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19.解決の糸口と追うべき犯人

バイラム・フォッドが素早く、

「バイン。城壁近くに人が行ったか? 見てみろ」

と言うと、背後の立つ男が首を左右に振って、

「まだ、到着していません。大通りを西へ、王宮の門へ向かっていますが」

「なら、着いたら城壁沿いを歩かせろ。王都出身なら、手薄な場所を知っているはずだ。怪しい者は全て捕らえよ」

と言う。言われた、男は無言でうなずき、目を閉じると連絡を取りはじめた。


その時、目の前の男の姿がかききえた。バセロン・オーンが消えて、驚く者もいた。イメージだと知っているのに、そこに人がいるように感じていた。


アッフェル・フォルトは、バセロン・オーンのイメージを読みとった時の事を思い出していた。ただひたすら妻の事を思って、病床の妻の手を握り締めて、一目故郷を見せてやりたいと願い続けていた姿を。あれは、バセロン・オーンが造り出したイメージで、自分は想像を読まされたのだろうかと、ゆっくりとあの時のイメージをよみがえらせる。手を取る男の空気も、男に手を取られる妻の吐息も。ついさっきの、一連の、獣の目や、大きすぎる水や炎と言った、大げさで細かさが足りないイメージとは、一致しないような気がした。

「銀の帯。それで?」

と言う、バイラム・フォッドの声で視線を上げた。厳しい顔だが批難の色はなかった。

「城への警告は紫の帯へ任せる。オレンジには、バセロン・オーンの捜索を頼む。私は、この堂々巡りの原因を、イメージの仕掛けを探す」

その時。中の一人が、テーブルに絵を描いていた男が、

「お姿を映し出してもかまいませんか?」

と問いかけた。街を描く時に、姿を入れてもいいか、と言う許可を得ようとしていた。銀の帯の動向を、全ての人間が見える様にしてもいいのだろうか、と考えてと言うよりも、その姿を描き出してもいいのだろうかと言う、一種期待のような物だったのだが、

「そうだな。どこにいるか、分かった方が便利か。私の姿が見えたら、銀の点にでもして追ってくれ」

と答えた。聞いた男ががっかりしたのだがアッフェル・フォルトは気が付かなかった。そして、

「オレンジの。バイラム・フォッド殿に、ドトレーム殿。邪魔をした。状況が変わったら、私にも連絡をくれ。直接語りかけてくれればいい」

と言って、二人が立ち上がって銀の帯に対する丁寧な礼を、頷く形で受けて流した。


アッフェル・フォルトは、なんてふがいない銀の帯だと感じていた。自分自身に不愉快だった。入口近くの人間が慌てて扉を開けて押さえると、無言でくぐり、司令所である古い建物から出た。残った男達が見送った。


「解決の糸口と追うべき犯人とが同時に分かってしまいましたね」


地図を作っていた男が、再び地図を作ろうとテーブルに手を伸ばしながら、後ろに立つ聴き耳の男へ小声で言った。聴き耳の男は震える手を口に当て、

「人ではない。あれは、人の仕事じゃない」

と呟いた。彼は街中に散る、伝送者達が見ていたものを全て見ていた。街が光の中、時を戻していく瞬間を。本当はイメージで作ったものに、元のイメージを重ねただけのはずだったのだが、伝送者達の目には、時を戻しているようにしか見えなかった。


「各班に、異変の場所を囲むように、警戒線のロープを張れと指示を出せ」


そうバイラム・フォッドが言うと、彼らは指示に従って、再び、自分の仕事へ戻って行く。

「くれぐれも、イメージの封鎖の壁を造ったりはさせるな」

と言う当たり前のドトレームの注意に、

「どう暴走するか分からない中、そんな事をする勇気のある人間はいないだろうな」

と暖炉の前に立つ男が呟いた後、

「了解しました」

とそれぞれ男達が答えた。そして、現場にいる各班の班長へ、指示を伝える為に目を閉じるのだった。



 アッフェル・フォルトが森の木々をくぐり、門に続く小道を行くと、バッセルの声が聞こえて来た。


「もう一度、連絡をとっていただけませんか? さっきまで、声が聞こえていましたよね? と言うことは、そばにいたはずですよね」


ただでさえ甲高いのに、裏返りそうな声だった。赤々と焚かれた松明の脇で、バッセルの他に二人の男が立っていた。門番と、もう一人は聴き耳の者か、表現者か、手を上に向けて差し出している。バッセルは手の先の方を指差して、

「ここです。ここで、消えたでしょ? この先を見せてください!」

と必死な声で言った。すると、手を開いている表現者が、

「無理だよ。この先を見てたら映像が流れて動くはずさ。なのに動かないから。ほら、ここで元の崩れていない階段に戻るだろう? 誰かが、イメージを繰り返し見ているんだよ。この先に人がいたとしても、今はどこにいるのかわからないよ」

「それじゃあ、シェルフォード様はどうなっているんですか? 階段が崩れた時に下にいたんですよ? その先にいるはずじゃないですか! 何度も繰り返し誰かが同じ映像を作っている間、本物の煉瓦の下で埋もれているかもしれない! どなたか、この先に行っていますよね? 見てたんですから。探しに行きましたよね!」

見下ろしていたもう一人の門番の男が、

「見てたら見えるよ。さっきから、この方は、何度もこの先を見ようと、映像を送るように頼んでいるんだから」

と疲れたような声で言った。疲れた声の門番は、レフォルだった。アッフェル・フォルトが街の男の情報を頼み込んでいた男だった。バッセルは、ここに街の外の様子を探りに来て、門番付きの表現者の手の平で、街の侵食の危機の一部始終を見ていたらしい。


「でも、でも、シェルフォード様以外にもいましたよね? 仲間ですよね? みんなオレンジの肩帯に連なる方たちですよね?!」

「私事で動く者はいないよ」

とあきらめたような声で、手を広げている男が言った。苦さを噛み殺したような顔をしている。自分の無力さに嫌気がさしているようだ。

「じゃあ! どこです、そこは? 城壁のどこかですよね? みんな同じように見えるけど。でも!」

とバッセルが声を張り上げたところで、アッフェル・フォルトがバッセルの頭を押さえた。バッセルはぱっと振り向いて、頭を持ったアッフェル・フォルトを振り返り、

「今、シェルフォード様が行方不明なんです!」

ふざけている場合じゃないんです、と言うように頭を振って手をはずす。アッフェル・フォルトは軽く頷き、

「映像の頻度は同じか? 同じ所で繰り返しが始まっているのか? それとも、その都度、長さが変わっているのか?」

とバッセルの非難を無視して冷静に聞いた。声を掛けられた男は、話しかけたのがアッフェル・フォルトだと知って緊張して固まってしまったようだ。また、門番のレフォルは、顔を真っ赤にして、緊張し、そして、せき込むように話し始めた。

「お疲れ様です! アッフェル・フォルト様。先ほど仰っていた、街の外の男の事についてですが、誰も本物の姿を見なかった、と言う確認が取れました」

「確認が?」

「はっ。誰もが、男が駆け抜けて行った、と言うのですが、その姿はどれも軽やかな走り姿だったそうです。街の中から街壁を超えて、村を超えて、草原を超えて、これほど遠くまで、軽やかに全力疾走をし続けられる人間はいない、と言うことで、影だと分かりました。誰かの造り出したビジョンが、飛びだして行ったようです。光に驚いて逃げるイメージを作った者がいたのだろうと、言う事でした」

と最後の部分は、口の中でもごもごと言った。途中で侵食の危機が始まって、犯人捜しが棚上げされた言い訳のように聞こえ、後ろめたさが前に出た。しかし、

「よく調べてくれた。ありがとう。礼を言う」

とアッフェル・フォルトが言うと、ほっとしたように笑った。アッフェル・フォルトは、アッフェル・フォルトで、これで、外へ出たのも映像だったと言うことは、中にいたのは本物か、と思った。ついでに、と言うように、

「光の柱が落ちる前に、封鎖したところがあるのだが。何か話しは聞いていないか?」

「封鎖、ですか?」

「濃度がそこだけ濃くなっているか、薄くなっているか、そう言った話しは無かったか?」

と言って、振り返って門番小屋に視線と飛ばす。当然中は空だった。開きっぱなしの扉の向こうに、倒れた椅子や投げ出された毛布が見えた。仮眠の暇もなかったらしい。

「聞いてません。封鎖していたら、この騒ぎですし」

そこまで、手が回らないのでは、とレフォルは戸惑ったよう言う。アッフェル・フォルトは、それもそうかと言うように頷いて、目の前で、固まったように映像を出し続けている男の手のひらをちらりと見た。埃を巻きあげて城壁が崩れて行く。そして、その城壁が崩れる所で、

「おい、待て!」

と言う鋭いシェルフォードの声が聞こえた。そして、そのまま、埃の中に埋まって見えなくなってしまう。アッフェル・フォルトが司令所で見た映像はここだった。この先で、街壁が消滅する。


しかし、目の前の映像は再び、月夜の城壁に戻っていった。


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