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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
33/92

師匠との出会い

 悔しさからなかなか寝付けなかったセシリオ達三人であったが、それでも朝はやって来る。

 昨日の失態は、もちろんダンも知っているだろう…下手すればもう失格扱いとなっているかもしれない……


「おはよう!もう身体は大丈夫かい?」

 唯一の良かった点といえば、ローシュとユウリの二人と親しくなれたことだろうか。


「お二人とも、昨日は本当にありがとうございました」

「無事なら良かったよ。助け合いだからね」

 ローシュは聖人のような笑みで三人を迎え入れた。


「今日は教官、だるいから来ないらしいわよ。早く行きましょ」

 ユウリは昨日と同じく、ツンツンとした物言いである。だがローシュの言う通り、悪気がありそうな風ではない。


 …それよりも…

(だるい…だと……?)

「だるいって…まぁサボらないかどうかどっかで試してるんでしょうどうせ…」

 ダンのとんでもない欠勤の理由に全員呆れながらも、サボろうとする者はもちろんおらず、大真面目にホウキを持って町の外へと向かうセシリオ達であった。



 町から出る直前で、セシリオ達三人は顔を見合せうなずいた。

「…あの…ローシュさん、ユウリさん…お二人にお願いがあるのです…」

 今朝早くに三人でとあることを打ち合わせていた。

 立ち止まり、意を決してローシュ達にそれを打ち明ける。

「…良ければ…僕たちに稽古を付けていただけませんか?」


 ローシュ達の実力と、セルディア周辺の魔物の強さを目の当たりにしたセシリオ達は、このままやみくもに戦い続けるよりも、武器の使い方や立ち回りを彼らに学ぶ方が良いと判断した。


 …だがもちろん彼らは教員ではない。彼らには彼らの目的があってこの合宿に参加しているのだ。

 そのため断られることも充分覚悟の上である。


「…実は僕たちもそう言おうかと思っていたんだ。おせっかいじゃなくて良かった!」

 少し照れながら笑うローシュはやはり、本物の聖人であるとセシリオは思った。


 ―――


「じゃあ、剣士の僕にはキサくん、あとの二人はユウリに色々教わってくれ!」

 そう言うとローシュはキサを連れてセシリオ達とは少し離れた場所に陣取った。


「…あの、ユウリさん……お二人の時間を取ってしまって本当に……」

「くっちゃべってないで早く武器を出しなさい!」

 ユウリは既に手に武器を持っていた……調理用のオタマだ。

「…人に教えることが出来てこそ、一人前なのよ。…私の尊敬する師匠が言ってたの」

 …それはぶっきらぼうな言い方ではあるが、彼女なりの気遣いなのだろう。



「魔力はどんなものでも変換出来る!武器なんか使わなくても最大限のパワーが使えるようにしなさい!」

 ダンほどではないが、ユウリの指導もかなりのスパルタであった。

 彼女自身の厳しさも相まって、特訓はよりハードなものに感じられる。


「……!」

「…!出来た……」

 だがその分、成果はかなりありセシリオもフィミリーもたった一日で驚くほど上達した。

 昨日は低級魔法の一回すら成功せず、魔物にやられるだけだったが、今日はたった数時間でホウキから魔法を放つことに成功した。


「なかなかやるじゃない!飲み込み早いわね!」

 ユウリは大きな目をさらに見開き、セシリオ達にとっては初めてかもしれない笑顔を見せた。

「体内に宿る魔力というのは鍛練によって大きくしたり、新たに属性を増やしたりすることが出来る…学校で習ったと思うけど」

 ユウリはオタマを振り魔物が自身に近付く前に始末しながらセシリオ達に語りかける。


「そしてそれを何かしらの武器を使って放出する…。それ専用に作られた杖や魔導書なら、自分の魔力を増幅しながら放出出来るけど、こんなものでもやり方さえ掴むことが出来れば―」

 連携を取り群れをなして襲ってくる魔物グループに向かってユウリがオタマを振り上げると、たちまちそこに激しい稲妻が降り注いだ。

「自分の魔力はちゃんと思った通りに扱えるの」

 彼女の講義を黙って聞いていたセシリオは、昨日自分たちを救ったのは彼女の雷魔法だったのかと気付く。

 そのあまりの威力を目の前で見たことで、昨日は眩しさしか感じることが出来なかったわけだ。


「…ま、もちろんちゃんとした武器があるにこしたことはないけど……杖を使わない術者もいるし、自分に合ったスタイルを見つけるのね」

 セシリオとフィミリーは力強く相槌を打った。

「でもね、こないだ教官が言ってたみたいに、魔法使い一人が生き延びたとしても、魔物が気を遣う訳がない。いざという時にはなにがなんでも反撃出来るようにしなさいよ!」


 その彼女の一言が、セシリオとフィミリーの戦闘スタイルを大きく変えることになる。

 セシリオは自身の持ついくらかの剣術スキルを杖で繰り出せるようローシュにも鍛練を受けることを決意し、フィミリーはダガーに自身の魔力を変換させ、本来以上の物理攻撃力を産み出す方法をユウリに習う。


 時を同じくしてローシュとの特訓を重ねたキサも、この頃はまだサドに取り憑かれていない上に、両手剣ではなく片手剣を扱う剣士だったのだが、自力でセルディア周辺の魔物と渡り合う力を付けるまでに成長していた。


 ローシュとユウリという二人の若者との出会いは、単なる同じ志の受験生だということにとどまらず、今日までのセシリオ達の強さに深く関わった重要な師との出会いとなった。


 ―――


「うらああああ」

 キサのクワが、魔物の身体を真っ二つに裂く。

 セシリオに向かって来た魔物は、そのままホウキで薙がれ地に伏す。

 フィミリーの周りには、果物ナイフから放たれる風の結界が張っており、近付く魔物はそれに八つ裂きにされる。


 ローシュとユウリの指導を受け、セシリオ達はセルディア周辺の魔物相手にはもはや敵無しといった状態にまで成長していた。

 自身の鍛練の時間を割いて指導をしてくれた二人のおかげで、町周辺の魔物であれば今や素手でも殴り倒せるまでになっていた。


「ハハハ。すごいなあ。君たちは本当にスジが良い!」

 ローシュは顔をほころばせながら手を叩いて喜んでいた。

「…いえ…師匠たちのご指導のおかげですから……」

 フィミリーは歴戦の猛者のような顔つきをして、二人の師匠に頭を下げた。


「ローシュの指導、学校のせんせーより分かりやすかったぞー」

 キサも満面の笑みでローシュに感謝を述べると、ローシュは顔を赤らめながら笑っていた。


「なぁにが“師匠”だ。雑魚同士でよぉ」

 嫌味を吐くのがまるで仕事かのように、ダンが水を差す。

 セシリオ達はあからさまに不快な顔をしたが、ローシュとユウリはピンと背筋を伸ばし、ダンに向かって礼をした。


「…そろそろ誰か死ぬだろーと思っていたが…運良く生き残りやがって……次の舞台で死んでもらうからな」

 ダンは大きなあくびをしながら、受験生たちを置き去りにして大股で歩き出す。

 自身が受け持つ受験生にこんな暴言を吐く者を、セルディアはガーディアンマスターとしていて良いものか…セシリオは次期国王としてこれは課題だと感じた。


 ―――


 ダンが向かった先は、ガーディアン内部…つまりただ外から帰って来ただけであった。

「あー…明日からはグループで実習を行ってもらう」

 とうとう試験場での実戦か、この男を本気で痛め付けてやろう…と思っていたが違った。


「組分けは…もうおまえらで二人と三人に分かれてるみてぇだからそれで行け」

 それはつまり、セシリオ・キサ・フィミリーのグループと、ローシュ・ユウリのグループに分かれる、ということだ。実力と人数の割合を見ても丁度良いだろう。


「で…場所は…セルディアの洞窟だ。そこにいる今のボスを倒して来い」

「セルディアの洞窟!?」

 受験生達から一斉に驚きの声が漏れた。

 セルディアの洞窟とはその名の通り、セルディアの町からそう遠くない位置にあるちょっとした洞窟であるが、単に野を駆け回っている魔物たちよりもさらに強い魔物が住処としている場所であり、町の人間も滅多に寄りつかない危険な場所だ。


 強力な魔物が蔓延るセルディア大陸では、日々魔物たちも力を付け世代交代を頻繁に行っており、洞窟のボスもその時々によって変わる。

 それをたった二、三人で撃破とは…それもランクカードも持たない冒険者ともまだ呼べない者が……


「やめたいヤツはやめろ。…もしやるというなら……えー、ローシュとユウリ!おまえらの方がちったぁ経験があるみてぇだからおまえらが先だ!」

 ローシュとユウリはさすがに顔を青くしていたが、ここで尻尾を巻いて逃げるつもりはもちろんないらしく、威勢良く返事をした。


「明日の朝、出発!セシリオの方は三日後だ!せいぜい別れの挨拶でも済ませておけ!次の国王も誰にするか遺言しとくんだな!!」

 ダンは腕を組み下品に大声で笑うとそのまま部屋から出て行った。


「…セルディアの洞窟か……」

 ダンが出て行くと同時にローシュがふうとため息をついた。

「今はどんな魔物がいるのかしらね。…今日は買い出しと準備に時間を充てて、早く眠った方が良いわ」

 ローシュとユウリはすぐに頭を切り替えた様子で、てきぱきと明日のことに関して話し合いながら部屋を出た。


「…セルディアの洞窟…ローシュたちでもやばくねーか……」

 今日まで長らくセルディアで暮らしてきたセシリオとキサは、セルディアの洞窟がどれほど危険な場所か、嫌と言うほどに聞かされてきた。

「…あのお二人なら…いや、無事を祈りましょう。僕たちもそんなに時間がありません。装備品や道具をしっかり整えねば……」

 セルディアに住むようになってからまだ日の浅いフィミリーでさえも、そのことは重々承知している。フィミリーは冷静に話しながらもどこか怯えた様子だ。


 しかし恐れているばかりでは始まらない。このセルディアの町を出て、呪いを解くために世界を廻るには当然危険も伴う。

 そこらの洞窟ごときで立ち止まる訳にはいかない。

 セシリオ達はその日は実習の準備を整え、明日以降はローシュ達の帰りを待ちながら最終の鍛練を行うことに決めた。


 この時にはこの先に起こる辛い別れを、セシリオ達は知るよしもなかった……

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