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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
74/92

キサの反撃

 威勢良く宣戦布告したキサは、猛スピードで向かって来るゼヴァールをひらひらとかわしながらまずはフィミリーのもとへ向かった。

 床に倒れたままのフィミリーは出血して倒れているものの、まだ息はあるようだ。

「…フィミリー!大丈夫か?」

 キサはフィミリーの口元へ手をやり何かを口に含ませる。

 それはキサが非常食にと持ち歩く薬草入りクッキーだった。


「………キサ…さん………?」

「喋らなくていいぞ!…寝転んだまんまで良いからあの回復する草のやつ、やってくれねーか?」

 クッキーを口に含み、薄目を開けてやっと呟くフィミリーの言葉をキサは制止した。

「…ぇ………」

「おまえはここで死んだフリして…あとはおれが………」

 そう言ってキサはフィミリーに小声で作戦を伝えると、迫り来るゼヴァールを避けるべく部屋の端へ走った。


 言葉少なに雑な作戦内容を伝えられたフィミリーだったが、これまでの付き合いでなんとか意図を汲み取り、指示通りうつぶせのまま術を詠唱する。

(まさかそんな………本当に出来るだろうか、そんなことが………)


 キサの言う魔法は………おそらくフィールドを治癒効果を持つ植物で満たし、その上に立つものの身体を癒す魔法だと思われる。

 今残っている僅かな魔力でも、この部屋くらいの規模であれば床一面に緑を満たすことは出来るだろう。

 起き上がって戦うほどの力はないフィミリーは、キサの言葉に甘えてその場に突っ伏したまま静かに詠唱を始めた。


 一方のキサはゼヴァールに向かって行くことは一切せず、ただひたすら逃げ続けている。

 倒そうと正面から向かって行けば今のキサに勝ち目はないが、部屋中を使って逃げるだけならゼヴァール相手でも問題ない。


(…やるしかねーけど………さすがにきついなー…フィミリーの草、早く出ねーかな)

 仲間達のために明るく普段通り振る舞っていたキサだが、いざ交代してみるとサドの受けたダメージは大きかった。

 逃げまわるだけとはいえ、疲れも知らずにキサだけを追って来るゼヴァールを避け続けるのはかなり辛い。

 そんな身体の傷を癒すためにもフィミリーの術の完成は必要だった。


「破壊…ハカイ、ハカイ破壊………」

 必死で逃げるキサにとうとう追い付いたゼヴァールは、目の前の生命を破壊すべく太い拳を振り上げる。

「うおっ…と!」

 キサはそれをギリギリでかわし、近くの柱の後ろへ逃げ込む。

 空振りも厭わないゼヴァールの拳はそのまま柱に命中し、柱は無残に砕けちった。

「…ひぇ~~………!」

 太い柱を一撃で粉々にしたゼヴァールに青ざめながらも、その隙をついて再び部屋の中央へと駆けるキサ。


 するとその瞬間に足下一面にフィミリーの魔法による草花が広がった。

(っしゃ~!助かった~)

 この上に立つ者は敵味方問わず身体の傷が癒されるが、現在まともなダメージを受けていないゼヴァールにだけは効果がない。

 しかしこの術でサイファスの傷も癒えてしまうが、この際それは仕方がないことだ。


 足下から暖かなエネルギーが送られてくるのを感じたキサは少しずつ元気を取り戻した………が。

「うはーっ!これこれ!」

 なんとキサは足下に生えた草花を加工もせずにそのままむしゃむしゃと食べ始めた。

(…!?キサさん………!ここまでくると尊敬します………!)

 その様子をゼヴァールに悟られないように息を殺して見ていたフィミリーは、キサの底知れぬ食い意地に一瞬動じてしまいそうになる。


「よっし!元気爆発!!んじゃ行くぜっ!」

 天に向かって一人叫んだキサはそのまま剣を構えるとゼヴァールめがけて突っ込んだ。


 …しかしいくら体力が回復したとはいえ、能力までもが上がった訳ではない。

 無論ゼヴァールには敵わない…のだが。

「うぉりゃあ~~!」

 キサは部屋中を駆け回りながらゼヴァールを挑発し、ピンチになれば柱を盾にしてかわすことを繰り返した。

 本来これが生きている人間相手ならば苛立ちや疲労を狙えただろうが、人造人間相手ではそのどちらも期待出来ない………

 だがキサの目はいつになく真剣な眼差しだった。



 こうして部屋中すべての柱に、大小さまざまな傷がついたところでキサは立ち止まった。

 これ以上逃げ回ってばかりではいられない………何せ盾に出来る柱がもう残っていないのだ。

 ―――しかしそれこそがキサの狙いであった。


「フィミリー!今だあぁっ!!」

 部屋の中心に立ちゼヴァールを中央に誘い込みつつキサが叫ぶと、充分に回復したフィミリーが素早く立ち上がり術を唱える。

「破壊ハカイハカイ………」

 するとキサめがけて一直線に突進するゼヴァールの両足に、棘のある太い蔓が巻き付いた。

「破壊、ハカイ………」

 何が起こったのかなどと考えることはしないゼヴァールは、拘束されてなおキサに向かおうともがく。

 しかし蔓は動けば動くほどに締め付けが強くなり、ゼヴァールの足に棘が深く食い込んでいく。


「…うしっ!………じゃあ、あばよ!」

 キサはゼヴァールにそう言い放つと、傍で倒れているサイファスを背負って階段の方へ走り出した。

 それと同時にフィミリーも階段を目指して走る。


「…おまえもう起きてんだろ」

「………」

 キサは残る力を振り絞って走りながらサイファスに話しかける。

 治癒魔法の上で倒れていたのだ、話せないほどダメージが大きい…という訳ではないはずだがサイファスは口を開かなかった。

 仕方なくサイファスにも術の効果が及んでしまっていた…のではなく、彼を癒したのはむしろキサの作戦のひとつだった。


「…あいつ、友達だったかもしれねーけど………もう………」

「………じゃあオレも殺せよ………同情か?偽善者共めが」

 低い声で静かに反応したサイファスを、キサはキッと睨む。

「ちげーよ!!…おまえのこと、待ってる人がいるから………本当はおまえのこと許せねーけど………父さんに会って謝ってからだ!」

 その言葉を聞いたサイファスはさらに深く俯いてしまい、どんな表情を浮かべているのか分からなかった。




「キサさん!ではトドメを―――」

 階段近くの天井のない空間まで逃げて来たキサ達。

 ゼヴァールから目を離さぬよう走っていたフィミリーはキサの方へ振り返った。

「………キサさん?」

 こちらの呼び掛けに答えず、久方ぶりに拝めた空ばかりを凝視しているキサの視線を追ったフィミリーは唖然とした。


 なんと空からチユキが降って来ていたのだ!!


「な、な、な!あれ!チユキさ―――」

 顔面蒼白で動揺するフィミリーの声も届かない様子のキサは、考えるより先に身体が動いていた。

「チユキぃぃ!!!!」

 ちょうど手の届く距離に落ちて来ていたチユキに向かって宙へと飛び出したキサは、うまく彼女の身体を掴んで引き寄せる。


「き、キサさ………!」

 死を覚悟していたところに目の前に突然キサが現れたことで目を丸くするチユキ。

「おまえ!なんで落ちて来るんだ!?」

「あ、あの、えっと……ふぇぇ~ん………!」

 既に恐怖で涙していたチユキだが、キサに抱きかかえられるかたちとなったことでとうとう感情の容量が溢れ号泣してしまった。

「泣くな泣くな!…やべーけどなんとかなるって…」

 身体が動くまま思わず飛び出してしまったキサだが、結果的に共に落下することとなってしまいピンチなことに変わりない。


 キサはどうにかしてチユキを助けようと、落下の抵抗を受けながら様々な形に体勢を変えている。

 一方のチユキは半ば諦めておりヤケになっていた。

「キサさん………だいすきです」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、チユキはキサに想いを伝える。

「………えっ?は?………ああ、おれも好きだぞ!だから生きるぞ!」

「…キサさん………そうじゃなくて私は―――」

 最後に誤解されたまま死ぬ訳にいかない。

 もう終わりだと思うとチユキは何でも言えそうな気がした。


 チユキが大事な告白に補足しようとしたその時、二人の身体を暖かな光が包み込んだ。

「わっ…」


 《なんと無茶をするのじゃ!…我が間に合わなければ死んでいたぞ!!》


「…神鳥様!!」

 間一髪。あと数メートルで地上に激突するという所で神鳥に助けられた。

 神鳥はそのまま上空へと羽ばたき、フィミリーの待つ階へ向かう。

「あー!助かった~!神鳥様、ありがとうございました~っ!!」

 キサは神鳥の背で大の字になって倒れ込み叫んだ。

「………」

 今も恐怖に震えるチユキはまだ声をあげることすら出来ない状態だったが、神鳥への気持ちを込めて手を合わせて祈りを捧げた。


「あ!あのさチユキさっき言ってたことだけど…」

 その声に身体をびくりと反応させたチユキは真っ赤な顔でキサを見た。

 極限状態だったとはいえ、なんということを言ってしまったのだろう………

(…でも伝わってないし、ギリギリセーフ…かな………)

 心臓の音がキサはおろか神鳥にまで届いてしまいそうなほどに高鳴るが、よくよく考えれば核心は避けられたはずだと冷静になろうとするチユキ。


「チユキはさぁ、住むならセルディアとアウラークどっちがいい?それとも他のとこがいいか?」

「………………え………っ………?」

 急に何を問われているのか理解出来ない様子のチユキに、キサは少し頬を染めつつむくれる。

「…なんだよ。一緒になりてえってことじゃなかったのか?」

「ふわぁっ!?ひゃ、わわ、えっと………!」

 予想外なキサのそんな言葉に、チユキは自分でもどこから出たのか分からない声で返答する。


「…まぁ、おれの勘違いなら仕方ねえけど………おれはチユキのこと好きだぞ」

 まっすぐな瞳でチユキを見てそう言ったキサだったが、最後まで言い終わると堪らずぷいと背を向けた。

 慣れない空気にバリバリと頭をかくキサの背中を見つめながら、チユキは頭の中に花畑が咲くようなこれまでに味わったことのない幸せを噛みしめていた。

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