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朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第一章 ナルス
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誰が為に舞う


 婚約の儀は夕方から始まる。意外と冷静でいられているのが不思議なくらいだ。

 思わず自嘲気味に笑ってしまうが、今日は着飾って舞うのが役目。鏡を見ながら朱公と薬乃に髪飾りをつけてもらい、化粧は母がやってくれている。


「朱己、もう少しお腹のそこから笑わないと。せっかくかわいいんですから」


 目の前で母が笑いながら頬紅をさしてくれている。

 口角を上げれば、母は笑って頷いていた。


「朱己の髪は朱色だから、この藍色の髪飾りは栄えるわね。ね、法華」

「ええ、本当に」


 薬乃が髪の毛を束ねながら髪飾りをつけてくれる。元々整髪したり切ったりするのが得意な薬乃は、慣れた手付きで進めてくれ、すぐに終わった。


「ありがとう、助かった」

「いいえ! 綺麗よ、朱己。舞、頑張ってちょうだいね」


 笑顔で頷くと、三人は部屋から出ていった。

 あと一時間ほどで始まる。

 せっかく着飾ったのだから、墓前で少し舞の練習も兼ねて舞うことにした。

 瞬移で秘密基地に移動すると、黄昏時というだけあって薄暗く、仮に誰か居ても顔はわからないだろう。

 軽くて薄い布を重ねて作られた舞装束は、少し透けている。勿論見えてはいけないところは透けない布を巻いているため、問題はないが。

 鈴がいくつもついた剣を両手に持ち、鈴を鳴らすように高く跳ぶ。

 跳ぶのに合わせて、髪の毛も靡き、神経は手の先足の先まで研ぎ澄まされていく。


「美しいな、朱己」


 突然聞こえた声に舞をやめて着地すると、そこには布を目深に被った男。


「……だ」


 嫌な予感がする。

 いや、予感ではなく確信している。

 このセンナ、この気配。

 覚えている。忌まわしき記憶とともに、鮮明に。

 臨戦態勢に入ると同時に、思い切り首を捕まれた。


「伯父っ……がはっ!」


 地面から足が離れ、息を吸い込むことができない。

 締め上げる時雨伯父上の手を、必死に握り炎を練り上げると、灼熱の炎が伯父上の手を燃やしていく。

 伯父上は特に焦ることなく、私の首から手を離さずに言葉を紡いだ。


「二条家の隠し事が、何かわかったかな? 朱己」

「し、り……ません! ……ぐっ」


 首を掴まれたまま、地面に思い切り叩きつけられ視界が反転する。

 目の前には笑顔をたたえた、仇である伯父上。

 反射的に、隣に落ちていた舞用の剣を掴み伯父にむけて振るう。伯父は腕で刃を受け止めると、私の手首を叩き剣を落とした。


「心に迷いがある。その程度では、私のことは到底傷つけられないな。思い出せ、憎しみを。これが、仇の顔であることを」


 顔をくっつきそうなほど近づけてくる伯父上の頬を、反射的に叩き飛ばした。

 それまで伯父上によって堰き止められていた空気が勢いよく喉を通り抜けて、思わず咳き込む。


「素晴らしい、朱己。それでいい」

「はぁ、は……っ、伯父上、遊んでいるのですか?」


 叩き飛ばされた伯父上は、ただにやりと気味の悪い笑みを浮かべてこちらを見ているだけで、私が臨戦態勢になろうとどうでもよさそうだった。


「私は、二条家の闇を知っている。間違いを正したいだけなんだよ、朱己。それには、お前が必要だ」

「知りません」


 二条家の闇。

 それが何なのかはわからない。しかし、以前時雨伯父上が、白蓮伯父上や父(弟たち)に聞けと言っていたということは、恐らくあの人たちは知っているのだろう。

 それが、時雨伯父上の動機。

 知りたくないと言えば嘘になる。

 ただ、それを知って同情する気はない。


「朱己、お前もこちら側に来い」

「行きません」


 舞用の剣を拾い、炎を纏わせる。

 炎は業火のように栄えたかと思えば、静かに刀剣にぴったりと添う。炎の温度が上がっていくように、剣を纏う炎は白から青へ変わっていく。


「……そういえば今日は誰かの婚礼かい?それとも婚約かな。朱己が舞人ということは……葉季の、か?」


 口角を上げて笑う伯父上に、答えることもせず刃を向ける。


「関係ない、伯父上のためではありません」


 反射的に睨むと、伯父上はわかっていたかのように笑う。


「白蓮は本気のようだな。それならば……」


 言い終わる前に伯父上の懐に低く踏み込んで胴を斬りつける。

 伯父上の体は切れているのに中身がない。

 思わず目を瞠ると、思い切り蹴り飛ばされ、間髪入れず馬乗になってきた。


「無駄だ。体はここにはないからな。確認のためにあえて切り込んだのかい」


 睨みつけながら、触れられない時雨伯父上の体の仕組みを必死に考える。伯父上は私に触れられるのに、だ。

 伯父上は心底おかしそうに、赤い水が入った瓶を取り出した。


「少しお前には働いてもらう」


 伯父上は右手に紅い水を纏い私のセンナに撃ち込んできた。

 直接センナに攻撃を食らい激しく慟哭する。


「何を……! うっ……あっ」


 本能が警鐘を鳴らす。

 全身から汗が噴き出し、胸を押さえるが慟哭は止まない。

 寒くないのに手は震えている。


 このままでは危ない。

 力が溢れて、とめどなく溢れて。

 自分の力に恐怖さえ覚えるほどに。

 恐怖の先に不思議と冷静な自分が、叫んでいる。

 センナが。


「ひと暴れ、してもらうよ」


 最後に見たのは、伯父上の気味の悪い笑みだった。


お読みいただきありがとうございます。

近々更新します!

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