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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
6/92

ヤモチ村

 王国のある東の大陸へ行くべく、まずは関所を目指す一行。

「ここから関所までの道のりには、ヤモチという小さな村がひとつあるくらいですね。あとは森、平原、森です。」

 世界地図もほぼ頭に入れているフィミリーはさらりと言う。


 東の大陸はシントライデル城や様々な施設のある城下町など栄えているのに対し、西の大陸はいわゆる田舎であった。

 この西の大陸のみに関して言えば、大陸ランクもピナシェのあった大陸と同様に最低のCランクであり、ランクカードを所持してさえいれば初心者の冒険者でも入れる大陸である。


 (ゲート)からほどなくして唯一の村であるヤモチが見えて来る。外からも村の全景が見えてしまいそうな小さな村であったが、人々はみな忙しく動き回っている。

「なんかやってんのかな?楽しそうだな!」

「…この時期のヤモチといえば……村の祭がある頃でしょうか…」

 フィミリーは少し暗い表情で語る。

「祭!!行きてーーー!!ちょっとだけ覗いて行かね?食べるだけだから!」

 はしゃぐキサにフィミリーは小声で返す。

「いえ、ヤモチ村の祭は…村の守り神に生け贄を捧げて一年の繁栄を願うものだったはずなので…今回も若い娘が誰か生け贄に選ばれているはずで…どちらかというと村人にとって暗いものかと……」

 そこまで聞くとサクリーシャは一直線に村へと向かって行き、村人へ話しかける。

「はじめまして。私はサクリーシャ・ピナシェという者で旅の冒険者だが何かお困りのことはないだろうか?」


 生け贄を要求する神など確かに恐ろしいものであるが…安直にそこに首を突っ込むのはどうかとセシリオは顔をしかめたが、サクリーシャの勇者風の口調を聞き、諦めてとりあえず村人の話を聞くことにした。

 セシリオが行けばキサもフィミリーも付いて行かざるをえない。


 ところが村人の反応はこちらの予想していたものとは違った。

「あらあら旅人さん!こんな何もない村に寄っていただいてありがとうねぇ。でも明日にはちょっとしたお祭りがあるから、良かったらそれ見て行ってねぇ」

 晴れやかな表情でサクリーシャの手を握りながら語る中年女性の様子に、サクリーシャは肩透かしをくらう。


「あ…あの、生け贄とかって…」

 サクリーシャは、思わずピンポイントでそこを聞いてしまう。

「ああ生け贄の娘はねぇ、もう身を捧げる準備で会うことは出来ないのよぉ。でも明日なら神様の洞窟に入る瞬間を見ることくらいは出来るわよぉ」

 やはり生け贄は今年も存在しているようだが……

「今年はねぇ、神様の方から名指しでその娘を生け贄にって要求があったの。うちの娘じゃなくて正直良かったわぁ。それじゃあね~」


 たまたま話を聞いたこの女性には娘がいるようなので、大事な娘に指名がなかったことに安堵しているだけなのか…

 それにしても、村人の一人が生け贄にされるにしてはこの女性の様子は不謹慎すぎるようにセシリオは感じた。

 その後も数名に話を聞くも、村人の反応は皆同じく明るい様子であった。


「…勝手に動いてごめんなさい…でもどうしても気になってしまって…というか今も気になります。生け贄とかそういう話をする感じじゃなかったような…」

 サクリーシャは悲しい顔でセシリオ達に語りかける。確かに全員どことなく違和感を感じていた。

「人が一人死んじまうにしちゃケロっとしすぎだよな~…こんなせまい村じゃみんな家族みたいなもんじゃねーの?」

 キサは納得いかない様子でめずらしく怒りを滲ませていた。

「皆さん自分の身内でなければ良いってことかもしれませんね…でも一人くらいは生け贄の方と親しい人がいてもよかった気がしますよね」

 フィミリーが冷静に意見を述べたその時、一行の会話を聞いてか、村の子供達が近寄って来た。子供達は村の人間ではないセシリオ一行に緊張している様子であったが、意を決したように口を開いた。


「おにいちゃんたち…チユキおねえちゃんのこと、助けてくれませんか…?」

 精一杯の勇気を振り絞り一行に懇願する子供達に、サクリーシャが優しく返事をする。

「うん。怖がらなくて大丈夫だよ。大人の人達に言ったりしないから、そのお話もう少し詳しく教えてくれるかな?」


 子供達の話によると、これまで生け贄の指名というものは無かったという。

 その年の生け贄は村人たちによって若い娘の中から選ばれるというが、今回だけはチユキという少女に直接の指名があったらしい。

 不思議な能力を持つチユキを、村人はあまり良く思っていなかったようだが子供達とは親しくしていたようで、生け贄の意味を薄々理解する子供達にとって辛い出来事であるようだ。


「おかあさんはいつもチユキおねえちゃんと遊んじゃいけないって言うし、明日のお祭りはみんな楽しそうに準備しているの…」

「いつもお祭りの時期はみんな悲しそうなのに!」

「おにいちゃんたち、神さまにチユキおねえちゃんを返してってお願いしてきて!」

 話をじっくり聞いてもらったことで、セシリオ達への警戒がすっかり無くなった様子の子供達は口々に話す。

「わかったよ、お姉さん達に任せて!なんとかチユキお姉ちゃんを取り戻すからね!」

 子供達が話し終えると同時に、サクリーシャは意気揚々と約束を交わす。

 セシリオはこの展開をなんとなく予想していたが、土地の神を葬るわけにもいかない。安易に引き受けて良かったのか。作戦はあるのか。まさか神を滅ぼすとでも言うのか…

 しかしいくらセシリオといえども子供の前でサクリーシャを制することは出来なかった。


「おいサクリーシャ、何か考えあっての承諾だろうな…?」

 子供達が晴れやかな表情で走り去って行った後で、セシリオは問う。

「えーと、明日なんとか洞窟に忍びこんで神様に頼み込んでみる…というのはどうでしょう……?」

 作戦とも呼べぬお粗末な方法に、セシリオとフィミリーは深いため息をつく。

「まぁ子供に頼まれたらしゃーねーよなー…おれもそれが良いと思うぞ」

 とんでもない意見に賛同する者が出てしまった。たった二人でも一行にとっては半数だ。セシリオは軽い目眩を感じ、頭を抱える。

「…とりあえず洞窟を見てみますか?」

 フィミリーはやれやれといった表情で提案した。



 村に隣接する林を抜けると、それほど大きくはない洞窟がひっそりと佇んでいた。

 先ほどまでたくさんいた野生動物たちもいつの間にか周囲には一匹もおらず、ここだけ切り離されたかのように静かだった。

 いかにも神が祀られているといったように、入り口は厳重に閉ざされている。やはり現時点で忍び込むことは不可能だろう。


「…これは……すごいな…」

 セシリオは思わず呟いていた。

 大規模とはいえず、入り口も厳重ではあるが特殊な術が施されているわけではないこの洞窟に祀られている存在は、このような場所に似つかわしくない気迫を放っていた。

 この洞窟に、生け贄を奪いに足を踏み入れようものなら、存在ごと消されてしまうだろうとセシリオは直感した。特に熱心に神などを崇める性分ではないが、洞窟の外からも神々しさを感じずにはいられない。


「…おいサクリーシャ…いくらなんでも今回は無理だ。諦めて旅に戻るぞ」

 林に設置されていた動物捕獲用の罠を、やっとの思いで自身の足から外したサクリーシャも神の存在を感じていた。

「…でも、あの子たちと約束しちゃいましたから……私だけでも行きます。短い間でしたがありがとうございました…」

 この女はどこまで死にたがりなんだとセシリオは思った。共に過ごした時間はまだわずかにも関わらず、自ら死にに行くような選択が多すぎる。


「おれも行くぞ!二人で頼めばなんとかなるだろ!」

「キサさんまで何を言ってるんですか!旅の目的はセシリオ様の呪いを解くことです!こんな所で道草くってる場合じゃないでしょう!」

「いや、だけどさーー」

 あーだこーだと揉める三人を、セシリオはやれやれと呆れつつも何も言わず見守っていた。

 サクリーシャが加入してからというもの、仲間達それぞれの主張が強くなり、王子であり主人公であるはずの自分の気苦労が増えたように思う……

 しかし呆れることはあってもなんだかんだ今の仲間達のことを微笑ましく思うセシリオであった。


「分かった。とりあえず今日はヤモチに宿泊し、明日の祭の時に忍び込んでみるか」

「…えっ!!本当ですか!?」

 サクリーシャがセシリオのこの言葉をあとの二人に通訳しても、フィミリーがなかなか信用しなかったのは言うまでもない。

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