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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
61/92

故郷にて問われる、本当の気持ち

「皆様、ご協力感謝しますわ!」

 夕暮れのアウラーク村の大地に、軽やかな足取りで降り立ったジーナはぺこりと頭を下げた。


 ゾディが再びキサの身体へと戻ってゆくのを見届けた一行は、神鳥の背中に乗せてもらい下山した。

「ジーナまたな!一人で帰れるか?」

 信仰心の厚いアウラークの村人に、神鳥の姿を目撃されるのはあまり良くないだろう。

 それを考慮し村から少し距離のある場所でジーナを下ろしたため、キサはそう問いかけた。

「心配ないですわ!」

 それに答えるジーナの表情は初対面での昨日の様子とうってかわり、とても晴れやかで胸のつかえが取れたような笑顔だ。


「…皆様、とても大変な旅だとは思いますが……お互いに頑張りましょうね!」

 世界の運命を密かに握ることとなったセシリオ達…そしてその秘密を共有することとなったジーナは真面目な表情でそう言った。

「何かありましたらいつでも声をかけて下さいな!」

 どんと胸を叩いた彼女は、見違えるほど頼もしくなっていた。


 ―――


「日が完全に落ちてしまうまでに、この周辺を回れるだけ回りましょうか!」

 アウラーク地方は様々な高さの山が連なる地方だ。

 この極寒の地でショウバが孤独に暮らしているとは考えにくいのだが、二度手間を避けるために近場から探索するという寸法である。


 ひとつの地方を守護する神を味方につけた上、その背中に乗り空中を飛び回っている…セシリオはこの事実をいまだ信じられずにいた。

 セシリオがフィミリーに対して力強く頷いた途端、神鳥はスピードを少し上げてアウラークの空を舞った。

 雪山に登るための重装備をしていて良かったとセシリオは思った。



「…よ、やや山にゅ囲みゃれてりゅ、人が住みぇそょうにゃ場所(びゃしょ)にゃんて…なにゃ、無いねぇ!」

 アウラーク地方を上空から探索した一行と神鳥であったが、やはり残念ながら該当しそうな場所はない。

 それどころか身を切るような寒さに、誰ひとり口にはしないが限界が近かった。


「…今日はそろそろ諦めよう…日も暮れている……」

「…そしょ、しょうねぇ!みんな、今日は諦めようか……」

 ジーナと別れてからはいつものサクリーシャに戻り、何も言わずともこうして通訳もしてくれる…セシリオはホッと胸を撫で下ろした。


「……で、あれば……空を飛べば、ピナシェが一番近いですね……」

 唯一、寒さよりも乗り物酔いと戦うフィミリーが絞り出すように呟いた。

 どうやら現在地はアウラークの最西端であるようで、そのためシントライデル地方よりもピナシェの方に近いらしい。


「えっ!そうなんだ!じゃあピナシェ行こ!…久しぶりだなぁ…!」

 ピナシェという名前を聞いただけでサクリーシャは元気を取り戻したようだ。

 こうも嬉しそうな顔をされては、ピナシェ以外の選択が出来るはずもない。


 ―――


 《では我はまた明日の早朝に戻ろう。充分な休息を取るようにな》


 そう言うと神鳥は勢い良く夜の空へと消えて行った。

 確かにあれだけの巨大な鳥がこの辺りで休んでいては目立ってしまうだろう。



 すっかり夜が更けたピナシェだが、それでも冒険者たちで賑わっていた。

「懐かしい…ピナシェだ…戻って来た……!」

 サクリーシャはぽつりとそう呟きながら感動しているようだ。

「…でもまだ…終わってない……」

 そして真剣な顔付きに戻った後、小さく頷いた。


「皆を招きたいところなんだけど…私の家、あんまり広くないから…」

「ではまた男女別々で宿泊しましょうか」

 苦笑するサクリーシャに対し、すっかり元気になったフィミリーがてきぱきと答え、そのまま町へと消えて行った。



 無事にフィミリーが宿泊先を見つけてきた後、一行は全員揃って夕食を取った。

 こうして賑やかに食卓を囲めるのは、今夜を含めてあと何回なのだろう――

 全員がいつも通りに振る舞っているが、世界の運命を握ることになった不安やプレッシャーは相当なものだ。


 神鳥から話を聞くまでは、存在すら半信半疑だった魔王の強さなど検討もつかない……全員が命を落としてしまう恐れも大いにある。

 そんな心に抱えた不安を拭い去るように、皆が必要以上に明るく振る舞う様を眺めるセシリオは、絶対に全員で生き残ることを固く誓った。


(―そしてその前に…呪いを解かねば……)

 厳しい戦いとなることは容易に予想されるが、この呪われた力に頼ることは…出来るだけしたくない――


 ―――


「…ではまた、明日の朝に…」

 サクリーシャは住民に自分の呪いで迷惑をかけぬよう町の外に住んでいるため、セシリオ達と違って出口へ向かう。

「うん!おやすみ!…みんなを泊めてあげられなくてごめんね」

 申し訳なさそうに手を振る彼女がチユキと闇へ消えて行くのを見届けたセシリオは、キサと共にフィミリーに連れられて宿へと向かった。


 ―――


「…サクさん、元気そうで良かった」

 ホッとしたような笑顔を浮かべながら不意にチユキが呟いた。

「…えっ?なんで?何が?」

 しかしそのような心配をされる心当たりのないサクリーシャは、そんな問いに思わず戸惑ってしまった。


「…山を登ってる時…途中からなんだか元気がないなぁと思って…」

 チユキは心配そうな表情を浮かべる。

「あれ?そうだった…?」

 特に疲れていたという自覚もなかったサクリーシャは、必死に自身の記憶を辿る。

「…ジーナさんがセシリオさんと仲良くしてたの、気になったんですか?」

 突然、チユキからそんな不意討ちのような一言が放たれた。


「…えっえっえええっ!!なっ何を!なんで!?私が?えっ!?」

「明らかにセシリオさんがジーナさんを助けてからでしたもんね?」

 チユキはいたずらっぽくニヤリと笑った。

「―いや待ってよチユキ!…大体、私にデュアンがいるの知ってるよね!?」

 自分でも動揺のあまり、みるみる顔が熱くなっていくのが分かる。


「…何も私はそういう意味とは言ってないですけど……」

「えっ」

「自分から恋人の名前を出してくるなんて…やっぱりサクさん…」

 チユキはこれまでに見たこともないくらいに悪い顔をしている。


「~~っ!」

 サクリーシャは全身から汗が吹き出す感覚を味わう。恥ずかしくてチユキの顔を見ることが出来ない……


「…意地悪はこれくらいにしますが……私、ずっと思ってました」

「サクさんは本当に、デュアンさんを愛しているのですか…?」

 先ほどまでからかうようにニヤニヤしていたチユキの顔は、急に真顔になっていた。


「……えっ…?」

 その答えを、瞬時に返せない自分がいた。


「―や、どうしてそんなこと…彼は私が旅に出ることだって、最初は反対してたけどこうして送り出してくれたし、こんな私を―」

「『こんな私』って…どんなですか?」

 そう問いかけてくるチユキのまっすぐな瞳に、心まで見透かされそうになる……


「…だってこんなに呪われてて…何をやってもダメで……今だって右足は水溜まりにハマってるよ…」

「…サクさんは呪われていても充分素敵です!…それは私たち全員が分かっています!」


 自分は勇者失格なのに…

 いつでも期待を裏切ってばかりで、足を引っ張ってばかりで……

 それなのに、こんな風に思ってくれる人がいる。

 一緒に旅をして、特に迷惑をかけているはずの仲間がそう言ってくれるのが、サクリーシャにとって特別嬉しかった。

「…チユキ…ありがとう……」

 泣きそうになってしまうのをこらえながら小さくそう言った。


「…一番サクさんを見てるのは…私よりも、セシリオさんです…」

 チユキはふるふると首を振りながらそう答えた。


 …それも分かっている……

 仲間達のリーダーとなって皆をまとめるセシリオは、王子のくせに世話焼きで、いつも他人を優先して気を遣ってばかりで……

 …そしてどんな時でも必ず救ってくれる。


「…セシリオさんの気持ちがどんなものかは、もちろん私にも分かりませんが…」

「…デュアンさんといる時より、セシリオさんと一緒のサクさんの方が…楽しそうに見えます……」

 どうやらもう、からかわれている訳ではない……チユキはとても真面目な表情だ。


 確かにこうして旅を続ける中で、恋人であるデュアンと過ごした時間よりもセシリオといる時間の方が長くなっている。

 幼い頃からの付き合いとはいえデュアンとは文通ばかりで、実際に会うことなど数年空いてしまうこともあるほどだ。


 …しかし………

 それでも………


「…でも……やっぱり私は…デュアンがいるから……」

 家族や仲間を想う気持ちと、恋人を想う気持ち…正直その違いすらよく分からない位である。


 自分の中でセシリオの存在が特別な何かであることは否めない。

 だがそれが恋愛感情なのかと問われると、それも分からない……

 彼の声を自分だけが聞けるから…

 自分と同じで奇妙な呪いにかけられているから…

 特別だと感じる理由などいくらでもある。


 しかし自分の恋人はデュアンなのだ。

 そうとしか考えられない……まるで脳がそう考えるように仕組まれているかのように、強くそう思う。


 たとえサイファス達との戦いでSOSを出した時以来、機械鳥での文通すら行っていなかったとしても―――

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