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エターナル  作者: 夕菜
14/40

第3話 (6)








「結!」

 美森はその声が聞こえたのと同時に、ゆっくりと目を開いた。

 既にあの光は跡形もなく消えており、あの綺麗に光る岩も今まで通り美森の目の前にある。周りを見渡しても今までと変わりない場所に美森はいた。

 しかし、美森の隣には初音がいた。彼女は、美森のことは気にする様子なく光る岩の上に掌を置いている。

「初音さん・・・」

 美森は初音に声をかけた。

(どうして初音さんがここに・・・)

 それに、さっきまで隣にいた雫の姿がない。・・・雫は・・・どこに行ったのだろう。

「結―!ここにいるのは分かってるんだからね!」

 初音は辺りをきょろきょろ見渡す。

「!」

 美森は初音の顔がこちらを向いた瞬間、どきりとした。

 確かに彼女は初音だ。しかし、歳が明らかに違っていたのだ。

 今の初音は、まだ幼さが残る顔立ちで・・・おそらく、美森と同じぐらいかそれより下あたりだろう。

 しかも、初音の目には眼帯はなく朱色がかった瞳はきちんと二つ見ることができた。

(初音さんが・・・どうして・・)

 美森は混乱していた。

 そして、瞬時に最悪な考えが頭を過る。

(もしかして・・・また、時間移動しちゃったの?)

 しかも、今回は少しの時間移動ではないことは確かだった。初音があんな姿なのだから・・・。

「見つかっちゃったー。どうしてお姉ちゃんはすぐに見つけちゃうの?」

 その声と同時に光る岩の影から、小さな子供が一人顔を出した。

「だって結の隠れる場所にと言ったら、いつもここでしょ」

 美森は“結”という名前を知っていた。

 初音が呟いたあの名前だ。あの時の初音の表情は、美森の頭に焼きついて離れない。

(初音さんの妹・・・?)

「いつもじゃないもん」

 その可愛らしい声を持つ女の子─結は、美森の隣にいる初音を見上げて唇を尖らせた。

 初音は結の言葉に苦笑する。

「お姉ちゃんは知ってるんだよ。結がこの岩が大好きってこと!だから、結の隠れる場所はいつもここー」

「いつもじゃないもん!!」

 結はより一層唇を尖らせた。

「・・・・」

 それにしても・・・・どうして、初音も結も自分に話しかけてこないのだろう。まるで、美森の存在なんてここにないようだ。

 二人に近づこうとしたその時、美森は見えない何かにぶつかった。

「?」

 その何かがあるせいで、美森はこれ以上前に進めない。

 その何かとは“見えない壁”と言って間違いなかった。手を伸ばしてもそれにぶつかり、初音と結の方へ手を伸ばすことさえできない。

(一体・・・どうなってるの)

「そろそろ洞窟からでようか?かくれんぼはもうおしまい!」

「えー・・・」

 初音は不服な表情を浮かべた結の手を握る。

「また、明日つれてきてあげるからね」

 結も手を握りかえす。

「ほんとに?・・・やったー!」

 結は今までとは違い、とても嬉しそうに笑った。

 そして、初音は結の手を引いて美森に背を向ける。

「!・・・」

 美森はここから遠ざかっていく二人の後ろ姿を、見ているしか出来なかった。

 二人の後を追いかけたくても、見えない壁に邪魔されてここから動くことができない。

「待って!」

 美森は思わずそう叫んだが、その声は二人に届く様子はなかった。

 そうこうしている間にも、たちまち二人の姿は岩の光から離れ行き、そして洞窟の闇にかき消された。

 そして美森は洞窟の中、一人取り残された。

「っ・・・・」

 一体ここはどこなのだろう。

 さっきまでいた場所と全く同じはずなのに、全く違う。

 見えない壁のこっち側には誰もいない。美森の後ろに広がるのはただの洞窟の闇だけだ。壁の向こう側に行きたくても、行けない。

 美森の額に嫌な汗が噴き出した。

「誰かっ・・・いませんか!?」

 美森は不安しかない声色でそう叫ぶ。

(どうしよう・・・嫌だよ・・・)

 この空間にずっと一人のままだったら・・・。そう考えただけで美森の心臓の鼓動が早鐘のようになる。

 とその時、見えない壁の向こう側が、ぱっと明るくなった。

「!?・・・」

 そこにある風景は美森の知っている景色だった。

 間違いなく壁の向こう側は、初音の家の中だった。

 今、美森の立っている空間は間違いなく洞窟の中のままなのに・・・。すぐ目の前には、初音の部屋が広がっている。

「どうなってんの・・・」

 美森は見えない壁をばしばしと叩いた。

 叩く音とその感覚は確かに伝わるのに、すぐ近くにいるソファに座っている幼い初音は

 こちらに見抜きもしない。

 これではまるで──・・・

「お姉ちゃん!」

 結の声が聞こえた。

 結はその綺麗な朱色の瞳に涙をためて、ソファで本を開いている初音に抱きつく。

 美森は思わず、その鮮やかすぎる色にどきりとした。

 洞窟の中ではよく確認することはできなかったが、結の瞳の色はとても綺麗な朱色だ。そしてその髪色も、初音と同じ赤色だった。

「結ー・・・どうしたの?」

 初音はその本を閉じると、結の頬にそっと掌をあてる。

「またお友だちにいじわるされた?」

「みんなっ・・・ゆいの髪の毛と目の色が変だってっ・・・近寄るなって・・・」

 結はその言葉を必死に言うと、大声をだして泣き出した。

「ゆい・・・何もしてないのにっ・・みんなゆいと遊んでくれないっ・・・」

 結は嗚咽の漏れる中、何とかその言葉を発する。

 初音は、そんな結に困った笑みを浮かべると、小さな結の体を自分の膝の上に乗せた。

 それでも結は、泣くことをやめる様子はない。

「ほらっ、泣かない!」

 初音は結の目の淵にたまった涙を、掌で拭いとる。

「っ・・・」

「お姉ちゃんは嬉しいよ?結と同じ髪の色!でも、結は嫌なんだー・・・悲しいなぁ」

 初音は口をへの字に曲げると、結を見る。

「それにその綺麗な目の色もお姉ちゃんにとっては、羨ましいぐらいなのにー」

「・・・ほんとに??」

 結は初音の言葉の後、少しずつ泣くことをやめ、目の淵を手で擦うと初音の顔を見た。

 そして言った。

「ゆい、お姉ちゃんと同じ髪の色、嫌じゃないよ!それに、目の色も嫌じゃないよっ」

 結の瞳にはまだ微かに涙で濡れているが、次の瞬間にはその瞳は幸せそうに歪んだ。

 初音も笑顔を返しそして、優しく結を抱きしめた。

「結・・・負けちゃだめだよ!お友だちが結のことをいじめても、お姉ちゃんはいつでも結のことが大好きなんだから!」

「ゆいもお姉ちゃんのこと大好きー!」

 初音はとても幸せそうだ。それに、初音の妹の結も。

(初音さんの妹は・・・──)

 “パーツ”なのだろうか。やはり、特別だと周りから差別されてしまうのだろうか。

 楓は特別な瞳の色を持っていてもそのようなことはなかったのに。

「・・・」

 美森は視線を地面に落とす。

 ・・・それにいいのだろうか。壁の向こう側は、間違いなく初音の過去だ。初音の許可なく、自分は彼女の過去を知ってしまっている。

 「結を離して!!」

 「!」

 美森は初音の緊迫した声に、思わず顔を上げた。

「っ!!」

 美森の目の前に飛び込んできたのは、全身泥まみれの初音・・・・そして、黒髪の青年に捕まっている結の姿だった。

(初音さんっ・・・)

 壁の向こう側は間違いなく、とても恐ろしい状況になっていた。

「へへっ!やっとパーツを手に入れた」

 その黒髪の青年は、結の両腕を掴んで軽々と上に持ち上げる。

吏緒リオ、油断しないでくださいよ。いくら子供でも、パーツには強力な力があるんですから」

 黒髪の青年─吏緒の後ろに立っている帽子を被った青年が、淡々とした口調で言う。

「んなこと、留維ルイに言われなくても分かってるって!!」

 吏緒は帽子の青年─留維を見てそう怒鳴った。

「お姉ちゃん・・・!!助けて!」

 結はその小さな体を必死に動かして、初音に助けを求める。その朱色の瞳には、今にも溢れだしそうな涙をためて。

 初音は表情をきゅっと引き締めて、吏緒に向かって走り出した。が、吏緒に届く寸前でその体は彼の力強い蹴りではじきかえされた。

 初音は地面に倒れこみ、その頬にまた赤い傷を増やす。

「初音さん!」

 美森は初音に届かないと分かっていながらも、いつの間にか叫んでいた。

 こんな状況、怖くて見ていられない。

 結はパーツなのだ。・・・・だから、あの二人・・・レストの民に連れ去られてしまう。

 楓と同じように・・。

「あんまりしつこいと殺すぞ?」

 吏緒は地面に倒れこんでいる初音を見下ろし、低い声で唸る。

「だめっっ!!!」

 吏緒に捕まったままの結は、大声でそう言い、吏緒の手から逃れべく必死にもがく。

 と、その時、結の体が微かに光を帯びた。

 それと同時に、周りに生えていた木々が風に吹かれたわけでなく、ざわざわと音を鳴らし始める。

 次の瞬間、それらの木々の葉が先端をぎらつかせ、吏緒に向かって猛スピードで襲いかかった。

「っ!!」

 結はその瞬間、吏緒の手から逃れ初音のもとへ駆け寄る。

「お姉ちゃんっ」

「結っ・・・速く・・・」

 初音は結と手を繋ぎ、駈け出した。

 結も留維と吏緒に背を向け、初音と一緒に走りだす。

「逃げたって無駄なんだよ!」

 その声と同時に、初音の足首から真赤な血が噴き出した。

 初音は苦痛の叫び声あげ、勢いよく地面に倒れる。

「お姉ちゃんっ・・・」

 結は今にも泣きだしそうだ。

「だから言ったじゃないですか。吏緒はやっぱり私の話を聞きませんね・・・」

 留維が呆れ気味の声で言う。

 「・・・」

 吏緒は留維の言葉は聞く様子なく、初音の足首を傷つけた黒い電撃のようなものをその手で弄んでいる。

 バチバチと音を立て、それは吏緒の手から消えた。

「留維の話を聞いてなくても、俺はあいつらを逃がさないって!!」

「・・・やっぱり聞いてないんですね」

 すると、また木々がざわざわとなり始めた。そして、次の瞬間、今度は留維と吏緒めがけ木々の葉が襲いかかる。

「・・・」

 しかし、留維が掌をその葉に向けると、木々の葉は突然方向転換し、まったく別の方の地面に勢いよく突き刺さった。

「これだけの木々を操れるなんて・・・やはりパーツには驚かされますよ」

 留維は余裕の笑みを浮かべ、結を見る。

 初音は結を守るようにして、彼女を力強く抱きしめた。

 吏緒はそんな二人に大股で近づいた。そして、初音の中の結を彼女から引き離さそうと手を伸ばす。

「おら!離せよ!!」

 初音は吏緒の苛立ちの声を聞いても、その腕から力を弱めることをしない。むしろ、より一層、結を強く抱きしめた。

 吏緒はそんな初音の様子を見ると、結から手を離した。

「・・へへっ。仕方ねぇーな。殺るか」

「そうですね」

 二人の顔には、とても楽しげな笑みが浮かんでいる。

「パーツは殺さないでくださいね?」

「はいはい♪」

「っ・・・」

 初音は俯きながら、ゆっくりと結を離した。そして、呟くような声で言った。

「結。一人で逃げられる?」

「ゆい逃げられない!お姉ちゃんと一緒じゃなくちゃやだっ!」

「早く離れて!」

 初音は結を突き飛ばす。

 その時、黒い電撃が初音に向かった。初音は結を突き飛ばした衝撃で、体のバランスを崩す。 

 そして、黒い電撃は・・・・

「っ・・・・!」

 美森は顔を背けた。

 次の瞬間、初音の悲鳴が美森の耳を貫く。

(何で・・・こんなこと・・・初音さんっ・・・)

 初音は結を守れなかった。そして・・・自分の片方の目までも失ってしまったんだ。

 あの優しい初音のあの眼帯の下には、辛くて苦しい傷痕が残っているんだ。

 美森は知りたくなかった。

 こんなに嫌でこんなに辛いことがあったなんて。

「美森」

「!」

 顔をあげると、そこには雫の顔があった。

「どうしたの?・・・・美森、その岩に触れて、急に倒れたと思ったら・・・寝てるし・・・」

「えっ・・・──」

 美森は体を起して、あたりを見渡す。

 美森の周りは、なんの変哲もない洞窟のなかだ。急いで立ち上がり、見えない壁の方に手を伸ばしてみる。しかし、そこには何もなかった。

岩の光によって、ぼんやりと映し出された雫の顔がこちらを見ている。

「この岩に触れたら・・・・」

 美森はそこで言葉を止めた。

 ・・・初音の過去のことを話しても、レストの民の雫には関係ないことだ。

「この岩が・・・なに?」

 雫はその岩にゆっくりと手を伸ばす。

 が、次の瞬間・・・

 バチッ!!

 強い静電気のようなものが、岩に走った。

 雫は素早く手を引っ込める。

「びっくりした・・・」

 美森は思わずそう呟いたが、雫はただ冷めた表情でその岩に視線を注いでいるだけだ。

(私が触れたときは・・・大丈夫だったのに)

「・・・私が触った時は・・・」

「・・・美森は洞窟からでないとね」

 雫はその岩から視線をそらし、美森を見た。

「あっ・・・うん・・・」

頭の中でいろんな疑問が渦を巻いていたが、それを口に出す勇気が美森には無かった。

雫はその岩から離れ、出口の方へ向かう。

美森も足を速めて雫の隣を歩いた。

美森の足音よりも、テンポの速い足音が隣から聞こえる。洞窟の中はとても静かで、二人の足音しか聞こえない。

「!」

遠くに淡い朱色の光が見えた。

きっと夕方だから外の光が朱色なのだ。

「雫ちゃん・・・もうすぐ出口・・」

「うん・・・」

 少し歩くと、たちまち朱色の光は大きくなった。

 美森は久しぶりに浴びる外の光に、思わず目を細める。

「・・・私は帰るね」

 雫は立ち止まり、美森を見上げる。

「・・・分かったよ」

 美森も立ち止まった。

 それと同時に、朱色の光によって瞳と髪がその色に染められた雫が目に入る。

(あれ・・・?)

 雫は誰かに似ている。

 美森は思わず、雫の顔を凝視した。

(誰に似てるんだろう・・・)

 美森がそう思っている間にも、雫はその場から姿をかき消してしまった。

「・・・・」

(・・・まともに話できなかった・・)

 雫はレストの民だが、悪い人ではない気がした。

 そんな雫ともっと楽しく会話ができればよかったのだが・・・。なかなかそうもいかない。





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