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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
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ドタバタ海上戦の結末

 キサはセシリオの幼なじみであるがセルディア出身ではなく、北国の出身である。彼の生まれた国では、産まれて来る子供にやたら長い名前をつける風習があり、キサもキサラルテエッダサードという名前を持っている。これに名字は含まれていない。


 その末尾を取って『サド』…なんとも安直に名前を付けられたものだが、戦闘になるとほぼ確実に姿を現す黒いキサは、その残虐性もあってセシリオとフィミリーからそう呼ばれていた。

 邪神の類いかはたまたこれも呪いの一種なのか…憑依されたような状態とみられるが詳しくは不明であり、キサにはサドになった時の記憶は毎回まったくない。

 戦力としては非常に強力であるが、誰の命も受けず自分の欲求の赴くままに暴れる彼はなかなかに厄介であり、セシリオとフィミリーは戦闘の度に緊迫していた。

 広い平原での弱い魔物との戦いでも手を焼くというのに、不安定な船の上で強敵との戦闘など…

 そうは言ってもセシリオが諦めれば船は大破し死亡者も出ることが容易に予測出来る…死亡者の中には、セシリオ達一行も含まれるだろう。

 既に船の一部は壊されていた。はるか遠くに目的地と思われる大陸が見えているがそこまで持つだろうか……


 セシリオは自身の杖を構え、呪文の詠唱を始めると見せかけ、そのまま敵の少年へ切り込む。

 この世界では一般的に杖や魔導書といった武器は、打撃などに使用するというより魔力増幅といった効果が主なため魔法使いや神官などに好まれる傾向にある。

 セシリオの持つ魔力は自身の鍛練や才能として持つものの他に、彼にかけられた呪いがあまりに強力であるために、その呪いによる魔力がセシリオにも使えるという特性があった。

 出所はともかく膨大な魔力を使えるため杖という武器はセシリオに合っていると言えるが、セシリオは魔力を使わず杖で殴る刺す転がすといった使用を好んでいた。


 敵の少年は杖が打撃用の武器として使用されたことが予想外だったようで、受け身を取る余裕もなくセシリオの一撃をまともに喰らう。

「いっっった!!なんだよおまえ!!ムカつくな!!」

 確かにムカつく一撃だった。杖の先端に付いた飾りはわりと鋭利である。

 さらに畳み掛けるようにサドからの追撃が少年を襲う。独特の構えで踊るように二本の剣を操り少年を切りつける。その剣さばきは非常に速く、常人では何度切りつけたか見切れないほどだ。

 その威力に船が嫌な音を立てて軋み、セシリオは冷や汗をかく。


「いったいなぁ!もうやってらんないや!ヘボ軍団のクセに!!バーカバーカ!!」

 少年は低レベルな暴言を吐きながら、翼を使い上空へと退く。力はありそうだがかなり打たれ弱いようだ。

「おい待て!おまえは何者だ!!」

 セシリオは相手に届くわけがないにも関わらず叫ぶ。やはり少年に声は届かず、上空に小さくなってゆく背中を見つめることしか出来なかった。


 謎の人物からの襲撃について考えを整理したいところであったが、セシリオは消化不良と思われるサドのことを思い出し勢い良く振り返る。

「……もう食えないって……ごめんうそまだ食えるわ…」

 こちらの苦労も知らず安らかに寝言を発するキサを見て、苛立ちを感じるよりも先に一気に力が抜けてしまい、その場にへたりこむ。

(終わっ…た……)


 突然の襲撃から船や乗客を守った英雄セシリオを、危機が去ったと気付き寄って来た乗客たちが囲む頃には、彼はあまりの精神的疲弊に意識を失っていた。

 それから間もなく、船はシントライデル西部の大陸に上陸した。


―――


「セシリオ様ぁぁ!!今回の不甲斐ない有り様、本当に申し訳ございませんでしたあぁあ!!!!」

「迷惑かけて、本当にすみませんでした…」

「敵とかなんなんだろうな!!やっぱ勇者を狙う悪の組織ってことか!?おれ全っ然覚えてないんだけどさ!」

 一行はシントライデル西部地域に上陸し、(ゲート)内の休憩所にいた。ピナシェもそうであったが、港は(ゲート)の運営となっているため、同じ施設である。

 好き勝手に騒ぐ仲間たちを見ながらも、セシリオの意識は敵の少年に向いていた。

 仲間たちが静かになると、戦闘の経緯を唯一まともに知っているセシリオは筆談と通訳で先ほどの顛末を仲間に伝え、敵の少年について会議を始める。


(…あの少年…灰色の翼と…耳の代わりに角のようなものが…)

「…天魔か…?」

「あ、あの男の子ですよね?翼の色と形状的に…白い翼の天使でもなく、コウモリ型の黒い翼の悪魔でもない…おまけにあの縞模様の角…でも天魔なんて……」

「絶滅しているはずだな。そもそも天使や悪魔なども現在かなり希少な種族であろう。」

 またしてもセシリオとサクリーシャのみで会話を進めるところに、キサが割り込む。

「てんまってなんだ?」

 すかさず今度はフィミリーが口を開く。

「天魔というのは……遥か昔、まだ魔王が現れるよりも前…この世界には天使と悪魔と人間が住んでおり、大陸をかけた種族間の大きな戦争があったんです。…そこまではキサさんもご存知ですよね?」

「あー」

 キサはここまではまだ理解出来る…といったギリギリの表情であった。

「その際、改造人間などの兵器も使った人間たちの手によって、天使や悪魔はほぼ絶滅してしまいました。恐らくですがその時期に、一部天使と悪魔の間に誕生した種族が…天魔というわけです。」

 キサの頭からは煙のようなものが出ていたがフィミリーは気にせず続ける。

「そもそも天使と悪魔は敵対する種族ですから、その間の子というのがまず数少なかったとみられていますし、天使からも悪魔からも人間からも迫害され孤独な種族だったとほとんどの記録にはありますね。」

 まるで文献をそのまま読み上げるかのようにすらすらと語るフィミリーに、サクリーシャは感心する。

「すごい!とても詳しいんですね!フィミリーくん!」

 まだ幼いのに…という言葉はなんとなく飲み込んだサクリーシャであったが、フィミリーは眉間に深いシワを刻む。

「“くん”付けなんてやめて下さい!……フィミリーで良いですよ」

 後半ごく小さな声で呟くフィミリー。彼の中でも船上でのサクリーシャの勇気ある行動には、結果はどうあれ何か思うところがあったのかもしれない。


「とにかく天魔の彼が一体何者なのか…単独なのか何かの勢力なのか、そもそも何が狙いか…気になりますね。」

「私を狙うような発言があったから…巻き込んでしまってるようなら申し訳ないですね…」

 サクリーシャはそう言いながら自身の飲み物に口を付けようとするが、表面には虫の死骸が浮かんでいる。

 慣れっこといった様子で小さくため息をつく彼女を気の毒に思ったセシリオは、何も言わず傍にあったメニューを差し出してやった。

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