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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
43/92

殺戮のダンスショー

 話はセシリオ達が神木へと続く門を抜けてから少し経った頃に遡る。

 余所者がかなり強引に祭に参加した上に、そのまま優勝してしまうという炎上必至な案件が起きている波乱のジャジュ祭だが、村人たちの感想は意外なものであった。

「…あの人、他国の王子なんですって……ほんと綺麗な顔だったわね……」

「…私はショタくんの方が……」

「あ、あの軍団、どこかで見たことあると思いきや、アミアちゃんの命の恩人だ…」

「いやいやいやいや何を言いますやら!あのイベントには共に参戦したでしょう!恩人はアミアちゃんの方で…」


 村人たちの話題はセシリオ達に関することでもちきりだった。

 内容は様々ではあるものの優勝をかっさらったことに対する不満が出ているということはとりあえずないようだ。


「んぉ?もうセシリオ達はゴールしたみたいだな?」

 片手にドス黒い飴のようなものを3本持ったキサが観客席の様子を見て言った。

「…あ……そ、そうです、ね……」

 隣には顔を青くしたチユキがひきつった笑顔を作りながら頷いた。誰が見ても一目で分かる程にとても気分が悪そうである。


「…ご神木の加護を受けている最中…でしょうか…」

 仲間たちの姿をキョロキョロと探すキサに対しチユキはそう呟いたが、キサは「ゴシンボクって何だっけ?」と言いつつさほど気にしていない様子で腰掛けた。


「チユキもコレ食う?なに味か分かんねーけど」

 キサは片手に持っている得体の知れない飴のようなものをチユキへ勧めてきたが、チユキの身体は今、食べるということ自体に怯えていた。

 それほどに先ほど口にしたトカゲは強烈な体験であった…いくらキサが勧めてくれたとはいえ、もう……

 勇気を出して断る為に顔を上げたチユキの目の前には、しかめっ面のサドが座っていた。


「……えっ…」

「……」

 せっかくの二人きりの空間に……

 緊張はするが、セシリオ達が帰ってくるまでキサを見つめて…いや、頑張ってお話したりするはずだったのに……

 しかしチユキにはこのお約束とも言えるタイミングが半ば分かっていたような気もしていた。


「……キサめ…味覚馬鹿が…」

 キサは険しい顔のまま地面に唾を吐き口を拭うとすぐに立ち上がった。

「サドさん…近くに敵がいるのですか?」

 チユキはもはやキサよりもサド相手の方が物怖じせずに話せるようになっていた。

 一部の変化はあるものの見た目はほぼキサであるにも関わらず、中身が違うと分かっているだけで不思議なものである。


「………ただの魔物程度の気配ではない…貴様はこの魔力を感じないのか?」

 サドはチユキに対しての返答をせずに立ち去ろうとしたが、それもかえって面倒かと判断し少しの沈黙の後にそう返した。

「……」

 サドの口の悪さはいつものことであるが、実際にそんな魔力を感じ取れない自分の情けなさも相まってチユキは何も言えずにいた。

 そんなチユキの様子などお構い無しに、サドが足早に歩き出したのでチユキもそれに付いて行くことにした。



 人だかりを少し抜けた所でサドは突然立ち止まった。

 そしてその視線の先には、このジャジュ村には明らかに不似合いな女性が立っていた。

 深紅の美しい髪を頭の頂点で見事に綺麗に束ねた、目鼻立ちのくっきりとした美女である。

 すらりとした身体をしているものの、胸や尻など女性的な部分はたわわに実っており、さらにそれらをアピールするかのように露出度の高い際どく派手な衣装を身に纏っていて、同性のチユキでも目のやり場に困る程だ。


(…じ、城下町にもあんな人はいなかったわ……一般人ではなさそう…)

 ド田舎のヤモチ村で育ったチユキには刺激の強すぎる人物だ。

 さすがのサドもみとれているかと思いきや、彼の目は好敵手を前にした戦闘狂のそれになっていた。


 そんなサドの尋常ではない殺気を感じ取った派手な美女は素早くこちらに振り返るとニッコリと微笑んだ。

「あら…男前なお兄さん…その冷たい瞳、アタシのタイプだわぁ」

 踵の高い真っ赤なヒールをコツコツと鳴らしながらゆっくりと近付いてくる彼女に、サドは刃を向けた。


「……勇者が目当てか…?」

 そう問われた派手な美女はさして意表を突かれた様子ではなかったが、わざとらしく驚いたリアクションを見せる。

「まあ!察しが良いじゃない!」

 彼女はそう言いながら手に持った美しい装飾の施された扇子で自身の顔を半分ほど覆った。


 そこまではチユキも冷静だった。

 しかし瞬きをした次の瞬間、辺り一面が炎に包まれていた。


「…えっ!?」

「…チッ!下がっておけ!」

 何が起こったか理解出来ないチユキは、サドの言葉通り美女から距離を取った。

(…今、詠唱とか、した…!?)

 この業火を起こしたのは間違いなく目の前の美女だが、魔法を唱える姿勢…否、戦闘態勢に入ったことにすら気付けなかった。

 この相手には敵わない。本能的にそれを感じ取ったからこそ、チユキは素早く後ろへ逃げることが出来たのだろう。


「ホホホ!パネイラ様のダンスショーよ!!骨が残ったら良い方ね!!楽しませてちょおだぁい!!」

 彼女、パネイラが扇子を振りかざす度に炎は瞬く間に燃え拡がってゆく…

 その騒ぎは村人たちにも伝わり、彼らの悲鳴がまたパネイラのテンションを上げていった。

「辛気くさいこんな村、全部燃えろっ!オーッホッホッホ!!」


 大きなつり目を見開き、高笑いをしながら炎を巻き起こす彼女からは、恐怖を感じる他なかった。

 ただひとつ分かることは、相手は躊躇なく生き物を殺すことが出来る殺戮者であるということだけだった。


 手足の震えは収まらないが、仮にも自分はランクカード所持の冒険者だ。

 サクリーシャのように勇気を出して、チユキは村人を守るために戦うことを決意した。


「さ、サドさん!み、皆さんが危ないので広い所で戦いましょう」

 チユキはサドに近寄り、補助呪文かけつつそう告げた。

 サドは村人のことなどどうでも良かったが、木々の多いこの場所を燃え拡げられるより良いと判断し、パネイラを広場へ誘導することにした。


「待ちなさい!逃がさないわよ!アンタが『黒いヤツ』なんでしょう!先に消し炭にしてあげるわっ!!」

 パネイラの言う『黒いヤツ』の意味はよく分からないが、警戒されていることだけはサドに伝わった。


 ―――


 こうしてサドとチユキが広場へとパネイラを誘導した所で、セシリオ達がこの惨状を目の当たりにすることとなった。


「まあ!お仲間が増えちゃったわぁ!アタシ、ピンチ!」

 パネイラは駆けつけたセシリオ達の姿を見てわざとらしくポーズをとった。

 しかし当然攻撃の手が緩むことはない。パネイラはその場で美しく舞い、扇子を天に振りかざした。

 すると今度は激しい雷が局所的に降り注ぎセシリオ達を襲う。


「なっ!こんな上級魔法を詠唱も無しに!」

 フィミリーは村に燃え拡がる炎を水魔法を使って火消ししていたが、パネイラの力に驚き手が止まる。


「皆様!こちらへ!!」

 強力な魔法だがとっさに村長が張ったバリアのおかげで、間一髪の所で被害は免れた。


「なんなのよ!鬱陶しいわねぇ!!」

 パネイラは鬼のような形相で爪を噛む。そんな彼女の感情と比例するように、炎と雷の攻撃は一層強力なものとなっていく。

「…あれほどの使い手であれば魔法での攻撃はおそらくあまり効果は無いじゃろう…このばりあーもそれほど広げられんしのう…」


 確かにパネイラは攻撃魔法のエキスパートと思われる。

 村長の言う通りこちらが安全な位置から魔法で攻撃しようにも、たいしたダメージを与えられそうもない。

 かといってバリアの外へ出て直接パネイラを斬りつけるにも、いくらセシリオやサドでもあの魔法を喰らいつつ、という訳にはいかないだろう。


「ならば私が囮になっ……パラパラぽー!!」

 またもサクリーシャが自分を犠牲にする案を出したかと思えば、彼女はそれを言い終わる前に突然奇声を上げた。

 どうやらいつもの呪いのようだ…今回は混乱状態に陥っている。その場でくるくると回りながら歌い始める。

 それを見た村長とワイトはひたすら目を丸くしたが、セシリオ達は一旦無視してもらうようにと頼んだ。


「…こうなれば…ワイト!おぬしの出番じゃ」

 サクリーシャのことを気にかけつつ村長が言った。

 しかしセシリオ達一行には、今も村長の背後で小さくなって震えるワイトの名が出た意味が分からない。


「…ひ…ひゃ、いやだ……む、むり……」

 か細い声を絞り出すように発したワイトに、サドは苛立ちを隠せず舌打ちをした。

「…皆様驚かれるでしょうが…実はワイトはこの村一番の呪術者なのですじゃ…」

 村一番?ということは今そう語るこの老人よりも、震えるこの少年が……?

 一行は村長の言葉を信じられずにいた。


「この子は小さい頃から妬み、嫉みの感情だけは人一倍強くての…他はからきしでも、呪術においてはそれが最も重要じゃからのう…」

 村長はそこまで話すともう一度ワイトの方を向いた。

「ワイト!その大きな藁人形であの女に呪いをかけるのじゃ!」

「…ひ……」

 ワイトは恐怖のあまり村長に反論することすら出来なくなっていた。


「もれにろみゃルー」

 全員の視線がワイトに注がれたその隙をついて、なんと混乱状態のサクリーシャがバリアの外へ出てしまっていた。

「やっと出て来たわね!しかもアンタ勇者じゃないの!!」

 怒り狂って扇子を振り回していたパネイラは、バリアから出て来たサクリーシャを見て高笑いする。


 その声でようやくサクリーシャが外にいることに気が付いたセシリオは、反射的にバリアの外へと走り出していた。

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