↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第一章 ナルス
38/239

朱己の処罰(上)


ーーー


 五家会当日。

 ナルスの政を担う、一条家から五条家の当主及び代理が集ういわばナルスの幹部会だ。


「また朱己なの? 困った子ね」

「そろそろ、厳罰に処したほうがいいのではないですかな」


 思っていた通りの反応が各当主から聞こえてくる。

 音もなく手を上げて場を制したのは一条家当主、一条神威(かむい)殿。杏奈と神奈の兄だ。きれいな紫髪に映える真紅の瞳に貫かれれば、息をするのを忘れて魅入ってしまうほどだ。


「お静かに。白蓮殿からご報告いただいたとおり、昨年の側近の襲撃及び今回の朱己の暴走については、重罪人時雨によるものとわかっている。以前の側近の事件のときには、朱己は自ら処刑し責任を果たしている」


 若くして当主の座についた神威殿は、他の当主にたじろぐ事もなく鎮座している。


「朱己、君から何か説明することはあるかな」


 議長である白蓮伯父上が私を見て促してくる。それに頷いて各当主を見ると、皆こちらを見ていた。


「ご迷惑をおかけし申し訳ございません。神威殿からありましたとおり、以前の側近の件については処刑にて責任は果たしました。今回のセンナの暴走については、処罰は甘んじて受け入れます」

「相わかった。異論はない」


 静まり返る場を見渡すと、神威殿が一度頷く。

 私の言葉に不快感を顕著に示したのは、三条家当主、三条七宝(しちほう)殿。立派に生えたひげが貫禄を感じさせる。


「一条家、朱己は民を危険に晒した。本人も受け入れると言っている。厳罰に処すべきかと思いますがね」

「七宝殿。厳罰、とは?」


 神威殿は表情を全く動かさず、静かに問う。

 七宝殿は一度息を飲んだ後、口を開いた。


「本当は二条家からの追放とでも言いたいところですが、生憎彼女以外に色名はいない。十二祭冠からの除名でいかがでしょうか」


 一瞬で場が凍る。

 隣の父も声には出さないものの、あからさまに不快感を示している。父と対照的に、白蓮伯父上は楽しそうな顔をしながらこちらを見ていた。伯父上は予想していたのだろう。

 伯父上を一瞥したあと、ため息を吐き出して静かに手を挙げる。


「七宝殿。民を危険に晒したことについては、言い訳はございません。処罰は受け入れます」

「おい、朱己! 七宝殿、民に犠牲も怪我人も出てねえ。その処罰はやりすぎだ」


 四条家の代理の席から、夏能殿が叫ぶ。

 対照的に、隣の四条家当主の夏采殿は、白蓮伯父上同様楽しそうにこちらを見ていた。


「夏能殿ありがとうございます。……七宝殿、一つよろしいですか」

「なにかな」


 七宝殿は、得意げにひげをいじりながらこちらへ視線を移した。


「幾度となく、侵入を許しているのは十二祭冠であり、次代長である私の失態です。今回の件も、侵入がなければ暴走はなかったでしょう」


 皆が静かに私を見ている。私の発言の真意を探っているのだろう。


「隠密室とも連携を取り、結界の機能を都度変えてきましたが、罪人時雨には効きませんでした。故に私と隠密室の力量と連携にも問題があると考えています」

「朱己、何が言いたい?」

「本来国を守るために隠密室を設置しておりますので、隠密室を機能させなければ意味がなく、今後は私の責任で行います」


 完全に七宝殿の顔色が曇った。

 卓の上で握りしめている手はわなわなと震えている。それもそのはず、隠密室は元来三条家の家業であり管轄としてやってきたからだ。


「仮に十二祭冠でなくなろうと、次代長として私が行うことは変わりません。幸いにも、私の側近は隠密優位であり、隠尉になる素質もあります。つきましては、隠密室の長である隠尉にすべく育てていく所存です。隠密室を立て直し、国の防御を高めます」


 私の言葉に七宝殿は顔を真っ赤に染め上げ、激しく卓を叩いて立ち上がった。


「隠密室に手を出すとは! 三条家の家業を奪うと申すか!」


 卓を叩きながら、立ち上がる七宝を、息子である三条家代理の珊瑚(さんご)が止めた。瑪瑙の弟だ。


「父上! 落ち着いてください、我が家には今隠尉になれる者はおりません。恐れながら、十二祭冠の座を空け続けることは国の安全に関わります……」


 瑠璃(るり)姉の死後、三条家に隠密の能力を持つ者で十二祭冠になれる程の者はいない。七宝殿が大層負い目に感じていることは、口にこそ出さないものの、ここにいる全員がわかっていたことだ。あえて自分の側近にと言ったのは、七宝殿にわからせる為。


「七宝殿。たとえ家業であろうと、十二祭冠は各属性の最高位であり、能力が全てです。それを判断するために、十二祭冠を決めるための対戦の場は定期的に開かれていることは、七宝殿もご存知のこと」

「……朱己の言うとおり、十二祭冠は本来、家に縛られず力で上がっていく者たちのために作られたもの。家で縛るのは本意ではないな」

「そうねえ、これに関しては神威の言うとおりだわ。そもそもは、家業で囲わないための施策でしょうし?」

「朔(さく)、貴様……!」


 七宝殿を横目に、爪を撫でる五条朔殿。五条家当主だ。

 神威殿が制すように手を挙げる。


「七宝殿、それが紛うことなき十二祭冠だ。この国に住むものなら、人間だろうと中央の者だろうと霊獣だろうと、能力があれば誰でもなれる。家業と息巻くならば、能力者を育て出せばいいのではないか」

「一条家……!」

「最後まで聞け。先程処罰として、朱己を十二祭冠から除名という話があったが、仮に朱己を除名したところで今彼女に炎属性で勝てるものはいない」


 神威殿が七宝殿を見つめれば、七宝殿はまた卓を叩き、勢いよく椅子に腰を下ろした。

 誰にもわからないように深呼吸する。


「……先程も申し上げたとおり、私の処罰は決定すれば甘んじて受け入れます。しかし、私の役目はこの国を守ること、健全に国を運営していく基盤を構築することです。そのために、できることは全て行います」

「暴走した分際で、ぬけぬけと……!」

「七宝殿、お怒りは百も承知です。国のために、私が十二祭冠になることが直結する、側近を育てることが直結するのであれば、除名されようと何度でも十二祭冠になります」


 怒りを顕にする七宝殿と私の睨み合いは、僅かに殺気さえ漂う。七宝殿の隣の珊瑚が、酷く狼狽えていた。


お読みいただきありがとうございます。

下につづきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。