表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/21

メインヒロインの作り方!

 俺は、電車で揺られていた。時刻は十時半。本来の休みの日であればまだまだパンツ一枚で布団を被っている時間である。

 集合時刻は十一時であり、目的である遊園地には三十分も前に到着する予定となっている。普段であれば登校時刻のギリギリにつく俺だが、仮とは言えデートなのできちんと余裕を持って家を出た。


 学校一の変人、藤咲花奈と二人で遊ぶだけだけだというのに、この紳士力。さすが俺様だ。


 電車に乗る時や、街行く人とすれ違う度に向けられる興味の視線にわずかばかりの気持ちよさを覚えながら、俺は街を歩く。学校などで「源元光」であることを強要されるのが嫌なだけで、目立つこと自体は嫌ではないのだ。むしろ好き。もっとイケメンな俺を見ろ!


 駅は遊園地のすぐそこにあり、また商業施設と複合しているため三十分くらいは余裕で潰せる。しかも立地的に時間に遅れることもないだろう。そんな事を考えながら、目的の駅についた俺は、適当に駅内の本屋へと歩みを進める。

「注目されてる漫画コーナー!」と書かれたポップがある一角を過ぎて適当に小説が並んでいる棚へと移動する。手前の棚の歴史小説から順に、奥の棚へと巡回していく。


 俺のように読書習慣がない読者は表紙で買っちゃうものだから最近だと普通の小説も可愛い女の子が書かれてたりするんだなぁとか、デートと関係ないことを考えていると、気づけば俺の両脇は真っピンクな本が並んでいた。


 まずい、このブースは少女漫画の棚か。

 俺は通報されないよう素早く地面を蹴って——


 ——すると、そこに見知った横顔を見つけて俺は立ち止まる。

 明るめのスキニージーンズはスラリと伸びる脚を強調し、小さめの白いシャツはシンプルだからこそ、彼女の持つスタイルの良さをこれでもかと見せつけてくる。


 正直、見惚れていた。

 カッコよさとおしゃれさを感じさせる着こなしが放つ暴力的な魅力に、俺はめまいを覚える。


 未だにこちらに気づかず立ち読みをしている女性へと、俺は歩み寄る。


「早いな」

「はっふんッ!?」


 藤咲は飛び上がるように跳ね、隠すように呼んでいた本を抱きしめる。

 どんな鳴き声だよ。良かった、話してみるといつもの残念美人な藤咲花奈だ。


「ちょ、ちょちょっと。だれ、不審者?変質者?」

「おい、目があってるだろ今。そういうのは冗談だとしても傷つくからやめなさい」


 俺の言葉は藤咲には届いていないのか、彼女は慌てて乱れた髪を忙しなく撫でている。驚いたせいか目が潤んでいるのがちょっとヤバい。語彙力がなくなるくらいにはヤバいのだ。

 藤咲は髪を直しながら、小さくため息をつく。


「はぁ、私の計画がぁ」

「計画?」


 沈み込む藤咲の声に、俺は首を傾げる。すると藤咲はいつものように腰に手をやって胸を張る。


「そうよ。集合時間が過ぎたのを確認してからここを出ることで『ちょっと待ったぁー?』っていうザ・ラブコメなやり取りをしようとしたのよ」

「普通に遅れてくれば良いんじゃ」

「それは失礼だし、遅れすぎたらあんたはどうせ『うん。普通にめちゃめちゃ待った』とかいうでしょ」


 よくご存知で。


 他の女子であれば、そんな戯言を言って喜ばすだろうが、藤咲にそれをするような仲ではない。

 頷く代わりに一度だけ目を伏せて返すと、向かい合ったことで藤咲が読んでいた少女漫画が見えた。帯にはその巻の概要が書かれている。


「それ、デート回じゃ・・・」

「———ッ!!」


 今度こそ藤咲は自分を抱きかかえるように小さくなると、怯えるように上目遣いに俺を見る。

 その薄い唇はわなわなと震えている。


「べ、別にちょーと当日になってデート楽しませられるか不安になったから、早くきて参考資料として漫画をみてたとか、そういうのじゃないから!」

「・・・」

「ニヤニヤしないで!うざい、キモい、変態!」


 俺は観音菩薩がごとき穏やかな表情で藤咲を見て頷く。

 いつもは気丈な藤咲だけど、今日が不安で、緊張したからこうして早く来たのだろう。そう思うと今この場だけでは藤咲をどこか愛らしく思えなくない気もしてくる。

 もちろんそれは五秒として持たないけど。


 そんなこんなで合流してしまった俺たちは、藤咲がうなだれながら本を戻した後にテーマパークのすぐそこまで移動する。


「まぁ良いわ。それじゃあ行きましょうか。悪いけど、テーマパークは全力で遊ぶから覚悟しなさい」



「当日券ですと入場が二時間後になりますが、よろしいでしょうか」

「はい?」


 俺は藤咲を見る。その横顔は唐突な出来事に眉をピクピクと引きつらせている。

 まぁ、入場が二時間後で、かつチケットもノーマルのものだとアトラクションの待ち時間などを考慮すると遊べるアトラクションの数は少ないだろう。ただでさえ入場列はあの長蛇なのだから。俺は振り返って三列にも及ぶ入場口を見る。


 するとクイと袖を引かれ、藤咲がこちらを覗き込んでくる。

「どうしましょうか」


「俺は別にどっちでも」

「それが一番困るのよ」


 言いながら藤咲は少々悩んだ後に、受付の店員さんに向き直る。


「すいません、今日は大丈夫です」

「本当によろしいですか?」

「はい!」


 そう告げるやいなや、藤咲は俺の手を取って全力で駅へとかけていく。ぐいとジャケットを引かれ、おぼつかない足取りでなんとか藤咲の足並みに合わせる。

 あまりの速さに、少しでも脚がもつれれば二人もろとも顔面から地面へダイブしてしまいそう。


 駅の構内でも変わらず手を引かれたまま、俺たちはちょうど出発しようとしていた電車に滑り込むことに成功する。

 俺と藤咲は互いに汗を電車のクーラーで過冷却しながら、肩で息をする。


「よかったのか」

「あれじゃあ、乗りたいものにも、乗れないでしょうしね」


 息も絶え絶えに、言葉をかわす。

 急ぐ意味もわからないし、正直キャンセルをした意味だって納得したわけではない。藤咲の考えていることはよくわからない。・・・って、それはいつもだから考えるだけ無駄だな。


 俺はそう考え直し、改めて深呼吸する。離れないように、放されないように手を繋いだまま全力で街を駆けるという体験は初めてで、未だに高揚感の残滓が胸に広がっている。

 心地いい疲労感に浸っていると、隣で藤咲はすっかり平素な口調で告げる。その手にはスマホが握られている。


「一時間ちょっとくらいかかるけど、バスでいける小さめな遊園地があるから、そこにしましょうか」

「は?わざわざ小さいところ行くのか?それにその時間なら別に待てばよかったんじゃ」

「だからそれじゃ実働時間がないでしょうに」


 やれやれと呆れたと言いたげな態度を見せる藤咲。

 そういうのってブランド価値というか、アトラクションの規模みたいなのも大事にするのでは?少なくとも、これまで俺が遊園地などに出かけた時はどれだけ混んでいても雑談などで時間を潰していたように思う。その時の俺の心境は、察してほしい。


 楽しげな藤咲の様子に、俺はつい頬が緩んで窓の外へと視線を投げた。

 それから俺達は三駅ほど移動した後にそこでバスに乗り換え、遊園地を目指した。


 バスには家族連れがちらほらといるだけで、俺達のような高校生は少なくともこの便では見つけることができなかった。まぁ、そりゃわざわざ小さい方に行くわけはないか。

 移動でのてんやわんやも落ち着くと、俺と藤咲との間で交わされる言葉はなくなっていた。俺はただ青々とした木々、どこまでも広がる稲穂、土砂崩れでところどころむき出しになった山々など、流れていく景色をぼぅと眺めていた。


 すると、通路側に座る藤咲がやや沈んだ声色で囁いた。

「ごめん、折角の休みなのに。全然リードできてないわね」


 俺はあまりにもその殊勝な態度がらしくなく思えて、窓に映る彼女を見た。

 俺に見られていることを意識していないその表情は、神妙に遠くの床を見つめていて、生気が感じ取れない。


 てっきり完璧な移動プランを考えるのに疲れたから休んでいるのかと思ったが、あの真面目な態度は俺への罪悪感によるものだったらしい。


 やはり藤咲は、皆が思うよりも優しいのだ。


「楽しいよ」

「え?」

「それにまだ昼だし、これからどうとでもなるだろ。王道なラブコメデートを見せてあげるとか言ってたくせに遊園地は待ち時間でキャンセルするわ、あんだけ息巻いてたけど不安で少女漫画呼んでるわって、正直すでにこのデートはめちゃくちゃ面白いぞ」


 一気に一息で言い切ると、俺は肩で大きく息をした。ついさっき電車の中でそうしたみたいに。

 なれないことはするものではない。素直に人に思いの丈を述べるなんて、俺らしくない。


 自分の思いを一気に語ると、妙にこそばゆくなって俺は目をつむる。このまま目的地に起きたらついていてくれないだろうか。


「そっか」


 それは割れ物に触れるような、優しく、柔らかな声音。

 しっとりと、隣りにいる俺だけに聞こえるくらいのその声は妙に俺を落ち着かせた。

 ガタガタとバスは小刻みに揺れる。ときおりそのせいで藤咲と方がふれあいながら、気づけば俺は、まどろみへと意識が潜り込んでいっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ