔族見た事ないって?じゃあ人間大陸から来たのか!?」
アイリの挨拶に皆が口々に感心したり頷いたり、
アイリに笑顔を向けたり手を振ってくれたり、
様々な反応を返してくれた。
様々な反応に困惑しつつ、
アイリは一人一人の顔を見るように、
どう対応していいか慌てている。
そんな様子を見つつ、
ジャッカスは一つ溜息を吐いて、大きく息を吸った。
「ほら!そろそろ店開けるから退いた退いた!退かねぇと串焼きもやらねぇし、アイリとも喋らせねぇよ!」
ジャッカスの大きな一声で皆が話を止めて、
道をアイリ達に譲り、
ジャッカスは出店に到着する。
大箱と麻袋の中身を出しながら、
店の準備を始めようとするジャッカスの側で、
何か手伝ったほうがいいのかオドオドしていた。
それに気付いたジャッカスは、
出店に置いてある椅子を持ってきて、
アイリにそこに座るように促した。
「店開けて昼飯作るまでは、そこで待っててくれな。あとな、みんなアイリのこと心配してたんだ。顔見世がてら、ちょっと相手してやっててくれないか?アイリが嫌なら、無理にとは言わないけどさ」
「う、ううん。やってみる」
ジャッカスの言葉にアイリは素直に頷き、
椅子を動かしてそこで座る事となった。
アイリが座らされた位置は、
祭り用に客がその場で食べられるように、
机が並んだジャッカスの店先の横へと座らされる事となった。
アイリが店先に出てくると、
さっきまで囲もうとしていた人々が少しずつ集まり、
出来るだけ怖がらせないように近づいてきた。
始めに近づいてきた人の容姿に、
アイリは少しビクッと震えてしまう。
その姿は、前世だとトカゲやワニのような、
そういう爬虫類に似た顔の人だった。
何かの皮で出来た胸当てや手甲を付け、
手には長い槍を持っていたようだったけれど、
私に近づく際に何人も後ろに居る、
同じ格好の人に槍を渡して私の前に来た。
いきなりハードルが高すぎる相手に、
アイリは内心ドキドキして不安に襲われながらも、
目の前に来たトカゲ顔の人を見た。
「初めまして。私はこの南地区の警備隊の長を任されている、ヴラズという。種族はリザードマンだが、言葉はちゃんと分かるかな?」
「は、はい」
見た目は色んな意味で凄く怖いけれど、
言葉は凄く丁寧で落ち着いた口調だ。
前世の記憶と自分の耳で判断すると、
凄く渋い大人っぽい声の人のようだ。
「アイリ、私は君に謝罪をする為に、今日はここに来たのだ」
「え……?」
そう言うと、後ろを見たヴラズさんが、
一緒に付いて来た同じリザードマンの警備隊の人達と頷いて、
全員が膝を地面についた。
警備隊の人達が全員、
アイリに対して膝を付くと、
続けて一緒に集まっていた村人達も、
一緒に膝を降ろした。
全員が正座の様な姿勢になった事に動揺していたアイリだが、
その理由を聞く前に先に言葉を開いたのはヴラズだった。
「ここに居ない警備隊の面々も後に謝罪に来ると思う。まずはこの地区の我等が、先に謝罪をすべきだと思ったのだ」
「あの、えっと…謝罪って…?」
「我等警備隊は君の事を魔物だと勘違いし、怖い思いを数多くさせてきた。それは君の心に深い傷を残したはずだ。しかも私は、君に槍さえ向けた。ジャッカスがいなければ、私は間違いなく君を殺していた。本当ならすぐに謝罪をすべく赴くべきだったが、ジスタ殿やヴェルズ様のお言葉もあり、今日まで君に私達は何もせずに過ごしてきた。本当に、すまなかった」
深々と頭を下げ、
ヴラズはアイリに謝罪をした。
それに続くように、
他の警備隊の人々も頭を下げて謝罪していく。
更に続けて、今度はその後ろにいた人々の先頭にいた、
毛むくじゃらの白色と茶色が混じった大きな猿人が喋り始めた。
「この地区の長老を務める、名はツェゲラ。種族名は袁獣。儂等もまた、君に謝罪したくここに来たのだよ」
「え、えぇ!?」
「儂等、住民もまた同じ。君に気付く事もせず、逆に魔物だと決め付け、恐れた。儂等が落ち着いておれば、あの場で魔物と君との差異に気付き、君を追い詰める事もなかった。本当に、申し訳ない……」
そう言うと、長老のツェゲラさんを始め、
村人達も全員が頭を深々と頭を下げた。
下手をすれば100人程度は居るかもしれないその場が、
一気に頭を垂れる姿に変化したことで、
アイリは困惑を通り越してパニックになりそうだった。
助けを求めようと横で店の準備をしていたジャッカスに、
アイリは急いで声を掛けた。
ジャッカスは丁度、
しゃがんで串に材料を刺し込む準備をしていて、
その現場の流れを見ておらず、
アイリに呼ばれて「なんだい?」と立ち上がって、
周囲の光景を見て「なんだこりゃあ!?」と仰天していた。
当事者のアイリもパニックだったが、
いきなり店先で100人近い人々が膝を折って頭を下げている光景に、
店主であるジャッカスもパニック手前だったようで、
「お、お前等とりあえず立て!いいから立てって!!」と、
座っていた人達に呼び掛けていた。
全員立ち上がって、
改めてジャッカスが事の経緯をヴラズさんやツェゲラさんに聞くと、
「ハァァ……」と大きな溜息をついた。
そして、髪の無い頭をポリポリと搔きながら、
「何から話すか……」と頭を捻らせている。
「アイリはあん時の事はおろか、なんでこの村に居るのか、どうやってここに来たかも覚えてねぇんだよ。それにこんな仰々しい事やられたら、アイリみたいな子供は怯ちまうよ。それに、今日は祭りに来させるだけであんまりこういう事すんなって、お達しはなかったのかい?」
「そ、そうなのか」
「すまん、儂も知らなんだ」
「ヴラズやツェゲラ様達には、まだ話が通ってなかったんだな。すまねぇ、てっきり俺もヴェルズ様から聞いてると思ってた。ヴェルズ様も急がしそうだったからなぁ。……とにかく、アイリが驚くからこういうのは駄目だからな?え、他の地区の奴等も来るって?……ハァァ、他の奴等にも伝えて、そういうのは止めてくれって伝えてくれ…」
ジャッカスが仲介役となって、
アイリの事に関して色々補足しながら、
あれこれを説明したり決めたりしてくれている。
アイリはというと、
動揺もなんとか落ち着きながらも出店の影で身体を隠しながら、
ジャッカス達の様子を見ていた。
話がまとまり、
ジャッカスがアイリに手招きをして呼ぶと、
怯えながらアイリはジャッカスに近づいていく。
「すまねぇな、アイリ。みんな本当に悪気があるわけじゃねぇから」
「う、ううん。わ、私もごめんなさい。皆さんにも、ごめんなさい……」
そう言って、アイリは小さな頭を下げて皆に謝った。
まだ慣れない人々の容姿とはいえ、
必要以上に怯えた様子を見せてしまったのは、
反省すべきだと自分に言い聞かせる。
皆に謝られたのは驚いたけど、
でも少しだけ落ち着くと色々と見えるモノもあった。
私がスラムのような裏道の所に居た時、
皆は私を魔物だと勘違いしていた事。
そして、魔物だと思われていた私は、
下手をすれば警備隊の人達に殺されていたという事。
そしてジャッカスは、
やっぱり凄い人物で、
私にとっては命の恩人だという事。
私はあの時、あの裏道で隠れ住んでいた時。
物凄い空腹感で気が狂っていてもおかしくない状態だった。
いや、すでにおかしくはあったはずなのだ。
そんな中で、私はジャッカスの焼いていた串焼き屋の匂いに惹かれ、
表通りに近い場所まで出て行き、ついに事を起こした。
そして私はジャッカスに蹴飛ばされた。
ジャッカスはきっと、
私が魔物だと思って攻撃したんだと思う。
でも、ジャッカスの種族であるゴブリン族は、
単体の力はさほど強くはない。
だから即死せずに済んだ。
そして駈け付けた警備隊に、
魔物にしては様子がおかしいと気付いたジャッカスが、
魔物じゃないと皆に気付かせてくれた。
もしジャッカスではなく、
他のもっと大きくて力のある種族だったら、
私は蹴られた時点で死んでいたかもしれない。
その前にジャッカスが店を出してくれていなかったら、
私は表通りにも出ずにあのまま裏道に居続けたかもしれない。
そうなっていたら、私はきっと、
警備隊の人達に追い詰められて槍で突かれて殺されていた。
何もかも、偶然というには運が悪い状況が続いたかもしれない。
でも、私は今こうして生きている。
その結果に繋がったのは、
ほとんどジャッカスのおかげなのだ。
何かが一つでも違っていたら。
そんな事を考えても埒が明かない事は、
私もなんとなく分かる。
でも、やっぱりジャッカスは私にとって、
『アイリ』にとって、命の恩人なんだ。
意を決して、私はここに集まってくれている人達に答えた。
「私、みんなの事は怒ってないです。恨んでもいません。逆に感謝しています。こうやって生きているのは、皆が助けてくれたおかげです。本当に、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします!」
頭を下げたまま、
声を大きめに出して喋ってみた。
そう、私はこの人達を怖いと思わない。
容姿も、そして皆の気持ちも、
決して怖いものじゃない。
だからもう、本当に怖がらないようにしよう。
それが、私に今できる皆へ答える気持ちの証明になる。
もう怖がらない。
魔族の人達も、自分の気持ちにも。
『これからも』
それが本当に、
私がこの村で許されるかという怯えも、
もう思わないようにしよう。
私は絶対、
この人達に私ができる事で恩を返して行く。
魔術が使えなくても、
他に何かできる事を見つけて、
少しずつでも返していく……いや、
絶対返すんだ!
覚悟を決めたアイリは下げた頭を上げて、
目の前にいる人々に改めてお願いした。
「よろしく、お願いします!」
そう言うと、皆は頷き、
その言葉を受け止めて応じる言葉を発し、
笑顔をアイリに向けた。
この時から、アイリは迷う事を止めた。
そして、自分ができる事を。
自分がやるべき事を目標として、心に刻むのだった。
けれどその決意は、
思わぬ形で崩れ去ることになることを、
この時のアイリは、まだ知らなかった。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




