プロローグ
サーシャはついさっきまで何かをしていたのに何をしていたのか全く思い出せない。
ふと右手を見てみると食べかけのスコーンの欠片を持っていた。
それを見て不思議に思ったが理由がわからない。
口の中にはほんのり甘い味と香りがする。
それにさっきまで怒っていた筈だが。
やはり思い出す事が出来ない。
サーシャ「…」
理由も無いのに、胸の奥がざわつく。
その時、サーシャのネックレスが何かを喰らったかのようにドクンと不穏な光の脈を打った。
赤黒く異様な光を放ったネックレスは、満たされたかの様に光が収まった。
だがサーシャはそれには気づかなかった。
サーシャは焼き上がったお菓子を並べながら、小さく息をついた。
サーシャ「よし、じゃあ看板出そう」
店の外に出て看板を立てた。
何かを失った事にも気付かぬまま。
それがどういう事かも知らぬまま。
今日もお菓子の店「かしや」がオープンした。
幼い頃。
サーシャは自分の部屋で眠っていた…筈だった、けれど。
夢の中でもサーシャは自分の部屋のベッドで寝ていた。
部屋の隅の方で見知らぬ誰かがこっちを向いて立っている。
サーシャは声を出そうとしたが出なかった。
それは、もう一人の自分だった。
そこに得体の知れない、黒く大きな影が現れた。
そして、その影はこう言った。
影「貴様の片割れはもう、戻らぬ」
不気味な笑い声が部屋中に響いた。
黒い影はもう一人のサーシャを連れ去った。
怖さの余りハッと目が覚めた。
夢の内容を思い出して怯えたサーシャは、おばあちゃんの部屋へ泣きながら走って行った。




