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37:屑とクズ

 アマニダに連れられ由紀は校舎裏へと足を運ぶ。人目を避けているのか、どちらにしろまともな話ではないだろう。

 普段なら二人きりの時間を確保しようとカップルがこそこそと逢い引きしているのだが、今日は不気味なくらい静かだ。


「おっ、来たな」


 由紀が到着してすぐに春人が姿を現す。彼の手には風呂敷に包まれた弁当箱があった。


「由紀、飯にしようぜ。俺作ったんだけど一人分多くてさ。食ってくれると助かるんだけど」


 そう言いながら押し付けるように由紀に手渡す。嫌らしい笑みを浮かべたままで。

 由紀は何も言わない。ただじっと春人の弁当を眺めている。


「……そう。なら」


 片手で弁当箱の端を掴む。そして春人が手放した瞬間に……


「ゴミは焼却処分しなきゃ」


 手から炎が燃え上がり、弁当箱を一瞬で火の塊へと変える。焦げた臭いを撒き散らしながら足下に棄て、何度も憎たらしげに踏む。


「嘗めた真似をしてくれるね。私が魅了魔法に気付かないと思ったの? それとも皆みたいにこう呼んであげようか? 自分がイケメンのハーレムラブコメ主人公だと思っている異常者だって」


 春人は一瞬ムッと顔を歪める。しかしすぐに笑顔を取り繕う。


「何の事だよ。まぁ俺の料理が美味過ぎて魅了魔法レベルなせいかな。誤解だって」


 そう言いながら由紀の頭に手を伸ばす。その瞬間、炎の刀を出し遮った。


「あのさ、人の事言えないけど、堤君って普通の恋愛や女の子とコミュニケーションをとった事無いでしょ」


「…………あん?」


「前もそうだったけど、親しくもない女の子の頭を勝手に撫でるとかキモいだけだよ。それで好意的に思うなんて漫画の中だけ。妄想と現実の区別くらい、子供だってつくよ」


 怒りで手を震わせる春人の背後ではアマニダが笑いを堪え必死に真顔を取り繕っている。

 反論が出来ない。それもそうだ。春人は異世界に召還されるまで異性に触れた事が無い。図星をつかれ今にも殴りたいくらいだ。


「…………いいのか、そんな事を言って。アレ、見ただろ」


「あら何の事? 詳しく言ってくれないかな?」


 脅してみろ、そう闇に言っている。左手にはボイスレコーダーを起動させたスマホ。言質をとられれば不利になるのを春人も知っている。


「あとさ、私の両親って共働きなんだ。今の時間ってもぬけのからだよ」


「……ああそうかい。新城」


 今の状況ではどうにもならないと察したのだろう。手を下げ指を鳴らす。すると由紀の背後から足音が聞こえる。

 振り向くと茶髪にピアスとガラの悪そうな少年が少女を連れて現れる。彼の手にはナイフが握られ少女に切っ先を突き付けていた。

 二人には見覚えがある。春人のクラスメートだったはず。それも彼を嫌悪している生徒達、噂では勇者になる前から春人をイジメていた連中だ。

 次は直線的な脅しに来たとため息をつく。大した問題じゃないとあしらおうとするが、アマニダが驚き後退った。


「ご、ご主人様……どうして?」


「どうしたアマニダ?」


「あれ……魔人ですよね?」


「え?」


 流石に由紀も驚いた。先日の件でさえ稀有な例、魔人が地球に現れるなんて滅多にない事だからだ。

 まさかと思いながらも春人はニヤニヤと笑うだけ。だからこそ確信した。


「流石アマニダ。臭いでわかったかな。おいバルル、顔を見せてやれ」


 新城の身体が震える。すると首から皮膚を突き破り、新しく頭が生えた。


「ひ、ヒィ!?」


 少女は怯え悲鳴を上げる。紫色の、人間とは別の生き物の頭があったのだ。


「ご主人様……」


「安心しろアマニダ。確かに獣人も魔人と対立しているが、こいつらは俺の部下だ。さて由紀」


 春人は包丁を取り出すと少女の顔に突き付けた。彼女を人質にするように。


「実はこれから魔物がこの学校を襲う。俺はこの事件を一人で解決するんだが、一応聞いてやろう。俺のヒロインにならないか? 俺のものになれば最高の人生を送れるぜ」


「…………一線を越えちゃったみたいね」


「ハハッ。何の事かな? 俺は魔物が来るのを知っただけ、魔人も全てが人類と敵対してる訳じゃない。だろ?」


 バルルに同意を求める。


「ええそうですとも。我々は親切心から魔物の襲撃を教えてあげただけですから」


「……白々しい」


 嘘に決まっている。魔人が魔物をコントロールしているのは由紀も知っている。これが自作自演なのは明らかだ。


「まあ、ヒロインにならずとも邪魔をしないでくれればそれで良い。もし邪魔をするなら、朝倉はここで殺す」


 朝倉、そう呼ばれた少女は震える。由紀とも目が合い視線で助けを求めるも、由紀の目に彼女は映っていなかった。

 だからだろう、朝倉は息を呑みひきつった笑顔を春人に向ける。


「ねぇ堤君、私の事怒ってる? そりゃあ今まで悪口とか言ってたけど、実は私堤君の事が好きだったの。恥ずかしくってつい……ね? あれだよツンデレってやつ」


「……そうか」


 春人は一瞬微笑むも、怒りに顔を歪ませ朝倉を殴る。


「ゲっ……」


「おいおい、俺を馬鹿にしてんのか。お前が米倉と付き合ってんのは知ってんだよ、この中古品が。テメーみたいな俺以外に股を開く女はヒロインの資格は無いんだよ」


「手厳しいですな。ああ、この身体もうるさいのですが聞きますか?」


「いいね。馬鹿の負け惜しみが聞けそうだ」


 春人が顎で指示をすると新城の頭が痙攣する。瞳には光が戻り、虚ろな顔に生気が宿る。


「つ……堤ぃ。お前、ATMのくせに。勇者になったからって調子こいてんじゃねぇよ……」


「ハハハ! おい由紀見ろよ。こいつ魔人に身体乗っ取られてんのにイキってんだぜ。自分の状況も理解してない馬鹿だとはな。クズはクズだって事だな」


「ふざけんな! 俺に媚へつらっていたのに……」


「いやぁ愉快愉快。行くぞアマニダ。それと由紀、邪魔をしたらこいつらの命は無いからな」


 春人はアマニダの肩を抱きながら高笑いをし立ち去る。彼らの行く先からは生徒達の悲鳴が聞こえる。どうやら魔物達の襲撃は始まっているようだ。

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