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魔王の花嫁  作者: 諒夏
2/9

翌日

目を覚ました悠里が観たのは綺麗な女の人。

その人は悠里の使女だった

紅が部屋を訪れた時には誰かが寝かし付けたあとだった。


ふとんにくるまって眠る彼女の額にかかる髪を結く。

幼いが産まれたときから欲しかった花嫁。

どうしても我慢出来なくて無理矢理奪い取った。

彼女を・・・



「ふっ、幼いな」

髪を結く紅の手は優しく、彼 の目は優しい。

「幼いとしても手放す気などさらさらないが・・・」

見つめる視線は愛しく、熱い。

その頬に手を滑らせる。


想い起こせば、悠里が生まれ、まだ4年しか経っていない。

幼いにもほどがあるのだが…

永く生きている紅からすれば4年も待ったのだ。

「そなたは我が妃。誰にも譲るつもりはない。」

覚悟しておくのだな。


それが悠里自身であっても渡さない…

紅は自分自身に語りかけるかのようにそう呟いた。


「んぅ〜?」

小さく声が漏れたが起きる気配はない。

その事に安堵してる自分がいて、紅は目を細める。

はだけた布団を掛け直し、紅はその場を後にした。



自分が望めば沢山のものが手に入る。

そんな生活の中で唯一手に入らなかった存在。


だから余計に欲しくなる。


彼女の様な存在が。



<思い通りになるものなんて飽きた。>


だから思い通りにならないもの、自らと対等でいたいと思うものが欲しい。

紅は本気でそう思っていた


「悠里…」


幼き我が妃。


<我がモノとなれ…


 我と同等の権力、力、すべてをそなたに与えよう。

 

 だから、我が願いを叶えよ。

 

 そなた自身を我に…


 与えたまえ。>


紅は悠里を寝かせている部屋の正面にある窓から手を伸ばし、宙へ向かって手を伸ばした。

彼にとって悠里は月のようなもの。

地上から手を伸ばしても手に入れられない月の君。

だから奪ったのだと。

彼は近づくための障害を。



地上と月を別つ空を断ち切り、月を強引に手にいれた。

「この城からは出られぬ…」


いや、出さぬ。


時間はたっぷりとあるのだから…


ゆっくり我がモノとしよう。


諦めるがいい、悠里。

紅は踵を翻し、部屋を後にした。



その紅を後ろから追いかけるモノがいた。

『いっそ操ったらいいのに?』

「…貴様か」

柄に掛けていた手をはずし、そのまま歩き続けた。

少年は不思議そうに紅を見ていた。

『だって、簡単じゃん。』

魔王様ならそんなの朝飯前でしょ?

なぁんで操らないの?

彼はキャル。魔王である紅の使い魔の一人である。

ウィルと同じ魂を持つ双子の片割れである。

だがウィルとは違い、キャルは正直。

自らの欲に忠実、それと違い、ウィルはどっちかといえば考えてから物事を行う。

正反対の二人を紅は側近として使っていた。


だが、そんなキャルも外見や性格とは裏腹にその戦いぶりは魔界にいる5人の将に匹敵するほどの腕前。


物事がはっきり白黒ついているキャルは軍内を乱すこともしばしばあるが、その後始末もやってしまうため、乱したこと自体がうやむやにされる事もある。


「アレに手を出すなよ」

アレは…我がモノぞ。

『出さないって。』

でも、なんかつまんないなぁ〜〜。


紅はため息をついた。

『だぁ〜って、操った方が簡単だし、絶望に追い込まれたやつほど記憶操作だって簡単…』

キャルが口をつぐんだ。

これ以上は紅の機嫌を損ねてしまうとわかったから。

でもそれ以上に待ってるだけの紅をおかしいとも想ってしまう。


キャルの知っている紅は即決即断だったし、人間に関しては魔界のものは負の気を好むから絶望に追い込む方法をいくつも知ってるのも当然。

それの能力が抜き出ている紅だからキャルは傍にいるのだ。

いつも面白い事を沢山してくれて、負の気も沢山纏ってる紅。

だけど今回の事は勝手が違うのか面白くない。

そうキャルは言っている。



「年若いモノにそれはムリだろう…」

ましてあのモノは契約を交わし、我がモノとなった。これからゆっくりしていく。

何も焦る事はあるまい。

『ふぅ〜〜ん、でもさぁ、ボクはつまんないから勝手にしていい?』

「…アイツ以外ならかまわん」

好きにしろ。

『うわぁ〜〜い♪』

うれしそうに掛けていくキャルに廊下を歩いてきたウィルがきょとんとして立ちすくんでいた。

『…よろしいので?』

心配そうなウィルの横で紅は笑う。

「ぁあ、そうだな、ウィルお前も行け」

あやつ一人では心配だからな…

『御意』

ウィルは頭を垂れ、そのままキャルの後ろを追っていった。



魔界に朝は来ない。

正確に言うならば朝日などは差さない。

ただ、時間が流れるだけ…

その時間を知るすべは紅が人間界より持ち帰った時計というので流れる時間を知る事が出来る。


明けぬ夜が幾ばくか過ぎ、人間界では朝という時間帯…

もちろん魔界に日など差さないが…

そんな魔界の朝といえる時間帯に悠里の元を尋ねた女人がいた。

『おはようございます』

眠っていた悠里を起こし、そっと上掛けをずらす。

眠っていた悠里はそっと目を覚まし、その女性に驚きを隠せない。

『おはようございます。お目覚めになられましたか?』

「…おはよう」

驚きでそれ以上言葉が出てこなかった。

するとその女性はにっこり笑い…

『今日からお世話をする睡蓮すいれんと申します。』

「…おせわ?」

『はぃ。』

笑顔の睡蓮に悠里も攣られて自然に笑う。

『具合は悪くありませんか?』

「…?」

『ではお召しかえを…』

「…おめしかえって何?」

召しかえという聴きなれない言葉に首をかしげた。

『着替えしましょうね。』

着替えるという意味ですよ。

「あ…」

そういわれて頷いた。

着替えを済ませるとすぐに朝食が運ばれてきた。

『では、歯磨きできますか?』

お一人で。

睡蓮の言葉に頷いた悠里。

歯磨きを済ませるとすぐに散歩に連れて行かれた。

『まだ悠里様は幼くていらっしゃいますからね』

まずはこちらに慣れていただきたいんです。

そういって笑う睡蓮に悠里はふと想った疑問を聞いてみた。

「ねぇ、あの人は?」

『…どなたのことですか?』

「紅い髪の…」

怖いのだろう…紅のことが。

途切れ途切れになり、瞳が潤む。

『あの方は紅様です』

「…くれないさま?」

『まさか、お名前も言われませんでしたか?』

あのお方は…

「…(コクッ)」

初めて聴いた。

そう呟く悠里に睡蓮は苦笑いを隠せなかった。

『あの方はこの世界の王様です。紅様とお呼びになった方がよろしいかと』

あなたはあの方の妃、つまり王様と同じ権力を持っていることになります。

困惑したような悠里に一つ一つ解説していった。

どういう意味なのか、どういうことが今悠里に必要なのかを。

「妃…って何?」

『つまり、王様のお嫁さんって事です』

今は一応婚約者という名目になってますけど。


「こんやく?」

ん〜〜と首をかしげ、分からない単語に戸惑いを見せる。

悠里はまだ幼い。

そんなに教え込むのもどうかとも想う。

「あの人…コワイ…」

悠里は涙を流した。

その涙を拭う睡蓮。

「すいれん…」

抱きついた悠里を抱き締める睡蓮。


あの方が悠里の父・母を目の前で殺した事は知っている。

そして、脳裏にそれがよぎっているのも…

『…悠里様、私が傍におります』

「すいれん?」

涙を拭われてる間にも睡蓮は目線をあわせ、額をくっつけた。

『私では到底出来ませんが、お父様やお母様の代わりを勤めさせていただきます』

だから、怖いときは怖い、とおっしゃってください。

一概に泣いていいと睡蓮はいう。

『泣いてもいいのですよ』

そしてそれで分からなければはっきりと言葉に出して呟く。


「……うわぁ…ぁん…」

泣きじゃくりだした悠里を再び抱き締め、背をそっと撫でてやる。

まだまだ甘えたがりの子供を奪い、手に入れようとしている紅を許してやるわけには行かないが、だが、今はただ、泣かせてあげたかった。

わけもわからないまま連れてこられ、あの部屋で一人でいた悠里。

寂しくないように…ツライといえる相手がいるということだけ知っておいて欲しかったから。


紅が出てこないけど、睡蓮と仲良くなった悠里。

少し気が許せる存在をつくってあげたかったんです。

睡蓮は。きっと

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