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朱色の雫【改稿中】  作者: 弦景真朱
第一章 ナルス
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六芒の市松(下)


改稿の合間に続編を書いているので誤字脱字等ございましたらご報告いただけますと幸いです!!

お読みいただきありがとうございます!!


本話、多少血が飛んだり腕が折れたりしてます。


ーーー


 朱己が闇の空間に閉じ込められて、どれほどの時が過ぎたのだろう。

 空間の外から夏能殿が融和を何度か試みるも、拒絶され弾かれてしまう。その様子を見ていた壮透叔父上がしばらく考えていると、後ろから声がした。


「壮透様。僕が試してもいいですか?」


 車椅子に乗った爽やかな青年。彼の名は光琳。十二祭冠の一人、光尉だ。

 彼は、生まれつきセンナが朽ちていく病気を患っており、基本的には休養していることが多いが、その能力は光尉の名に違わず、目を瞠るものがある。


「光琳、起きていて大丈夫なのか?」


 わしの問に、光琳は笑顔で頷く。


「葉季大丈夫、今日は調子がいいんだ。壮透様、久岳と朱公の修行には僕も付き合っていました。……彼を助けたいんです」

「……任せる。無理はするな」


 叔父上の言葉に光琳も頷いた。

 車椅子を自在に操り、空間の近くに行くと、空間をしばらく見てから振り返った。


「なるほど。ブラックホール、ですね」

「ぶらっく……ほうる? なんだそれは」


 光琳の謎な言葉に首を傾げる。耳馴染みのない言葉に、思わず怪訝そうな顔までしてしまう。


「遠いどこかの国の文献を読んだときに、たまたま見つけたんだ。星の最後の姿の一つで、光さえも全て飲み込んでしまう穴だよ」

「それなら俺も知っているぜ。闇属性の力は拒絶、それを突き詰めていく果てにあるのは、まさしく何もかもを飲み込み消し去る姿だ、修行中に読んだ記憶がある」


 夏能殿が言うのだから、おそらくこれが闇属性によって生み出された、ブラックホールというのは本当だろう。それ自体は興味深いが、今はブラックホールについて聞いている場合ではない。


「ブラックホールはわかったが、それがなんだというのだ?」


 わしの焦りなど取るに足らぬように、笑顔で答えながら光琳は続ける。


「その研究はまだ諸説あって、わからないことも多いんだけど、ホワイトホールっていう穴から、ブラックホールに飲み込まれたものが出てくる、という説もあるんだ」


 彼の言葉で理解し、手を叩いて相槌を打った。


「そういうことか!」

「闇の融和ができないなら、光でこじ開けよう。このブラックホールに、ホワイトホールを開けよう」


 彼は車椅子から立ち上がり、空間に手をついた。


ーーー


「がはっあああうっ……がああ……っ」


 もはや拷問とも言える攻撃を繰り出し続ける。

 眼の前で叫ぶ彼は、私に掴まれた腕をなんとかして引き剥がそうとする。

 既に彼の顔は血まみれ、もう片方の腕は何箇所か折れている。ついでに内臓もいくつか破裂しているようで、何度か吐血していた。


「久岳を……離せ!」


 容赦なく腕を掴んだまま壁に激突させる。

 激突させるだけではなく、掴んだままの腕はずっと炎で焼き続けていた。肉が焼ける特有の臭いが鼻をつんざくが、今の私にとってはどうでもいい。

 ーー仮にも、側近の体なんだがな。

 容赦ない攻撃を与え続ける私に、彼は信じがたいと言わんばかりに睨みつけてきた。


「死にたくなければ、久岳のセンナを返せ」


 彼の腕をひねり上げながら馬乗りになる。


「し、朱己様、それは無理ですよぉ」


 もうセンナは取り込まれる寸前だ。

 彼が血塗れになるまで痛めつけられているのに、頑なに逃げ出さないのを見るからに、おそらく敗走すれば時雨伯父上からの処罰があるのだろう。

 問答無用で彼の背中から左手を突き刺さした。


「がはぁっ……!」


 思い切りセンナを掴む。脈打つ心臓をそのまま握られ恐怖する彼の姿は、蛇に睨まれた蛙のようだ。

 身をよじって抵抗しようとするが、私の左手が阻む。


「久岳! 私の声が聞こえるか、まだセンナは完全に混ざっていない! 全力で闇の力で拒絶しろ!」  


 私が叫んだ瞬間。

 空間に、謎の穴が空いた。


「!」


 どこが果てかもわからない、上下左右を奪われるほどの闇の中、目の前に光が差し込むと咄嗟に目を瞑った。


「朱己!」

「久岳!」


 空間の外から私の名前と、久岳の名を叫んでいる者たちがいる。だが、それよりも側近のセンナを取り戻さなければ。


「久岳!」


 センナをさらに強く握る。もはや息ができず、金魚のように口を開閉させているが、空気が取り込まれないのか苦しそうだ。

 同時に弾き飛ばされるような衝撃と共に、何かが彼の体から飛び出した。


「久岳……!」

「な、何が起きたんです!?」


 空中から聞こえる謎の声。

 飛び出した彼のセンナは、完全に久岳の体から離れたようだ。

 おそらく先程空間に穴が空いた際、市松の精神が揺らいだことにより、センナに油断が生まれたのだろう。


「とんだ失態だ……」


 信じられないと言わんばかりに聞こえる謎の声。

 私はただ声の方向を睨んでいた。


ーーー


「早く朱己をこの空間から出しなさい、葉季」


 父の声に我に返り、夏能殿と共に急いで朱己と久岳のところへ駆け寄った。


「もう大丈夫だ、よく頑張ったな」


 夏能殿が見るからに重傷の久岳を抱え、直様空間から出る。わしも朱己を担いで出ようとすると、朱己に拒まれた。


「朱己? 早く出るぞ」


 言葉が聞こえているはずなのに、先程飛び出した市松のセンナから目を離さない。


「あれを破壊するまでは、出れない」


 その直後、そこはかとない恐怖が背筋をなぞった。

 この空間に、何かいる。そう思った。朱己を見ると朱己もまた何かを感じたようで、手を握りしめていた。

 次の瞬間、闇の向こうから聞こえた声に耳を疑う。


「これは、市松、無惨な姿だ。失敗したのか」


 思わず息を呑み、朱己の腕を掴んだ。今朱己と戦わせるわけには行かない。重傷ではないにしろ、万全ではない。


「離して、葉季」

「深追いは危ない、今は駄目だ! 今は早くここから出るのだ!」


 時雨伯父上の声がした方向から、目を離さない朱己の腕を引き、抱えるようにして無理矢理空間から出る。朱己は抵抗していたが、強制的に連れ出した。

 振り返ると、空間との狭間から時雨伯父上がこちらを見て笑っていた。


「久しぶりだな。弟たち。次は、朱己を迎えに来る」

「そう簡単には渡しませんよ、兄上。その際には丁重におもてなしさせていただきます」

「楽しみにしているよ、白蓮」


 そう残して、稽古場全体を占めていた謎の闇に包まれた空間ごと、綺麗に消え去った。

 

「っ……なんで止めたの!? 葉季!」


 怒りを隠すことなく、わしの腕に抱えられたまま怒鳴る朱己を見下ろしながら、薬乃のもとまでいく。


「お主は伯父上に対する怒りに囚われて、今の目的を見失っておる。優先は久岳の奪還であったはずだ」


 図星であったのか、あっという間に大人しくなった朱己を下ろして、肩に手を置いた。


「無事で良かった。お主に万が一のことがあれば、わしは……」

「……え?」


 朱己が怪訝そうな顔でこちらを見るが、次の言葉が見つからずに黙ってしまった。

 自分の言葉に焦りを隠せない。


「とにかく、久岳が無事で何よりだ」


 話をはぐらかしてしまったが、心配なのは久岳だ。薬乃が全速力で体を治療しているが、まだ意識は戻らない。

 久岳を抱える朱公へ朱己が駆け寄り、久岳のセンナを確認する。


「センナは無事か……良かった」

「安心しなさい朱公、朱己。大丈夫よ。すぐ治るわ」

「ありがとうございます……! 朱己様も、久岳を殺さずに助けてくださってありがとうございました……っうっ」


 耐えきれず涙を流す朱公を見て、朱己の顔が少しほころんだ。

 その様子を見ながら、わしは何やら心の奥底に募る何かに気づいてしまった気がしたが、それはまた別の話。


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