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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
49/92

望まぬ再会

 ワイトからショウバの居所は“高い山に囲まれた場所”だという手掛かりを得たセシリオ達であったが、今度は新たな問題に直面していた。


「高い山に囲まれた場所…町などではなさそうですし、地図にすら載っていない恐れがありますね…」

 意気揚々とジャジュ村を出発したのは良いものの、進むべき場所に迷った一行はとりあえずシントライデルの(ゲート)へと向かっていた。

 フィミリーの言う通り、そのような辺境な場所に人が住む地域があるなど聞いたこともない。

 となるとショウバはたった独りでそこで暮らしているということだろう。


「それにどうやってそんなとこに行くのかも分からないよね…空でも飛べない限り…」

 衣服に付いた鳥のフンを慣れた手つきで拭き取りながらサクリーシャが言う。

 村を出発してからずっと解決策を考える一行だが、まるっきり糸口が見えない為にこのような非現実的思考が出てしまっている。


「空、飛んで探せばいーじゃん」

 最初から非現実的思考でこう言い続けるキサが割って入った。

 真剣に話しているのだから冗談に付き合っている暇はない…先ほどと同様、セシリオ達はキサの発言を無視した。


 しかし今度ばかりはキサは諦めることはなかった。

「いや、だからさー!おれの故郷のアウラークに行ってみないか?神鳥様がなんとかしてくれるって!」

「…え?キサさん、今なんと?」


 全員の視線を受けたキサは面喰らったような表情だ。

「アウラークには高い高い氷山があって、その山頂に神鳥様がいるんだ。本気で頼めばなんとかしてくれんじゃね?」

 何度か案だけは出していたキサは、そこで初めて詳しい内容を話した。


「「いやそれを早く言えよ!」」

 セシリオやフィミリーから思いきり突っ込まれたキサはへらへらと笑顔を浮かべて頭をかいた。


 ―――


「ではこれからアウラーク地方へ向かおうと思います。皆さん準備は良いですね?」

 神鳥のことは正直にわかに信じ難い話ではあるものの、まだ立ちよったことのないアウラークに行くこと自体は有益かもしれない。

 こうしてアウラークを目的地に設定したセシリオ一行は、歩き続けてようやくシントライデルの(ゲート)へたどり着いた。


 セルディアやシントライデル大橋とは違い、城下町から近い位置にあるこの場所は冒険者や商人などでかなり賑わっていた。

 これほど大きな施設を利用した経験のない田舎者集団である一行は、なんだかそわそわしてしまう。

 特に今回が初の(ゲート)利用であるサクリーシャは興奮気味で浮き足立っており、もう一方のチユキは緊張からか顔を青くしていた。


 軽い食事を済ませた後、一行は施設内に入りいくつもある受付の中から適当に選んで列に並ぶ。

 いつものように全員分のランクカードを持って受付を行う役目はフィミリーだった。


「5名です。これが全員分のカードで―」

「はーい、かしこま――え…?…ふぁ…ファーミィちゃん…!!?」

 門番の声色が明らかに変わり彼が驚愕の声を発したことに気付いた時、そこには既にフィミリーの姿はなかった。


「―フィミリー!?」

 猛スピードでその場から走り出すフィミリーの姿をセシリオ達が捕らえた時には、一行の誰よりも早く門番の青年がフィミリーの後を追っていた。


 セシリオ達は列から抜けて彼らを追ったが、二人の様子を見て驚き立ち尽くす。

 なんと門番の青年は大事そうに、しかし逃げられないように、フィミリーの身体をしっかりと抱き締めていた。

 一方、フィミリーの方は手足をバタバタと動かし必死で門番の拘束から逃れようともがいていた。

 セシリオ達に助けを求めることすら忘れ、ただただ抵抗を続けている。


「ファーミィちゃん…やっと会えた……ずっとずっと探してたんだよ……」

 少し目を潤ませた門番は頬を紅潮させ、低音の甘い声で囁くようにフィミリーに語りかけている…

 甘い顔立ちの彼がそう語りかければ女性であれば骨抜きにされてしまうことだろう。

 しかしそれに身震いしながら、フィミリーは大声で言い放った。

「離せ!離せよ!いいか!僕は…男なんだ!」


 ドサリ、とフィミリーが地に振り落とされた音が響いた。

 絵に描いたようにショックを受けた様子の門番は、拘束していた手をあっさりと離しその場で呆然としている。

 地面に振り落とされたことよりも逃れることが出来たということしか頭にないのであろうフィミリーは、無我夢中でセシリオのもとへと駆け寄った。


「ファーミィちゃ…嘘だ、そんなの……男…だなんて……」

 門番の彼はその場にがっくりと膝をついた。


 ―――


 すったもんだの後…セシリオ達は、何故か門番の青年を交えて喫茶室にいた。

「いやぁ、すいませんね!お騒がせしちゃって!ファーミィちゃんが実は男だなんて、いくらなんでも信じるわけないですよねぇ~」

 バカにしすぎだぞ!とフィミリーの頬をツンとつつく門番の彼は、頭が弱いのだなとセシリオは思った。サクリーシャとチユキも苦笑いを浮かべている。


「申し遅れましたっ!ここで門番のバイトしてる、テリードって言いまーす!よろしくっ!」

 フィミリーのことを“ファーミィ”と呼ぶ門番の彼は、一行に迷惑をかけた詫びだと言ってお茶をご馳走してくれると申し出てきた。

 それを何度断っても諦めてくれず、ついには強引に連れられて今に至るという訳だ……


 テリードは腰の辺りまで伸ばした黒髪と、童顔に八重歯が特徴的な青年で、過去にフィミリーと数ヶ月同居していたらしい。

 彼いわく二人は本気で付き合っており(!)結婚するつもりでいた(!!)というのに、フィミリーの方がある日突然行方を眩ましてしまったのだと言う。


「あれから何年経っただろう…旅行中に急にいなくなって、オレ毎日毎日泣いて探したんだよ…」

「…」

 久々の再会を喜びペチャクチャと喋り続けるテリードに対し、フィミリーは脱け殻のようになり黙って座っている。


「ねえ、どうしていなくなったの?教えてよ…」

 テリードはフィミリーの身体をゆする。

「……もう良いじゃないですか。僕は男。今は忙しい。早くアウラークへ行きたい。それだけです…」

 機械的な返答をして立ち上がったフィミリーは、喫茶室の出口へと歩み始めた。

 一行はこのままテリードを置いて行くことが何故か躊躇われたために、フィミリーとテリードを交互に見ることしか出来なかった。


「―待ってくれ!じゃあせめて何故オレに近付いたのか教えてよ!」

 勢い良く机を叩きながら立ち上がるテリードに、周囲の客たちからも何事かと注目が集まった。


 するとフィミリーは足を止め、ゆっくりと振り返った。

「…裕福な人間を…一人でも多く、地獄に落とすためだ……」

 その瞳は普段のフィミリーとはまったく異なる暗く冷たいものだった。

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