瑪瑙の本音と葉季の覚悟
朱己の暴走編、一先ず集結です、次から新たな展開になります。
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朱己と父の部屋を後にして、廊下を歩く。
「……改めて、わしは瑪瑙のところへ行ってくる。申し訳ないことをしたからのう」
わしの言葉に朱己も頷きながら俯いた。
「お主のせいではない。わしが自分の想いを、父上から止められたせいにして一度諦めたのがそもそもの原因だ」
結果として瑪瑙に叱咤される事になって、軌道修正できたわけだが。
「瑪瑙のところへは、わしが一人で行く。お主は、まだ休んでおれ」
「そういうわけにはいかない、私だって迷惑をかけたのだし……」
大分思い詰めたような顔をする朱己を横目にしばらく考えていると、突然朱己の足がもつれた。
「わっ」
「っ危ない……ほれ! まだしばらく寝ておれ! ったく、歩けるなど嘘ではないか!」
「はは、歩けると思ったんだけど……」
咄嗟に受け止めることができたが、どうやらまだ体の痛みはひいていないようで歩き方などもぎこちなかった。抱き抱えて薬乃のところへ連れていき、抜け出すなよと念を押した。
「さて、と」
向かう先は、三条家。
三条家を訪れると、瑪瑙以外は居なかった。
瑠璃と婚約しているときによく通った家。亡くなってからはあまり来てないからか、随分と久々だ。
昔へ思いを馳せながら、瑪瑙の部屋へ行く。
「瑪瑙。わしだ、葉季だ。話をしたい」
扉を叩くと、しばらくして扉が開いた。
「入って」
「うむ、お邪魔する。すまぬな、突然」
首を振りながら迎えてくれた瑪瑙は、相変わらず整った身なりだった。
「この度は、本当に申し訳ないことをした。すまなかった」
深々と頭を下げる。
しばらく下げたままでいると、瑪瑙が口を開いた。
「……姉様があなたと婚約しているときから、好きだった」
思ってもみない言葉に目を瞠った。
眉間に皺を寄せたまま、思わず顔を上げた。
「三条家は、代々隠密を家業とした隠尉を担う一族。姉様も例に漏れず、隠尉だった」
わしの元婚約者である瑠璃は隠尉で、わしと外勤のときに敵の襲撃に遭い、力を使いすぎて亡くなった。その後から、隠尉は今までの間不在だ。
「でも私は、隠密の能力が顕出しなかった。三条家にしては珍しい氷雪系の一強。もちろん、一族の中では役立たずの烙印を押されていた。姉様は守ってくれたけど、風当たりは強かった。でも、あなたは私に分け隔てなく接してくれた。……嬉しかった」
「お主も……虐げられてきたのだな」
こちらを見ずに、遠くを見ながら言葉を紡ぐ彼女はとても儚い存在のように見えた。先程父から聞いた話と重なって、心が苦しくなる。
「でも、姉様が亡くなってあなたはここに来なくなった。あなたが辛いときに、私は何もできなかった。やっと十二祭冠になって、肩を並べられると思ったときには、あなたはもう前に進んでいた」
「瑪瑙……」
名を呼んだものの、言葉が出てこない。
今彼女に、何と声をかけたらいいのかわからず、視線を落とした。
「三条家当主である父に婚約の打診をしたのは私。まだ葉季が朱己への想いに気づいてなさそうだったから。でも、結果してそれが気づかせるきっかけになってしまったわね。後悔はしてないから、気にしないで」
「あ、ああ……すまぬ」
「なぜ謝るの?」
「すまぬ……としか、言えぬ」
目を伏せると、彼女が小さく笑ったのが聞こえた。
「葉季、朱己は私達が支えるべき存在。そして、紛う事なき私に雹尉という道を示し、居場所を与えてくれた恩人。色恋沙汰を経て泥沼になることは私は望んでいない。元々、これは叶わない恋だった。もう私もいい加減前へ進む。だから心配しないで。でも……」
「……でも?」
思わず復唱してしまった。
瑪瑙と目が合うとまた小さく笑い、そして真顔になった。
「朱己を大切にできないなんてこと、許さない。私のことを振っておいて、選んだ相手を幸せにできないなんて許されないからね」
その目は本気だった。人を殺すときのように。
一時でも本気で想ってくれた人がいたという事実と、その人を振って選んだ道だということを再認識する。彼女に向けられた視線を正面から受け止めて、強く頷いた。
「ああ、任せてくれ。二度と朱己を独りにはしない」
わしの言葉を聞いて満足したのか、瑪瑙は笑って頷いた。
安心してしまったのか、わしはずっと引っかかっていた懸念を口から漏らしてしまった。
「……十二祭冠にも、謝らねばならんのう」
定期会合で報告し、本番で中止にしたのだから、驚かせたに違いない。落ち込むわしと対照的に、彼女はあっけらかんと答えた。
「それなら問題ないわ。もう当日、あなたが出て行ったあと説明済みよ。私があなたを振って、あなたは朱己を選んだと」
「おっ……」
強烈な事実に言葉を失う。
そんなわしが可笑しかったのか、瑪瑙はまた笑った。
「お幸せに」
「うむ、ありがとう。……では、失礼する」
頭を下げてから部屋を出て、扉を閉める前に部屋の中の彼女へ一言。
「わしは、今もお主を大切な義妹だと思っておる。心の底から、幸せになってほしい」
少しだけ目を見開いてから、瑪瑙は無言で頷いた。
——瑠璃。わしも、前へ進む。見ていてくれ。
そう心のなかで誓いながら、三条家の屋敷をあとにした。
お読みいただきありがとうございました。
次の展開もお楽しみに




