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呪われた記憶  作者: 眠兎あみ
本編
24/92

ランクアップ試験~チユキ~

「そろそろ…時間ですね……」

 フィミリーは先ほどから時計をチラチラと見ながら立ったり座ったりと落ち着かない様子だ。

 多忙なガーディアンマスターの時間を割いてもらい特別に試験を受けることになっている以上、早めに現場へ到着しておきたいところ…なのだが。


 キサ……いや今はサドになっているのだろうが、とにかく彼がまだ宿に戻っていないのだ。

 キサ以外の仲間たちはなんだかんだ夕方頃には宿に到着しており、今日一日の出来事や得た情報などを共有していた。

 そしてチユキから事の一部始終を聞いたセシリオ達は、サドに変身し消えてしまったキサを心配していた。案の定、今もまだ戻って来ない。

「…私…サドさんを…怒らせてしまったから……」

 心配そうにうつむくチユキに、全員が一斉に首を横に振った。


「サドさんは、怒っていないことの方が珍しいですよ」

「あれが上機嫌である方が怖いくらいだ」

 そわそわしていても仕方がない。だがかといってもちろんすっぽかす訳にはいかない。


「…待っていても仕方ないな。俺達だけで向かおう。サクリーシャ伝えてくれ」

 そういってセシリオは立ち上がりそのまま部屋を出た。

 自分もそうだが、緊張感が目に見えたなら間違いなくこの部屋全体すごい濃度だというほどにピリピリとした重い空気に、全員これ以上耐えられないだろうと思ったのだ。

 特にムードメーカーのキサがいないことで、全員がただただ緊張だけを募らせてしまっていたこともあり、このままでは試験に悪影響すら及ぼしかねない。


 ―――


 そろそろ閉まろうかというガーディアンにこっそりと入ろうとするセシリオ達は、そこで柱にもたれかかり眠るサドの姿を見た。

 なんとかちゃんと全員揃ったという安堵と、やはりまだサドの姿なのかという落胆を皆が抱きながらも、代表してセシリオがサドの肩を叩いた。

「………」

「………」

 セシリオもサドも互いに一切言葉を発することはなかったが、サドは何も言わずセシリオの後に付いて来た。

 町の外へ出てしまっていたり、試験を拒否されることはなくてとりあえず良かったとセシリオは安心した。


 ―――


 セシリオ達が声をかける前に、一行を見つけた職員が率先して昨日の試験場へと案内してくれた。

 試験場にはまだメフィもファースもいなかったので、一行は最終の準備を始める。

 特に気合い十分のサクリーシャは準備体操をしっかり行っていたが、そもそもまともに試験を受けられるのだろうかとセシリオは今から不安であった。



 サクリーシャに続いて、腹部に重症を負ったというフィミリーをセシリオは気遣った。

『大丈夫か。無理をするな。棄権するか?』

 フィミリーはそれを見るや否や大粒の涙を流し、その場に身体を小さく丸めてうずくまってしまった。やはり辛かったのだろう…

「ぜじりおざまあぁぁ!!おぎづかいありがどぶござびまずずずず……」

 違った。セシリオからの気遣いが嬉しいということを重めに表現されただけのようだ。


 大号泣のフィミリーだが彼もセルディアで共に鍛え、共にあの地獄の試験を突破した少年だ。

 いや、カード取得という点では、この若さでセシリオと同時に合格したのだから、彼の実力は並大抵のものではない。

 要するに放っといても大丈夫だろう。



 ふと思い出しサドの方を振り返ると、部屋の壁にもたれてまたも寝ているようだ。

(こんな調子で大丈夫なのか……そもそもまだキサに戻らないのか…?)

 サドが現れるタイミングは大体戦闘が始まった時だが、戻る時に関してはランダムなところがある。

 戦闘が終わると同時にキサに戻ることもあれば、戦闘中でも突然キサに戻ることもある。

 さらに今回は戦闘でもないのに突然サドが現れたと聞いた。そんなことは初めてだ。キサの中の何かが不安定になっているのかもしれない…



「皆様、お待たせ致しました。準備はよろしいでしょうか?」

 セシリオが色々と考えている間に、メフィとファースが入り口に立っていた。

 何かと心配ばかりして自分の準備はまったくしていなかったが、今さら焦ることも別に特になかった。


 メフィとファースがセシリオ達の近くまで歩んでくる……と、ふとあることが気になった。

(ん?なんだ……?)

 ファースから異常ともいえるほどの香りがする……これはハーブのにおいだろうか……

 セシリオ以外も感じているのだろう。仲間達は皆、何とも言えない表情を浮かべている。


「では早速、お一人ずつ試験を始めさせていただきます……まずは…チユキさんからいきましょうか」

 ファースはセシリオ達の様子に気付いてないのか、淀みなく言い放つ。

「…は、はい!」

 緊張でただでさえ身体を硬くしていたチユキは、名前を呼ばれ飛び上がった。

「チユキさん以外の皆様は、部屋の隅でお休み下さい。当然のことながら手出しは厳禁です」


 ―――


「ではこれよりシントライデルガーディアン、ランクアップ試験を行います。自分の持てる力を全て出して下さい。アピールはどんなことでもどうぞ。こちらが皆様の身の危険を感じた場合は中断致します。皆様の方からのギブアップも当然認めます。制限時間などは特にございませんが、こちらが皆様の力量を判断した時点で終了となります。…何かご質問のある方?」

 中央に立つメフィとファース。そしてチユキ…

 メフィは腕を組み目を閉じてファースの言葉を聞いている。

 一方ファースは何の資料も持たずに注意事項をすらすらとあげていく。


 この試験はどうやら完全な実技試験のようだ。

 過去にセシリオがカードを取得したセルディアの試験も最終的には実技試験のみであった。

 その土地のガーディアンによって試験方法も審査方法もまったく異なると聞いていたセシリオは、ひとまず筆記などでなくてよかったと思った。


「チユキさん、準備はよろしいですね?では試験開始!」

 ファースはそう言うと両手を前に突き出した。背中に生えた蜘蛛の足も一斉にわさわさと動き出す。

 一番手ということでかなり不利といえるチユキだが、自分に出来ることを懸命に考え素早くファースから距離を取り、まずは自分に対し補助魔法をかける。


 ファースの攻撃は直接相手にダメージを与えるものではなかった。

 ファースの両手と、背中の蜘蛛の足から蜘蛛の糸が止まることなく出続け、みるみる何かの形が作られていく。

 それは蜘蛛の化身であった。

 とはいえ当然だが普通の蜘蛛のサイズではない。通常の手の平サイズの蜘蛛とは違い、人間よりも倍近く大きい数メートルの個体であった。

(なるほど……かなり特殊な術だな……)


 チユキはだんだんと蜘蛛の形になっていく魔法の蜘蛛の糸を見ながら恐怖している様子だ。

 そうしている内についに蜘蛛の化身は完成し、とうとう動き出す――と、思いきやピクリとも動くことはなくただチユキの前に立ちはだかるのみであった。

(…失敗か……?)

 セシリオの他、全員がそう思ったがファースは特に動揺する様子は見せず、チユキの動きをじっと観察していた。


 チユキは術者であるファースを狙おうとするが、その動きを蜘蛛の化身が阻む。

 どうやら自ら動き、攻撃をするわけではないが、術者であるファースのことを守るように出来ているようだ。

「……」

 チユキは自分の倍ほどもある蜘蛛に攻撃する術は持っていないようだ…セシリオ達が心配そうに見つめていると、意を決したようにチユキは詠唱を始めた。


「…!あれは…攻撃魔法の詠唱ですね…!」

 フィミリーは驚いたように呟く。これまでの戦いでチユキが攻撃魔法を使ったことはなかったので、フィミリーの発言で他の仲間も驚いているようだ。

「チユキ…いつの間に……まさか今日少し鍛えただけで?」

 サクリーシャも誰に言うわけでもないが思わず口に出してそう呟いていた。

 一発逆転の瞬間を、全員が確信したその時、チユキの重ねた両手から―


 ポヒュン……


 ごく小さな火の玉……のような煙が放たれた。

 当然それは逆転の一撃とはいかず…それどころかチユキの数センチ先で跡形もなく消えてしまった……

「……!」

 放ったチユキ自身も、ここまでの失敗に終わるとは思っていなかったのか、ポカンとした表情を浮かべる。

 そしてそのすぐ後に事態を把握し、顔を真っ赤に染めた…



 その後チユキはめげずに何度か攻撃魔法を使用したが、そのどれもが強烈な一撃とはならず、成功もほとんどしなかった。

 たまに成功しても初級レベルなので、ファース本人はおろかファースが出した蜘蛛の化身にもまともなダメージを与えることは出来なかった。


「……チユキさん、……他に何か攻撃手段はお持ちでしょうか」

 ここでファースから終了の合図が送られた。

「………ありません………」

「…では、回復術の方を見せていただきます。そちらの方がお得意だと聞いておりますので」

 がっくりと肩を落とすチユキを気にする様子も見せず、ファースは蜘蛛の後ろからひょいと現れると、自身の背中の蜘蛛足で蜘蛛の化身の体を数ヶ所切りつけた。

 蜘蛛の化身は特殊な糸で作られているため、当然中身は空洞であった。


「こちらの蜘蛛さんの体を治してみて下さい」

 チユキはいまだ落ち込んでいる様子だったが、ファースからの指示で我にかえり、化身に手をあて祈った。するとみるみる化身の体は元に戻っていった。今や切りつけた跡すら残っていない。

 チユキは試験がダメだったと思っているようでかなり落ち込んでいたが、その回復速度はいつも通りの速さであった。


「…ほう。これほどの能力でこの速度……これは素晴らしい」

 ファースはぼそぼそと呟き、いつの間にか手に持っていたノートに何やら書き込んでいる。

「…はい。OKです。チユキさん、他に何かアピール出来る能力はございますか?」

 やはりファースは淡々とした様子だ。

「……いえ…」

「かしこまりました。ではこれで終了とさせていただきます。お怪我はございませんでしたか?」

 結果が分かる前から今にも泣きそうな様子のチユキに、ファースはにっこりと微笑んだ。


「…チユキさん、僧侶や神官の方もおられます。何も物理攻撃力だけを見ている訳ではないのですよ……」

 ファースはそのようにフォローを入れつつ、セシリオ達の方へとチユキを促した。

「あとは結果を待つのみです。皆様と一緒に他の方を見守っていてあげて下さいね」

 チユキはファースのフォローを受け、こくんと頷くと小走りでサクリーシャのもとへ駆け寄った。

「…サクさん…私……」

 しゅんと垂れ下がったチユキの耳を見て、サクリーシャは大丈夫だよ、すごかったよ、とチユキを励ました。



「次は…フィミリーさん、前にどうぞ」

 仲間達がゆっくりチユキの健闘を讃える間もなく、続いてフィミリーの名がファースの口から呼ばれた。

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