14:カメラを回すな
「はーい! クックルチャンネルのドゥドゥでーす! 今日はな、なーんと。今、世間を騒がせている奴隷勇者で地球に帰還したぁぁぁぁぁ、尾崎はるなちゃんの病室にお邪魔しました!」
扉を勢いよく開け、紅白頭の若い男が乗り込んでくる。彼には見覚えがあった。以前真理達に突撃してきた動画配信者だ。
彼は手にしたスマホを尾崎の方へ向け、図々しく録画……いや、生配信をしている。
「なっ、おいあんた!」
「何してんだ。部外者は立ち入り禁止だぞ。すぐに出てってくれ」
流石に彼女を見せ物にするような真似は許せない。真理よりも速く、落ち着いた口調で退室を促す。しかしこの男がこちらの話しをまともに聞くはずがない。鼻で笑い善継を見下ろす。
「おおっと、レアなみうみうちゃんのオフ姿だぁ! みんな見てるか? やっぱ俺っ娘なだけあってボーイッシュだねぇ」
今度は善継の方へとカメラを向け、ニヤニヤと下品に笑っていた。気色悪いがこれは好都合だ。少なくとも被害者である尾崎から視線を反らす事はできる。
その隙に布団を尾崎に被せて隠し、由紀は睨みながら歩み寄る。
「ちょっとあんた。いい加減にしなさいよ。彼女は見せ物じゃないんだから」
怒りのこもった声。握った由紀の右手には炎が灯り今にも殴りかかろうとしている。
しかしここは病院。暴れる訳にはいかずぐっと堪える。
「ちょっとユッキーちゃんも落ち着いてさ。勇者が暴れたら危ないでしょぉ? ねぇ」
それを知ってか煽る煽る。ニヤニヤと舐め回すような視線を向けてくる。爪先から上へ。スカートから胸へと吐き気がするような視線だ。
善継も内心悪態をついている。この男に反省の二文字は無いようだ。以前も注意したのにとため息をこぼす。
いや、今はもっと悪質だ。
「だったら今すぐ出てって。どうやってここを見つけたかしらないけど、病院は配信する場所じゃないの」
「そーんなカリカリするなって。みんなもユッキーちゃんにも会えて嬉しいよね? ああ、マリリンちゃんも忘れてないよん」
うげっ、と真理も露骨に嫌そうな顔をした。
「ほらほら、コメントも盛り上がってるよ。リスナーのみんなに挨拶してよ……はるなちゃんもさぁ」
スマホを見せびらかしながら布団へと手を伸ばす。がその手を由紀が掴んだ。
「彼女に何する気?」
「何って、配信に出てもらうんだよ。せっかく地球に帰ってこれたんだからさ。それとも、自分の奴隷だからダメってか?」
嫌味ったらしい言い方で配信のコメントを見せる。奴隷とその主人、それを快く思わない者は少なくない。ついさっきまで由紀達に沸いていたコメントが一気に荒れ出す。
キショ
百合奴隷キター!
ユッキークズじゃん
「……このっ」
言葉が詰まる。自身に悪意が無いと自信を持って言えるが、誰も信じないだろう。何より異世界人ではなく地球人、それも著名人を奴隷にしているのだ。世間から偏見の目で見られるのは当然だろう。
そしてこの男が由紀が一瞬怯むのを見逃しはしない。
「ねぇはるなちゃん、俺んとこ来ない? 俺は君を奴隷になんかしないし、配信者同士いろいろ理解してるよー。他の勇者からも守ってあげられるし」
これが狙いだ。由紀に契約を解かせ尾崎を連れて行くもが目的なのだろう。
もちろん誰も彼の言葉を信用していない。どうせ自分が奴隷にしたいだけだ。
「なによ。あんたは私を奴隷にしたいだけでしょ」
「そんな事しないって。そもそもさぁ、ユッキーちゃんだって信じられるの? ヒーロー活動も忙しいだろうし、俺の方が傍で守ってあげられるけどぉ? みんなもそう思うよね? ほら、はるなちゃんの復帰をみんな待ってるって」
普通ならば批難され炎上してもおかしくはない。しかしこの男は今、勇者として世間に売り込んでいる。その力にあやかろう、おこぼれにありつこうとする者が囲んでいる。
善継も彼を勇者と思い込んでいるせいか強く出れない。何より今は腕っぷしが良い普通の人間だ。
「前、二人に絡んで来た時よりずいぶんと強気なようで。勇者になれて天狗みたいだな」
「ああ、あの時は邪魔なおっさんのせいで散々だったがね。今は違う。勇者になり登録者も二十倍。みうみうちゃんもどう? ほら、みんな見てるよー」
鬱陶しいが視聴者は善継こと魔法少女みうみうの姿に沸き上がっている。
姉の姿だからと今まで営業を最小限にしていたツケだ。今の自分はこの男にとって都合の良い客寄せにしかならない。
(…………あんまりこういう事したくないんだが。いつまでもカメラを回させる訳にはいかないな)
向けられたスマホの内カメラ、その画面に映る己の姿に謝罪するように目を細め深呼吸をする。そして軽く咳払いをし、ウインクをしながら手を振った。
「はぁい、魔法少女みうみうでーす♡」
キツい。そう言われそうなキャピキャピしたあざとい声で挨拶をしたのだ。まるでアイドルのように。




