「八十人の目撃者たち」
ついに、大団円です。
あのすさまじい臨時放送から一週間が過ぎ、世間はゴールデンウイークへと突入していた。もっとも、そんなことなどつゆほども関係なく、混んでいる中田舎へ戻る気力もないからとラジオKINKIの放送は通常通り進行していたのだが。
「――てなわけでして、後日僕らは所轄でこってりお叱りを受けました。が、どうかご安心を。幸いなことに犯人検挙の功績を鑑みてお咎めなし、という具合に運びまして、今しばらくは普通に大学生活を送れることとなりましたっ」
「ほんと安心しましたよ。二人とも退学になったら、私どうしようかとハラハラしたんですからね~」
入ってから三回目となる「水曜日のたわけたち」の冒頭、DJヒゲマルこと日下先輩は先週以来安否を気遣っていた常連リスナーの人々へあいさつをすませ、私はそれを混ぜっ返す役目を仰せつかっていた。
「しかしまあ、あんなにクスリが効くとは思わなかったなあ。やっぱり人魂は余計だったんじゃないか?」
くわえ煙草のままで苦い表情を浮かべる近江先輩に、何をおっしゃるマコトちゃん、と日下先輩はじゃれつく。
「打ち合わせの時にアルコールよりベンジンのほうが青くていいとか言ったの、たしか君じゃなかったっけ?」
「アー、キコエナイキコエナイ、オレ、ナニモシラナーイ!」
片言でそらとぼける近江先輩を見て、日下先輩と私はお腹を抱えて笑ってしまった。普段あまりボケない人がこういうことをすると、テキメンに効果がある。ひとしきり笑い終えると、日下先輩は軽く息を整えてから話をつづける。
「――でもいちばん驚いたのは、あの放送の直後に府警や所轄に大量にかかったっていう電話だったなあ。放送にお寺の名前を入れてたから、あれは京都のどこそこだ、って気にしたリスナー約八十人が犯人の自白のことを伝えてくれたらしいのよねー。いまいるのかな、そうしてくれた人は?」
すると、大量の「はい」とか「わしがやったやで」というコメントがまさに弾幕のように画面上を横切る。それを見た日下先輩は満足そうに、
「あはは、こんなにいたのかぁ。いやあ、思わぬ副産物だったけど、これには助かったね。実はあのあと、こっちでも録音してたテープを警察に渡す予定だったんだけどさ。その録音の正当性を証明するきっかけになったのが、みんなからの電話だったわけよ。今度の快挙はある意味、顔も知らない、名前も分からない画面の向こうの八十人の大勢の目撃者――つまり、愛すべきリスナー諸氏のおかげであったわけです。ほんとに、ほんとにありがとう。まあでも、夜中で人手もなくって対応が大変だったらしいから、こういうことは今後控えてちょうだいね~」
「よく言うぜ、お前最初『電話番号のテロップカードだそうかな』とか言ってたくせに……」
「わーっ、言うなバカッ」
慌てて口元を抑えにかかったがもう遅い。コメント欄は「バレてて草」などの愉快なコメントであふれかえっている。先日の騒ぎがきっかけになってさらに注目を集めたのか、今日は早くも同接が二〇〇へ届きかけている。
「まあまあ、おかげで不届きなひき逃げ魔は捕まったし、被害者のじいちゃんは無事に寺男の職へと復帰しましたわけですよ。――あのコネがなかったらさすがに、墓場は選んでなかっただろうなあ」
墓地のそばであんなことをしてよくお咎めがないものだと思ったが、からくり自体は実に単純だった。お目こぼしをしてくれたご住職には、何か菓子折りでも持っていかなければならないだろう。
「そんな感じで、まずは景気づけに一曲行ってみましょーっ、ザ・フォーククルセダーズで『帰って来たヨッパライ』!」
長々続いたオープニングトークが終わり、休憩がてらの一曲目が早くも鳴りだす。マイクの切れたのを見て取ると、日下先輩はこちらへそっと、あることを尋ねてきた。
「蔵前の彼女、たしかきみの古い友達だったはずだが……あれからどうしてる?」
「さーあ、どうしてるんでしょう? インスタから彼ぴっぴの写真が消えてたから、それなりに荒れてるのは確かですけど……」
こちらの返事に、火のついたハイライトをくわえたまま、日下先輩は困った表情をのぞかせる。
「一番の被害者は、その子かもしれんなあ。まあ、気が向いたら話でも聞いてやりな。戸村にその気があれば、だけれど……」
「今度ばかりはさすがに、可愛そうですもんね――あ」
と、手元にあったスマホに、折よくあかりのインスタの更新通知が届いた。もしやと思って開くと、バキバキに加工の効いた自撮りの上へ「彼氏と別れた!!! もっといい男探す!!!!」という、色々悪い方向へ吹っ切れてしまったらしい、けれども後ろ向きではなさそうな文章がつづられていた。
「――なあんだ、心配して損した」
「おお、よかったよかった。どうせそのうち、またいい男を見つけてくるだろうさ。せいぜい戸村はのろけ話にアテられないよう、身構えときな」
「ちぇー、めんどくさいなあ」
そんな具合で愚痴っているうち、いつの間にやら曲は終わりに差し掛かった。それぞれ進行台本を手に、マイクの前で息を整える。そして、キューサインとともにふたたび、マイクロホンがオンになった。
「というわけでお送りいたしましたのは、ザ・フォーククルセダーズで『帰って来たヨッパライ』でした。ではでは今夜の放送も、十一時までどうぞよろしく……!」
長い夜は、まだ幕を開けたばかりである。
ラジオ「禁忌」のさらなる活躍、物語はまた、近いうちに。




