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19:相談させて

 混乱し吹き出したコーヒーでむせる。咳き込みながらも由紀の言葉を整理しながら心を落ち着かせた。

 由紀は今何と言った? 男子から告白されたはまだ良い。勇者になる前から頻繁にあったからだ。しかし相手が勇者となれば話は変わる。

 確かに勇者から言い寄られる事はあった。だがそれは上から目線の()()()()にしてやる、といったおおよそ告白とは言えないような代物ばかり。そんな中で由紀が告白と言ったのだ。


「好きです付き合ってください……って?」


 無言で頷く。


「あー…………それで由紀は何て答えたんだ?」


「一応断った。んまぁ、会長って勇者のわりには普通の人だから……うん、普通にがっくりしながら帰ってった」


「それなら何も問題無いだろ。それとも実はヤバいやつとか?」


「ううん、そうじゃないの。会長の言っていた事がちょっと気になって」


 由紀の声色が変わる。いつもと違う思い詰めたような暗い声だ。


「勇者に釣り合うのは……対等なパートナーになれるのは勇者だけだって」


「…………なるほどな」


 言いたい事は察した。勇者は人間を超えた存在、超常の力を持った化物と呼ぶ者もいる。確かに勇者は基本的に人間だ。生理現象は勿論、血も流れるし心臓や脳を損傷すれば死ぬ。

 しかし勇者を同じ人間と見れない人は大勢いる。


「普通の人にとって勇者は化物。お父さんやお母さんも、私か地球に帰ってきたばかりの頃は……少し怖がっていたもん」


「そりゃぁ知香ちゃんの件もある。あたしも不安だったよ。まぁ基本的に由紀が変わっていないのがわかったからね」


「でも、私のせいで二葉のおじいちゃん達と絶縁する事になったし……」


 由紀に釣られるように真理も表情を曇らせる。ただ悲しそうな由紀とは違い真理は憤りを感じているようだ。

 確かに二人の従姉妹であり玄徳の娘は、勇者によって命を失った。祖父母が勇者に強い怒り、憎しみを抱くのは当然だ。二人だって同じ気持ちだ。


「由紀は悪くないよ。頭の硬いおじいちゃんとおばあちゃんが悪いんだ。二葉の家に候補がいないからってお父さんを……黒井の家を悪く言って離婚しろだなんてさ。勇者が憎いのは解るけど、孫の由紀を化物呼ばわりする時点であたしも見限ったよ」


「お姉ちゃん……」


「兄貴も結婚式の招待状は出したらしいけど、つっ返されたってさ。でも伯父さんは夫婦で来てくれるって」


「!」


 驚き一瞬言葉を失う。

 玄徳の妻とは地球に戻ってから一度も会えていない。いや、彼女から拒絶されていた。当たり前だ。例え身内とはいえ勇者を恐れるだろうし、玄徳と違い直接の血縁が無い。

 だが由紀の前に姿を現すのだ。


「おばさん、私が帰ってから会ってくれなかったのに。私も出るんだよ?」


「そりゃ由紀の事を見直したんだろ。いや、きちんと向き合う気になったのかもな。少なくとも、勇者って()()()()()を見るのを止めたんじゃないか。由紀がヒーローとして頑張ってきたのを見てくれてたんだよ」


「…………」


 椅子から降り由紀の手を取る。優しく、そして強く。じんわりと伝う熱が暖かい。


「大丈夫。由紀を勇者じゃなくて、黒井由紀と見てくれる人はいる。あたしら家族だけじゃない。善継や明美だっている。青山さんなんか由紀にお説教したんだろ」


「そうだね。うん、きっとそうだ」



 心が軽くなったのか、声色も明るくなる。


「まっ、その生徒会長さんをフッたのは少し惜しいんじゃないか? 勇者になる前から会長って事はいろいろと優良物件なんじゃないの」


「もー。そういうの止めようよ。そもそもタイプじゃないって」


 二人の笑い声が部屋を満たす。ごく普通の姉妹の一時が静かに流れていく。

 ただ二人は知らない。遠く離れた地に響く悲鳴を。


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