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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
36/92

ダンからの挑戦

 早朝に出発したセシリオ達であったが、洞窟を出る頃には日が暮れ始めていた。

 完全に日が落ちてしまえば草原に現れる魔物もより強くなることだろう……洞窟を抜けたばかりで疲れきっていた三人だったが、残りの力を振り絞り、セルディアの町へと早足で戻る。


 ―――


 遠目に町が見える距離までたどり着くと、入り口にたくさんの人々がセシリオ達の帰りを待っていることに気が付く。

「…みんな!おれたちのこと待っててくれたのか…!」

 その光景に、キサはすっかり疲れが吹き飛んだようで顔を輝かせ入り口まで走り出す。


「き、キサさんどこにそんな体力が……」

 フィミリーは疲労で両足を震わせながら必死に歩いている状態で、キサに続くことは出来ない。


 セシリオは城の者も多数が出迎えに来ていることに気付き、少し照れくさいながらも片手をぎこちなく振った。



 三人が無事に戻ったことに安堵の涙を流す者や、歓喜する者たちからひとしきり祝福を受けてから、セシリオ達はガーディアンへと戻るべくその場を後にした。


 ここ最近このような大騒ぎが起こっていた覚えはないので、セルディアガーディアンの実習を終えた受験生自体がしばらくいなかったのだろう。

 先日挑戦した受験生が失敗し命を落としてしまうという悲しい結末を迎えたことと、セシリオという国の王子が挑戦したということも、これほどの大きな話題になった一因かもしれない。

 ―などとセシリオが考えている間に三人はガーディアンの入り口に到着していた。


「うう…帰って来られたのですね……」

 朝、ここを出発したのが数日前のことのように思える。

 フィミリーの言葉でセシリオもキサもその喜びを噛み締めていた。


 ッバァン!!


 感傷に浸る三人の目の前の扉が勢い良く開く。

 あと一歩踏み出していたら危なかった。


「…おまえら…遅いぞ!!」

 扉の乱暴な開き方だけで予想はついていたが、そこに立っていたのはダンだった。

 激励の言葉すら無いのは予想するまでもないが、大きな仕事を終えたばかりのセシリオ達を罵声で出迎えとはさすがダンである。


「で、現在の主はどいつだった?殺った証拠は?」

 ダンは質問攻めを始めるが一応館内には入れてくれた。

 そのまま特別室のような場所に通されると、ダンは奥にある大きなソファへと腰を下ろした。

 ダンの目の前にある机をはさんで、ちゃんと三つの椅子が用意してあったのでセシリオ達も許可など取らずに遠慮なく腰掛けた。


「…現在の主は……食人植物でした…が……」

 フィミリーはぼそぼそと目を泳がせながらダンに報告する。

 キサも同様に焦っているようだ。


 おそらく戦うのに必死で討伐した証拠などすっかり頭から消えていたのだろう。

 今、ダンに証拠を出せと言われたことでその必要性に気付き焦っているのだ。


 ダンがそう言い出すことは分かっていた上に(そしてその要求は当然である)、唯一飲み込まれることなく冷静に戦えたセシリオはしっかり採取しておいた蔦と、頭に咲いていた花の花びらを取り出しダンに渡す。


 ダンはそれを受け取り観察し始める。フィミリーはセシリオに、穴が空かんばかりの強い尊敬の眼差しを送った。


「…ん、まあこれは本物だが…最近はサイクロプスが―」

 ダンがその言葉を言い終わる前に、セシリオはサイクロプスから削り取った角をダンの前に差し出した。

 ダンが言い出しそうなことを予測し、最深部で採れる鉱石や魔物が使っていたインテリアのようなものなど、採取出来る物は出来るだけ持ち帰っていた。


「俺はもう二度と行かんぞ」

 セシリオは自身の持つありったけの戦利品をダンの目の前の机に並べていった。


「…おう……やるじゃねぇか…」

 無表情、無感情で素材を並べるセシリオにダンもたじたじで、初の賛辞(?)を呈することしか出来なかった。



 その夜は夕食も豪華なものであり、ガーディアンの職員も数人交えた宴となった。

 しかし疲れがピークに達していたセシリオ達は満腹になると同時に寝落ちしてしまい、職員によってそれぞれの部屋まで運ばれた。


 ―――


 翌朝…とはいかず、セシリオは翌日の昼過ぎまで目を覚ますことはなく眠り続けていた。

 身支度をし、館内を一通り歩き回ったがキサとフィミリーを見つけることは出来なかった。二人はまだ夢の中なのかもしれない。


「おう。こんな時間まで眠りこけやがって。失格にしてやりたいくらいだ」

 ダンはじろりとセシリオを睨み付けながらそう言い放った。

 確かに合宿が始まって以来、これほどぐっすり寝た覚えはない。こんなことで失格にはなりたくないが、言い返すことも出来ない。

「…まぁ良い。最終試験は明日だ。あとのヤツにも言っておけ」

 ダンはそれだけ言うと詳しい説明は一切無しに教官室へ消えて行った。


(…最終……)

 ダンが言うからには次がいよいよ最後なのだろう。

 長い道のりであった…と感じたが実際はそれほど日数が経っているわけではなかった。

 しかしこれまでの覚えている限りの人生の中では、最も濃密であり苦しい数日間であったことは確かだ。



 夕食時になってようやく三人揃った際に、セシリオは最終試験が明日行われることをキサとフィミリーに伝えた。

「やっと終わるんですね!最後…何をさせられるのでしょう…」

 軽く想像するだけでも揃って顔色を悪くする三人だったが、ダンの考えることなど予想するだけ無駄なので食事に集中し、この日は早めに解散した。

 合宿が始まって以来のゆるい一日であった。


 ―――


「あー…これから最終試験だが…面倒だから三人まとめてかかって来い」

 試験場に集められたセシリオ達はダンから何を言われるのかと身構えていたが、案の定理解しがたい言葉が放たれポカンとしていた。

「…俺様が直接、おまえらの力を見定めてやるって言ってんだ。さっさとしろ」


 最終試験はシントライデルと同様、教官との実技であった。

 形式は同様…とはいえそれはセシリオ達にとってまったく別物だと感じられた。


 ダンは武器を持たず、防具も一切着用することなく…それどころか上半身裸の状態で戦いの場に立った。

 露になった上半身は、セルディアの人間の中でもひときわ筋骨隆々であることは言うまでもないが、歴戦のものと思われる傷痕がいくつも刻まれていた。


 …そしてその戦いの内容は…正直誰一人として覚えていない。

 混沌。

 まさしくカオスな状況となった。

 キサとフィミリーはこれまでのうっぷんを晴らすかの如く全力でダンにぶつかったが、ダンはそれらを全て自身の肉体で受け止めた後、片手で一人ずつ思い切り投げ飛ばした。


 初めこそ少しは遠慮していたセシリオも、そのあまりの勢いに次第に必死で抵抗するようになり、最終的には自身の放てる最高クラスの魔法まで使って戦っていた。


 だがダンの肉体には、とうとうかすり傷ひとつ付くことはなかった……



 目が覚めるとそこは、医務室のベッドの上であった。

「…あら、セシちゃん!気が付いたのね!良かった……あの人、ホントに無茶するんだからもう!」

 セシリオが身体を起こすとほぼ同時にニルが駆け寄って来た。


 ニルはダンの強引さに文句を言いながら手早く飲み水を用意し、セシリオに渡す。

「キサちゃんもフィミリーちゃんもまだのびてるわ…本当に、お疲れ様」

 ニルはにっこりと微笑んだ。


 …しかしダンには敗れるどころか傷を付けることすら出来なかった…

 ここまで死ぬ思いをしてきたのに、とうとうこれで失格だ……


「ふふ…セシちゃん、これでダメになったと思ってなぁい?」

 そんなセシリオの心の中を読むかのように、ニルは笑いながら尋ねる。

「…あのね、外での実習をクリアした時点で…実は試験はほぼ合格なのよ」

 その言葉に喜ぶのはもちろんだが、驚きと、それを今ニルが暴露しても良かったのかという戸惑いと様々な感情が入り乱れ、セシリオは自身の気持ちをどこに置いて良いか分からない。


「あの人との実技ではランクが決まるんだけど…C以上になった人は見たことないわね」

(…合格……!)

 短い間に色々なことが起こり、苦しいことや辛いこともあったが、これでついに終わるのだ…セシリオはひとまず安堵した。

 自分たちもおそらくCランクと判定されるだろうが、ランクカードさえあれば(ゲート)の使用が可能となる…

(これでやっと…記憶の手掛かりを…)

 まだスタート地点にも立てていないが、12歳の頃から求め続けたものに、やっと手が届きそうな気がした。


 ―――


 翌日、特別室へと通された三人は、ダンから直接ランクカードを手渡された。

「昨日の実技を見ての結果だ」

 結果は昨日のニルの予想通り、全員がCランクであった。

 キサとフィミリーは試験に落ちたと思っていたようで、輝くランクカードに驚きつつも喜びを隠せないようだった。


「なにCで喜んでやがんだ。この大陸から出たら二度とここには戻って来れんから今日が最後だぞ」

 このカードでセルディアの(ゲート)を使って行けるのは、Cランクであるピナシェのみであり、再びこの地に戻って来るのはランクアップするか、自力で海を渡る方法を見つけないことには不可能である。


「…とっとと行きやがれ!町の出入り口で暇なヤツらが待ってるぞ」

 ダンはソファに腰掛けながら、あさっての方向を向いたままセシリオ達にそう告げた。


「…ありがとう…ございました…!」

 三人はなんだかんだ世話になったような気もするダンに、深く頭を下げた。

 キサとフィミリーが部屋から退出した後、セシリオはその場に残りダンの方を見ていた。


「…なんだぁ?Cが不満なのか?」

 セシリオはこれでしばらくダンに会えなくなると思うと少し寂しく感じ、最後に挨拶をしておくつもりだった。

 しかしいざ二人きりになるとやっぱり照れくさい気持ちもあり、ダンの面倒そうな表情を見ている内に腹立たしい気持ちにもなってきた。


「…」

 それでもセシリオは感謝を伝えるべくもう一度頭を下げた。

 するとダンはソファから腰を上げ、セシリオの頭を平手でぶん殴った。

「…頑張れよ」

 あまりの力の強さにまたも怒りが沸いてきたが、ぼそりと、聞こえるか聞こえないかというくらいの小さなダンの言葉に、セシリオは胸を熱くした。



 ~~~



「…こうして俺たちは町の人間に祝福されながら母国を旅立った…というわけだ」

 長い昔話が終わり、しみじみとセシリオ達は頷いた。

「…うん、途中セシリオとフィミリーが同時に話してた時はよく分からなかったけど…過酷だったんだね…」

 サクリーシャだけは副音声も同時に聞くかのような構成になっていたため多少の混乱があったようだが、セシリオのみ知る真実もいくつかあり聞き応えはあったらしい。


「…でも…ローシュさん達は……残念でしたね……」

 チユキが悲しそうな表情で呟く。

「…いえ、そのことに関して実はまだ続きがありまして…」



 ~~~



 町人総出で盛大に送り出された後、その辺の魔物には苦労することなくあっという間に(ゲート)へとたどり着いたセシリオ達は、セルディアとの別れを噛みしめながら門番にカードを提出し、いよいよ(ゲート)に足を踏み入れようとしていた。


「…Cランクですね。ランクアップしなければ、この地へは戻って来れませんよ」

 門番からの最後の忠告に頷き、いざという所で突然門番の彼に話しかけられる。

「それにしてもお疲れ様。やっぱり最初はCなんだね…ダン教官は厳しいなぁ」

 事務的ではないその話し方でようやく、セシリオ達はその門番がローシュであることに気が付いた。


「ローシュさん!!!!えっ!!!?」

「はは、この格好だと気が付かなかった?」

 セシリオ達は夢でも見ているのかと、これでもかと言うほど目を丸くした。

「…まさかその反応……さてはダン教官…僕達のことネタバラシしてないのかな…?」

 ローシュはそう言って怪訝な顔をした後、ふうとため息をついた。


「…ダン教官は本当に人が悪いなぁ…」

「ちょっとローシュ!!なにダン先生の悪口言ってんの!?」

 ローシュに食い気味で鋭いツッコミを入れるのは、彼と同じく門番の格好をしたユウリであった。


 そしてセシリオ達はローシュから、ローシュとユウリは受験生を守るために覆面として受験生に紛れていたことと、ユウリはダンに相当惚れているということを聞いた。

「実際にセルディアの洞窟にも調査に行って、様子は見たけど…君たちならあの程度はやれると思ってたよ」


 やはり食人植物程度では彼らを倒すことなど出来るはずもなかったのだ。

 食べられるヘマなどするはずも無ければ、万が一食べられてしまったとしても自力で抜け出せるのだろう。


「ダン先生が受験生を見捨てるわけがないのよ。強い先輩が死んでも、挑む勇気があるかどうか試すなんて流石だわ…」

 今はダンに対する想いを隠す必要が無くなったユウリは、うっとりとした表情でダンについて語る。


 勇気を試す…その方法は一見ただの意地の悪いものに思えるが、実際に同期の仲間たちを目の前で失ったダンならではの方法なのかもしれない。


「こんな所で足止めして悪かったね。セルディアガーディアン突破の受験生なんて数年ぶりだから僕も本当に嬉しいよ。頑張ってね!」

 ローシュはセシリオ達と固い握手を交わし、笑顔で手を振った。

 そんな姿を見てユウリも我にかえり、旅立つセシリオ達を見送ってくれた――



 ~~~



「…俺たちはまんまと騙されていた…というわけだ…」

 セシリオは言葉とは裏腹に、その日のことを思い出しているのか穏やかな表情であった。

「本当に良かった!私もなんだかほっとした~」

「長話している間に、ジャジュ村はもうすぐそこのようです」

 フィミリーの言う通り、視線の先にはジャジュ村への道を示す看板が立っていた。村へはあと少しらしい。


 一行は雑談に夢中だったこともあり、この看板から大きく二つに別れた道を、何も考えずにジャジュ村の方…左側の道へと進んだ。

 シントライデル大陸の北端は、二股に細く別れた大陸の片方にぽつんとジャジュ村があるのみと思われているため、わざわざ看板にも何も書かれていない右側の道に興味を持つものはいない。


 右側の道を進んだ先の深き森の中に、どんな現実があったとしても――

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