38:ヒーローとして
街の中を緑色のバイクが駆け抜ける。風を切り、法定速度を無視したスピードで走り続ける。
私物のバイクを善継は急がせ、後ろには真理がしがみついている。
街は予想以上に騒々しい。学校を魔物の集団が占拠したのだ。周囲の市民は警察の誘導で避難し、善継と同じように現場に駆け付けるヒーローの姿も見える。
「連日で大規模な襲撃とは……何が起きてるんだ?」
善継がそうぼやくのも無理は無い。単独で魔物が現れるのは多いが、まとまった集団は珍しい。しかも昨日は世界でも数件しか報告のない魔人の襲撃だ。今回も誰かが指揮を取っているのだろう。でなければ占拠だなんて器用な真似が魔物にできるはずがない。
不安だ。嫌な予感に真理は善継に強く抱きつく。
「……大丈夫だ」
彼女の気持ちを察し善継は元気づけるように告げる。
「学校には妹さんもいるんだろ。もしかしたら俺達が来る前に片付けてるかもしれないぜ」
「だといいけど……っ!?」
急ブレーキの音が耳を穿つ。慣性の法則により顔を善継の背にぶつけ頭がゆさぶられる。何が起きたのかわからず混乱していると、善継がヘルメットを外した。
「おい善継、急に止まるな! 危ないだろ」
「降りろ真理。ちょっと面倒な事になりそうだ」
「ハァ?」
何が何だかわからず、善継に言われるがままにバイクを降りる。善継も続けて降り、ヘルメットをシートに載せた。
道のど真ん中で停車したバイクの先には男が一人立ちふさがっていた。善継よりも年下、真理と同じ位か少し上の若い男だ。
「飛田、何のつもりだ」
「すみません先輩……いや、メタルスパイダーさん。申し訳ないんですが、俺がここで立ちはだかる理由は察してますよね?」
拳を握る飛田の手は震えていた。怒り、憤り、そして哀しさに唇も噛み締める。
「…………堤春人か」
「はい。事件は彼一人で解決します。邪魔が入らないようヒーローを追い払えと」
「社長は?」
「娘さんが人質になってますからね。俺達スターカウント総出でやる羽目になってます」
「……そうか。だから」
真理の様子に善継も不思議に感じる。何か知っているような言い方だ。
「真理?」
「さっき言ってたプログラムだ。実はスターカウントから送られていたんだよ」
「そうだったのか……」
ヒーローが勇者を殺せる手段。そんな大層なものを彼女一人だけで作れるとは思えない。
社長もかなり焦っているのだろう。娘が好き勝手に弄ばれているのだ、仕方ない。
「さて、飛田。お前もここにいるって事は、俺達を足止めしに来たって事か?」
「いやまさか。誰一人としてあいつの協力なんてしてませんよ」
笑う飛田に善継もホッと胸を撫で下ろす。
「みんなわざと負けたりして素通ししてます。俺達はヒーローです。文字通り、人々を護る存在ですから。社長もそれをわかって俺達を派遣してます」
「良かった。社長の為って本気で止めにきたと思ったぞ」
「ハハハ。むしろ社長が上手くやれって言ってましたよ」
「そうか。よし!」
ヘルメットをかぶりバイクに跨がる。勿論真理も善継に続く。
「善継、あたしは由紀が暴走しないよう近くにいる」
「そうしてあげてくれ。それに……」
気がつくと飛田以外にもヒーロー達が集まってきた。全員の顔を知っている、スターカウントに所属しているヒーロー達だ。
「あの馬鹿勇者には痛い目に会ってもらわないとな」
『Set!』
「ああ……!」
『セット♪』
二人はメダルをギアに入れる。それと同時にアクセルを全開にし走り出した。
『Something is coming out! What is it?』
走るバイクと平行するように紅白のカプセルと黒い粘液の蝙蝠が飛ぶ。
「ガチャ!」
『Pon!』
「トランス!」
『ドレスアップ♪』
二人の声に呼応し、蝙蝠がバイクごと二人に包み、カプセルが更に飲み込む。一瞬の静寂の後、カプセルを突き破りバイクが飛び出す。
『I'm a predator』
『魔法少女マリリン! ヒャッハー!』
変身しバイクを走らせる二人の後をヒーロー達が続く。着物姿の女性ヒーローは電柱の上を軽々と跳びはね、肥満体のヒーローは身体を丸めボールのように転がる。そして二人と平行し、飛蝗のようなコスチュームに変身した飛田が続く。
「先輩、学校の周りをオークとスケルトンが取り囲んでます。中にはリッチの姿も確認されてます」
「よし、悪いがみんなで道を開けてくれ。学校に突入し、妹さん……ユッキーと合流する。マリリン、頼むぞ」
「ああ任せておけ!」
ヒーロー達は走る。己の使命、人々を護る為に。彼らの心に私利私欲は無い。そこにあるのは己に与えられた力の責務、純然たる英雄の心だ。




