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プロローグ

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久しぶりに締めたネクタイを緩め、煙突から立ち上る煙を見上げる。


「天国にも、銭湯あるといいな‥‥爺さん」


昨日、最後の常連だった近所の爺さんが逝った。

俺の家は、三代続く風呂屋だ。まぁ、古いだけの銭湯だが。

両親が早くに亡くなり、俺を育ててくれたのは、無口で頑固で職人気質な祖父さんだった。


「‥‥やれやれ、どうすっかなぁ」


思わず後頭部を掻く。というのも、近所に出来たスーパー銭湯に押されて、うちは数年前から閑古鳥が大合唱中だ。

客と言えば―――常連だった爺さんと、忘れた頃に来る、レトロブームだかなんだかでやってくる若い客と、なんちゃらチューバ―って奴ぐらい。


正直、経営はキツイ。


俺は、幸か不幸かアラフォーで独り身。俺一人なら、何とか食っていける。


「潮時かもな‥‥」


臨時休業と書かれた張り紙を横目に、鍵を開けて入る。古い木の香りと、染み付いた石鹸の匂いが漂う。受付の横にある、狭い階段を登っていく。二階は、倉庫兼自宅だ。


「祖父さん、吉田の爺さんがそっち行ったからな」


仏壇にそう声をかけ、絨毯の上に腰を下ろした。


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