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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
番外編
91/92

湖の守護者~相反する心~

 “僕はとても運が良いのです”

 冷静になった今考えてみても、あれはやっぱりおかしな発言だったと思う。

 …それなのに現在私の隣にはマーヤが歩いている………


 何故だかマーヤの言葉には重みがあった。

 いや、言葉ではなくマーヤ自身の気迫に負けてしまったというべきだろうか………


 マーヤは自分のことが気に入らないのなら今すぐ城まで送り届けると言ったが、私はそれを自ら拒否してしまった。

 マーヤとの間に感じた圧倒的な実力差が悔しかった…このまま帰ってしまっては、一撃も当てることすら出来なかった自分の負けを認めてしまうような気がして………


「魔王はこのセルディア大陸にいると思われるのですが…まずは僕たちも仲間を増やしてから挑みたいと思います」

 先ほど自分に向けて、敵意むき出しに攻撃を放った相手にするとは思えない笑顔でマーヤは言う。

 …今は敵わない。正直にそれは認めよう。

 いくら強大な魔力があっても、当てることが出来なければ意味がないのだ。

 まずはマーヤの言う“運の良さ”とやらを解明しなければ………


 …でもまずは少し、がっかりさせてやるのもおもしろい。

「マーヤ。町では私は国ひとつ滅ぼせるだとか、死者を生き返らせることが出来るだとか噂になっているけれど」

「…そうなのですか。それは頼もしい」

「あんなものは全て嘘。事実無根よ!残念だったわね!」

 嘲笑うかのように、派手に笑い飛ばしてやった。

 がっかりするでしょうね………その力が目当てでこんな場所までやって来たというのに―――

「そうなのですか」

 マーヤは表情ひとつ変えずに歩き続ける。


「…ちゃんと聞いてるの?魔王と戦うのに何の役にも立たないのよ?」

 私が真実を話してやっているというのに、どこまでも人を馬鹿にした態度を取る人間ね………!

「先ほど僕を脅したあれほどの魔力があれば、他に何を望みましょう」

 突然私の方を振り返ったマーヤの瞳は、真剣そのもので…思わず言葉を飲み込んでしまう。


「それに僕の幸運を持ってすれば、一撃で魔王を吹き飛ばしたり死者を甦らせる魔法など必要ありません」

「もちろん、セルディアの美しき王女様に傷ひとつ付けることすらさせませんので」

 そう言ってマーヤは自信たっぷりににたりと笑ってみせた。


 こんな人間がいるのか。

 こんな奇天烈なことを言う人間が………その奇妙さといったらまるで物語の登場人物だ。

 鼻歌交じりに数歩先を歩くマーヤは、これまで出会ったどんな人間とも違う。

 そのあまりのことに驚いてしまった私の身体は、この違和感を胸の激しい鼓動で処理しているようだった。



 ―――



 マーヤと旅を始めてから、それなりの月日が経った。

 途中驚くようなこともあったがそんな中、ひとつだけ分かったことがある。

 マーヤの“運の良さ”とやらは特殊能力でも何でもない。

 …ただずば抜けた身体能力を持っているというだけのことだったのだ………


 マーヤは抜群の反射神経と俊敏さで敵の攻撃をかわすことが出来、鍛え抜かれた槍術でどんな相手にも対応することが出来る。

 それを本人は運が良いからなのだと思い込んでいるだけ…というのが真相だった。

 さらには日常のどんなこともラッキーだと捉えることが出来る性格であるため………つまりは無敵。ある意味最強の人物である………


「ルーちゃん!これ食べてみない?」

 ふいに仲間の一人が、満面の笑みで菓子を差し出しながら私に語りかけてくる。

 …そう、なんと私にも仲間が出来たのだ………城にいた頃は家族以外みな私を恐れていて、友達と呼べる存在もなかった。

 だから初めの内はマーヤが仲間を増やしてもどう接して良いか分からなくて、距離を作っていたけれど…


「僕もいただこうかな」

 そこでもマーヤがうまく橋渡しになってくれて、いつの間にやら親しく話せるようになっていて………

 気が付けばマーヤ抜きでも仲間達と楽しくその空間を共有出来るようになっていた。


 そんな訳で、今やマーヤには感謝しかない…あの時、変な意地だったけれど城に帰らなくて本当に良かった。

 城に籠っているだけでは、こんなにも楽しい世界のことなど一生知ることも出来なかったのだから。


「ルクシメニア様。出発の準備は整っていらっしゃいますか?」

 マーヤの優しい声が私に向けられる。

 …私は、この声が好き。

 艶のあるさらさらの髪も、くりくりとした垂れ目も、皆を惹き付ける太陽のような性格も………マーヤの全てを好き。


 …けれど………


「…マーヤはこの旅が終わったら…どうするの」

「僕は…そうですね、小さくても良いので新たに町を創りたいと思っています」

「町………」

「ルクシメニア様は、素敵な王子様とご結婚なされるのでしょうか?はたまた魔法の研究者もお似合いですね…それとももしや、女王様ですか?」

「………ええ。…どうかしらね………」


 …これは決して許されることのない、禁断の想いなのだ………



 ―――



「…この扉の向こうに、ヤツがいます。皆さん準備は良いですか?」

 重厚な扉を片手で押さえながらマーヤが言う。

「ついに我々の努力が実を結ぶ時が来たのですね…」

「いつでもおっけー!暴れてやるよ~っ!」

「誰一人欠けることなく、終わらせるぞ!!」

「………」

 ついにこの時が来た。

 いつから存在するかも不明であるセルディアの高い塔………初めからここに魔王がいるということは分かっていた。

 闇雲に探していた訳ではない。マーヤの緻密な計画通りに仲間を増やし、鍛練を重ね戦術を練り…ここまで来た。

 つまりあっという間にここまでたどり着いたのも、すべて初めから決まっていたこと………


「ルクシメニア様。引き返しましょうか」

 ふと気が付くと目の前に心配そうな顔をしたマーヤがいた。

「…大丈夫。ごめんなさい…少しぼうっとしていたわ…」

 …だめ。集中しないと………

 余計なことを考えてはいけない。

 この戦いが終わってしまったら…だなんて。


「行きましょう」

 私を気遣ってくれる仲間たちを心配させまいと、私は自らその扉に手を掛けた。



 そこから先の戦いは非常に激しいものだった。

 今日のために必死に鍛練を重ねてきたけれども、仲間たちは一人、また一人と倒れていき………やがて立っているのは私とマーヤだけになっていた。


「マーヤ!私がヤツの動きを封じるわ!!その間に…!」

「分かりました!よろしくお願いいたします………これで終わりにしましょう!!」

 マーヤが合図をした後、私たちは魔王を囲むように反対側に飛んだ。



 …うるさい。うるさいの。

 ずっと頭に響くその不快な声。

 そんなものに引き込まれてはいけない。分かっているでしょう、ルクシメニア…!!



 ―――“インセルズの王女よ、我のもとへ来い!!望みのものを与えてやろう!!”―――



 ………でもね。

 これが、この戦いが終わったら、マーヤ。


 あなたは私のもとを去ってしまうでしょう?


「ルクシメニア様!!今です!!」


 こんなに苦しい戦いだけれど


 このままずっとこの戦いが続けば―――


 あなたは私をずっと守ってくれるのよね?


「………っ!…滅びなさい!!魔の者よ!!…」



 ―――



 ………ねえ。

 誰か私のことを軽蔑して頂戴。


 私の魔法は確かに魔王を捕らえていたけれど


 思いは真逆を向いていた、この私のことを


 誰か罰して頂戴………



 私が邪な思いを抱いていたその時、マーヤの槍が虹色に光り輝きながら魔王の身体を貫いていた。



 ―――



 あの戦いから数ヶ月が過ぎた。

 私は何度も何度も読み返したぼろぼろの紙切れを握りしめて湖のほとりに佇んでいた。


 王女に戻った私は、時間を見つけては会いに来てくれる仲間との交流以外は昔と変わらぬ生活を送っていた。

 お父様もお母様もお兄様も、私の功績を讃え女王の座を推薦してくれている。

 だがそんなものは私にとってどうでも良いことであった。


 私の一番欲しいものは手に入らない。

 少し前に城に届いたこの紙切れにそう書いてある。

 何度読み返しても、愛しいその文字は私の望むようにその形を変えてはくれない。



 …うるさい。うるさいの。

 あの日からずっと………私の頭に直接響く声。


 そしてそれに…だんだんと引き込まれてしまいそうになっている、情けない私の意思。



 “…我の復活の為に尽力しろ………!”



 どうやらあの戦いで、私はとんでもないものを連れて来てしまったようね。

 …そしてどうやらもうこの身体ごと………捧げてあげるしかないみたい。

 そうでないと………


 裸足のまま、美しい湖へと歩んで行く。

 まだ水も冷たく感じる季節だけれど…この紙切れがあるだけで不思議と暖かい気持ちになれる。


 憎くて愛しいこの紙切れが、あなたが最後に私にくれた宝物。

 恐怖に負けて引き返してしまいそうになる弱い私の心を、支えてくれる宝物………


 さよなら。マーヤ。

 あなたの望むままに、こいつと一緒に心中してみせるわ。

 あなたはこんなやり方、きっと望まないだろうけど………






 ―――親愛なるルクシメニア・インセルズ様


 お元気でしょうか。ろくに顔も出せずにすみません。

 私は元気にしております。


 共に冒険した際に、人の手の入っていない土地があったのを覚えておいででしょうか。

 この土地は私がにらんだ通りに資源が豊富で、人類にとって大きな一歩となりそうです。

 という訳で今はそこに町を創るべく日々忙しくしています。

 未開ですので魔物も多く、まだまだ危険が多いですが…


 そしてもうひとつ、大事な報告があります。

 この度、私は結婚することとなりました。

 私事ですがルクシメニア様に一番に報告したく、急いで筆を取りました。

 こんな私のことを愛してくれる素敵な方でございますので、ルクシメニア様にもぜひ会っていただきたいです。

 もうまもなくそちらへ伺えるかと思いますので、その時はよろしくお願いいたします。


 共に世界を救ったマーヤ・ピナシェ



次の話で最終です。

明日の20時に更新します。

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