第2話 消えた町の人々
サーシャ「それにしても、なんであんなに安いの?あんな値段普通つけられないでしょ。このままじゃお客さんみんな取られちゃうよ」
次の日のことだった。
サーシャの店には毎朝仕入れ先の業者からお菓子の材料が届くのだが、今日は時間になっても届かないのだった。
サーシャ「どうしたのかな」
開店時間になっても届かない。
サーシャ「仕入れ先まで行ってみようかな」
サーシャは無意識にネックレスを外してカウンターの上に置いた。
店の外へ出るとサーシャは外の様子がいつもと違う事に気づいた。
サーシャ「誰もいない」
いつもこの時間になると何人もの人が歩いているのに、今日は一人も外にいなかった。
微かな風が吹いている。
ただ、それだけだった。
サーシャは町の中に一人だけ取り残された様に感じる恐怖を覚えた。
サーシャは急いで隣のメニの店に行った。
サーシャ「メニ!」
メニ「ん?どうしたの?」
サーシャ「外、見た?」
メニは窓の外を見る。
メニ「……え?誰もいない」
サーシャ「お菓子の材料も届かないの」
メニ「なんかあったのかな……」
サーシャ「お願い、仕入れ先まで一緒に来てくれないかな」
メニ「まあ、いいよ。どうせ暇だし」
メニは簡単に支度をして二人は店を出た。
メニはドアの鍵を掛けた。
メニ「準備よし、じゃあ行こっか」
サーシャ「うん」
その時、新しく出来たお菓子屋の窓から、おばあさんが二人のことをじっと睨んでいた。
その口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
そしてサーシャとメニの姿が遠くへ消えて行くと、おばあさんはサーシャの店へと歩き出した。
ドアを開けて入って行った。
おばあさんは店の中へ入ると少し辺りを見回した。
カウンターの上に置いてあったネックレスを見つけて、おばあさんはそれを握りしめて自分の首に下げた。
おばあさんの首にはサーシャのネックレスと、それと同じネックレスがもう一つ掛けられていた。
二つのネックレスを下げたおばあさんは、持っていた鉄の棒で店の中の物を片っ端から破壊していった。
サーシャたちは目的の場所に向かって歩いていた。
メニ「ねぇ、その仕入れ先って少し行った所のボンボンって名前の店だよね?」
サーシャ「前に、おばあちゃんが教えてくれたお店よ」
メニ「やっぱさぁ、ボンボンっていうくらいだから金持ちの息子とかいるのかな?でっぷりしたヤツとか」
サーシャ「いないわよ、ボンボンは多分お菓子の名前の事よ。お菓子の材料と道具が売ってるお店だからそういう名前なのよ」
メニ「なぁんだ、そういう事か。金持ちの息子だったら面白かったのになぁ」
しばらく歩いたが町の何処にも人がいる気配は無かった。
メニ「ほんとに誰もいないね、どうしちゃったのホントに。いつもあんなに人がいたのに、どうしちゃったわけ?」
サーシャ「もうすぐよ着くわよ」
メニ「アンタちょっと聞いてんの?」
そして二人は目的の場所に着いた。
目の前の店のドアにはCLOSEDの看板が掛けられていた。
二人は店の窓から中を覗き込んだが人の姿は無かった。
メニ「やっぱり誰もいない。ちょっと怖くない?あたし達二人しかこの町にいないなんて、みんなどうしちゃったの?」
サーシャ「変よ誰もいないなんて、きっと何処かに居るかもしれないから探してみようよ」
サーシャは不安でいっぱいになりながらも平静を保っていた。
そして二人は店の周りから調べる事にした。
店の横に回って裏側へ向かった。
裏に回ると、そこは様々な大きさの木箱や見慣れない道具などが幾つも置かれていた。
そこには10歳くらいの男の子が木箱を椅子にしてうなだれていた。
男の子の名前はオリバー。
ボンボンの一人息子だ。
サーシャ達はオリバーの側に近づき、話しかけた。
サーシャ「オリバー?」
オリバー「うわぁ!」
ガタンッ!
驚いたオリバーは箱から落ちて少し頭を箱にぶつけた。
オリバー「いてーっ」
サーシャ「大丈夫?」
オリバー「おま、脅かすなよ、びっくりするじゃねーか」
サーシャ「ごめん、ごめんね」
メニ「かわいい」
メニは小さい声で独り言を言ってから含み笑いをした。
オリバー「今聞こえたぞ!」
それを聞いて慌ててメニは手で口元を隠して横を向いて笑いを堪えた。
オリバー「テメェ」
サーシャ「ちょっと待ってオリバー、それより家の人は?お父さんとお母さん家に居るの?」
オリバー「あん?居るよ。家の中でお菓子食ってるよ」
サーシャ「えっ?うちのお菓子?」
オリバー「違うよ、最近町に来たおばあさんがやってる店のだってよ、サーシャんとこの側に出来た店だろ…」
そう言うとオリバーはフラッとよろめいて倒れそうになった。
それをメニが慌てて近づいて両手で支えた。
メニ「大丈夫?」
サーシャ「オリバー?」
オリバー「うっ…。はっ…腹っ…減った…」
メニ「アンタもしかして何も食べてないの?」
その時サーシャは肩に掛けていたバッグから小さな紙袋を取り出した。
そしてオリバーに言った。
サーシャ「このお菓子あげるから食べて」
オリバー「お菓子なんか食わねぇ」
オリバーは以前から自分の家の仕事がお菓子の道具と材料を売る仕事なので、その事に反抗してお菓子を食べるのを拒んでいた。
サーシャ「お腹空いてるんでしょ?」
オリバー「そんなもん要らねーよ!」
以前から両親による言葉の虐待とも取れる仕打ちが原因だった。
サーシャ「大丈夫よ、お父さん達には秘密にするから早く食べて」
メニ「約束守るよ、安心しな」
オリバー「しゃあねぇな、食ってやるよ」
オリバーはお菓子を食べると徐々に落ち着きを取り戻し、更に表情も穏やかになり食べながら涙を流してオリバーはサーシャに一言言った。
オリバー「美味しい」
泣きながら食べているオリバー。
食べ終わったオリバーに家のなかの両親に話を聞きたいとサーシャは言った。
オリバー「えっ?お父さんとお母さん家の中にいるの?」
オリバーは一瞬、両親のことを忘れかけていた。
そして三人でオリバーの家に入り両親がいる場所まで見に行った。
オリバーの両親は床の上に座り込んで無表情で何も言わず、ただひたすら紙袋に入ったお菓子を食べ続けていた。
まるでゾンビが人間を食らうかのように。
お菓子を噛み砕く音と紙袋の音だけが聞こえてくる。
オリバー「お父さんお母さん、お菓子屋のお姉ちゃん達が話があるって」
聞こえてる筈だが全く反応が無い。
両親は無反応で一心に食べている。
オリバー「なんだか変な匂いがする」
メニ「何の匂い?何か匂う?」
オリバー「なんだか嫌な匂い、死んだ動物みたいなの、僕鼻が利くんだ」
不気味に思った三人はその場を引き上げる事にした。
外に出た三人はオリバーも一緒に一旦サーシャの店に戻る事にした。
しばらく歩いてサーシャの店の近くまで辿り着くと、三人は異変に気づいた。
店のドアが開いていたのだ。
駆け寄ったサーシャ達は無残に破壊された店の中の光景を目の当たりにした。
サーシャ「…うそ」
メニ「…なんで」
オリバー「…えっ」
サーシャ「酷い…」
三人はあまりの酷さに言葉を失い、サーシャは泣き崩れてしまった。
しばらくするとサーシャはある事に気づいた。
いつも首から下げてあるネックレスが無い事に。
サーシャ「な、無い、ネックレスが…」
サーシャの顔から血の気が引いていく。




