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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
71/92

交わした約束、大切な人のために

 ………ト…………

 …………ワイト………


「あっ!ショウバじいちゃん!久しぶり!……これは、夢………?」


 …ああ、ワイト……久しぶりだね………

 …しかし残念ながらゆっくりと話している時間はない……今から私が言うことをよく聞くんだ………


「うんっ!どうしたの…?」


 良いかい……ワイトと再会する前に、私は死を迎えてしまった。


「…………えっ……嘘だ……!」


 今、私はワイトの夢にお邪魔しているが、これは現実だ……

 そして悲しいことだがこれが最後の別れになる………


「……そ、そん…な……ぼく、いつか絶対、会いに行く…って……約束…したのに……!」


 …本当にすまない………だがワイト。泣いている暇はないのじゃ。

 君にしか頼めない大事なお願いがあるんだ………聞いてくれるかな………?


「……じいちゃん……嘘だ……うう………」


 ………ワイト……お願いじゃ…もう時間がない………


「……ううっ…うっ………な、に……?」


 シントライデルのガーディアンマスターに…世界滅亡の危機が迫っていることを伝えてほしいのじゃ……

 そしてそれを止めるためにセシリオ王子たちが動いておる。その手助けをしてほしい…と………


「…し……シント…ライデル…?……ぼく行けないよぉ……こわいよぅ………」


 …大丈夫………道中、君のジュリエットがきっと力になってくれる。

 さあ、勇気を出して。ワイトになら出来る………私の最後の…お願い……じゃ………



 ―――



「……クソ雑魚が……!…こんな術ごとき……すぐに解いてやる………そしたらおまえを真っ先にブッ殺してやるよ………!!」

 ワイトの術にかかり未だ拘束されてこそいるものの、フィルは生きていた。

 血走った目で息も絶え絶えであるが、歯ぎしりをしながらワイトを威嚇している。


 ショウバの願いに従いシントライデルへ向かう途中、魔物に襲われたワイトは初めて自身の術を成功させた。

 常に行動を共にしてきたたった一人の相棒…ジュリエットに触れた者を拘束し、さらにジャジュに伝わる釘を使えば相手にとどめを刺すことも出来た。

 ―――そう、シントライデルの平原に現れる程度の魔物ならば…である。


(…うう……ショウバじいちゃん……こわいよう………)

 ショウバの遺言に従ってここまで無我夢中にやって来たワイトだが、本来の臆病な性格が克服された訳では決してなかった。

 自身の術にかかり今も自由を奪われた状態のフィル…しかしその気迫はまったく失われてはいない。

 見た目こそワイトと同じ位の歳に見えるが、過ごしてきた年月も超えてきた場数も桁違いなのである。


「…おいこら……聞いてんのか…!……雑魚の癖して無視までしてんじゃねぇ……!!」

 術の発動に必死なあまり、その場からまったく動けずにただ釘を打ち続けるワイト。

 彼に他の魔物を寄せ付けないように動くメフィやファースの二人がこちらに近づくことはない……つまりこの場にはワイトとフィル、たった二人きりの状態がずっと続いているのだ。


「……なんとか……言いやがれ……!!」

 そう凄んだフィルの大剣を握る利き腕が、わずかに動いたように見えた。

(…!……どうしよう……術が………!)


 ワイトの術は他のジャジュ村民と比べて非常に強力といえるものだった。

 それはワイトが他の誰よりも『妬み・嫉み』といった呪いの原動力となる感情を強く持っているからである。

(…ううう……じいちゃん………!)

 ではその感情…呪いの原動力を捻出しているのは、一体どこからなのか―――


「…!……はははっ……だんだん体が動くようになってきたぞ……!おまえも終わりだな……!」

 フィルは目を見開きながら笑った。その身体はじわじわと動き始めている………

 術の効果があとわずかであることが、とうとうフィルにも気付かれてしまった………


「……お、お、終わり……じゃないぞ………!」

 ワイトの顔は相当青ざめており、前髪がすべて額に張り付くほど大量の汗もかいている。

 一見すると釘を打っているだけのワイトだが、その様子は今にも倒れそうなほど消耗しているように見える………


 ―――それは呪いの原動力が、ワイトの生命そのものであるということを表していた。

 そしてワイトの術は強力であるが故、そのぶん消耗がかなり激しいということも………


(…う……う………くそお………!)

 もう何本釘を打ったか分からない……金槌を握る手も真っ赤になって擦り切れている………にも関わらずフィルを仕留めることは出来ないままだ………

 それどころかこちらの力が尽きる方が早いかもしれない………


「…ばーか!…もう残りあと少しなんだろ!…おまえなんか―――」

「…う、るさい……!…おまえらが……!おまえらがじいちゃんを殺したんだ!…ぼくは絶対に、許さないぞ!」

 身体の自由が徐々に戻っていくのを感じるフィルは、大量の汗をかきつつも余裕の笑みを浮かべワイトを挑発する。


 しかしワイトはその言葉を最後まで聞かず、なんと金槌を捨て素手でフィルを殴り付けるという悪あがきとも取れる行動に出た。

 武力は皆無だといえるワイトの攻撃が効くとは到底思えないのだが、ワイトは感情のままにフィルの髪を引っ張り、角を叩き、翼をむしるなどを繰り返した。

 …それはまるで、思う通りにならないことに腹を立てた子供のように………


「…!なめやがってえええ!!!!」

 その瞬間、身体の自由が戻ったフィルはワイトからの攻撃を避けるために、灰色の翼を大きく広げて真上に飛び立った。

(…!………ショウバじいちゃん!)

 両の拳を握りしめたまま、ワイトはジュリエットを抱き抱えるかたちで身体を丸めて防御姿勢を取る。


「死ィねええええええ!!!!」

 上空で素早く体勢を整えたフィルは、勢いを付けながら全速力でワイト目掛けて突っ込んだ。

 混乱の中でその大きな叫び声を聞いたメフィとファースは、そこでようやくワイトの危機に気が付いた。


「!!まずい!ワイトくん!!」

 目の前の魔物たちを放り出して全力で走るメフィとファース。


 ………しかし時既に遅く…フィルの大剣がワイトの身体を貫くその光景を、ただ見ていることしか出来なかった………



 ―――



 …一体、どのくらいの時が経っただろうか………

 セシリオ達は肩で息をしながらやっとの思いで最上階にたどり着いた。

「…皆のおかげで……ここまで来れた………絶対に、生きて帰ろう………!」

 上階になるにつれ敷地がどんどん狭くなっていったことで、魔物との遭遇が減ったことが不幸中の幸いと言えよう。

 前線でまともに戦えるのはセシリオのみというメンバーだったが、なんとかここまで来ることが出来た。


 ゆっくりしている時間はないが、デュアンの他にまだパネイラの存在も控えている………戦力が大きく削がれた状態のセシリオ達は、少しでも息を整えるべく最後の扉の前で水を口に含む。

「……キサさんたち……無事でしょうか………」

 今にも泣き出しそうな瞳でチユキが呟いた。

 本当はこの道中、ずっと気にかけていたのだろう………時折、塔全体が揺れるほどの地響きが起こる度にセシリオも気になっていた。


「あの二人なら大丈夫だ…」

 不安な気持ちのまま、最終決戦に向かう訳にはいかない。

 セシリオは自らにも言い聞かせるようにそう言ってチユキを元気付けた。


「セシリオも言ったけど、サドが負けるとこなんて見たことないし…あの二人なら絶対大丈夫だよ」

 サクリーシャもセシリオの言葉に続けて明るく笑いかけた。


 …今からの戦いで確実に辛い思いをするであろうサクリーシャは、それでも仲間を励ますために笑顔を作っている………

 セシリオはそんな彼女の強さと、握った拳がごくわずかに震えている様子を見て…いつの間にか自分がサクリーシャを愛しく想っていることに気付いてしまった。


(…いや、違うな………)

 自覚しないようにと意識していただけで、本当はもっと前からサクリーシャに対して尊敬に交えた愛情を感じていたのだ。

 いつからか、明確なことは分からないが…ずっと昔から………


 しかし、彼女に対する自分の気持ちなど今は二の次だ。

 大切な人達が生きるこの世界を守るために………血を分けた唯一の兄弟と向き合うために。

 セシリオは目の前の重い扉に手をあててゆっくりと深呼吸をした後、覚悟と共に部屋の中へ入った。

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