キャンディは友だちのしるし
「す…すみません……あの、続きをどうぞ…」
睡眠状態からようやく意識を取り戻したサクリーシャは、セシリオからの状況説明を聞き、赤面しながら小さくなっている。
アミアはサクリーシャが目覚めたことをひとしきり喜んでから、再びフィルとのエピソードを語り始める。
「出会ったのは少し前なんだけどぉ…アミアがまだ新人の頃に行った町で、お腹を空かせてうずくまってたの…」
天魔という珍しい種族に生まれた彼は、研究対象かもしくは迫害される立場で、その日の食事にありつくのも厳しかったのであろう。
当時からキャンディという名前で活動していたアミアは、実際に甘いものに目がなく常に持ち歩いているらしく、それをフィルに分け与えたそうだ。
フィルも初めは受け取らず警戒していたそうだが、めげずに友人かのように接するアミアに次第に心を開いたのだろう。彼女いわくすぐに打ち解けたらしい。
「それからアミアも大きいコンサートとか出来るようになったんだけどぉ、いつも必ず観に来てくれるんだぁ!」
…なるほど、以来フィルはアミアの熱烈なファンというわけだ…確かに彼にとってアミアのような人種との出会いはさぞ貴重なものだろう。
一行に不思議な空気が漂ったが、言葉を発する者はいなかった。
「でもぉ、今日はなんでケンカしちゃったのかなぁ…」
「アミアさーん!そろそろ移動のお時間でーす!」
大人気アイドルである彼女はこの後もスケジュールが埋まっているようで、フィルについての疑問を解消出来ないまま一行との別れの時間がやってきた。
「はぁ~い!……じゃあバイバイだねぇ~みんなありがとぉ~」
「こちらこそ、本当にありがとうございました」
フィミリーとアミアは固い握手をかわす。アミアはにっこりと微笑んで、自身の手荷物からキャンディを取り出すと全員に配った。
「アミアこんな風にお友だちとお話するの久しぶりだったぁ!また会おうねぇ!」
彼女の中ではセシリオ達は既に友人認定なようだ。満面の笑みで両手を振ると、くるりと可愛らしくターンして控え室から出て行った。
決して長い会話とは言えなかったが、多忙な彼女にとってみればこれでも特別な時間だったのかもしれない。その明るい振る舞いの裏で、実は寂しい思いもしているのだろう…
―――
「…セシリオ様……本当に申し訳ございません……」
「私も…みんなごめんなさい……」
アミアが去った後も控え室に居座り続けている一行。
サクリーシャとフィミリーのアミア護衛組は、依頼としては失敗に終わってしまったためその責任を感じているようだ。
「気にするな、どうとでもなる…」
自身もアイドル護衛の依頼を軽く考えてしまったことが原因だと考えていたため、セシリオはサクリーシャ達を責めることは一切出来なかった。
自身の呪いを解くことより、今は仲間達の方がすっかり優先になっていることに気付いたセシリオは、これからも呪いを抱えながら生きていくこともやむを得ないと思っていた。
(…これではもう……)
このままのランクではこれ以上危険な大陸に行くことは出来ない。セシリオ達のランクが低ければ、サクリーシャを連れて門を使用することも出来ない。
この大陸から動けないとなると、魔王を倒すことや自身の呪いの手掛かりを掴むのは難しいだろう。
(…ここまでか…)
セシリオがまたもや思考の渦に捕らわれていると、その背中をキサが思い切り叩いた。
「セシリオ!!おまえま~た思いつめてんだろ!とりあえず迷宮で取った石を渡しに行くぞ!」
背中は痛むがやはりキサの存在はありがたい。すぐにあれこれと考えてしまうセシリオを、遠慮なく現実へ引き戻してくれる。
セシリオは心配そうに自身を見つめるキサ以外の仲間に、すまなかったと礼をすると勢い良く立ち上がりガーディアンへと歩き出した。
―――
「あっ!セルディア王子様!よくぞご無事で…」
セシリオ達に声をかけたのは、日中ガーディアンマスターへと繋いでくれた依頼所の職員であった。
すっかり日も暮れ、本日分の受付を終了したガーディアンはさすがに閑散としていたが、業務はまだ残っているのか職員達は忙しく動き回っている。
依頼所の職員は自身の抱えていたであろう業務を中断し、セシリオ達を奥へと案内する。
「いやぁ本当にどうもありがとうございました!大変な依頼を引き受けていただいて…とても助かりました」
満面の笑みで感謝を述べる職員に、実は依頼を失敗してしまったとは言い辛かった。
しかし考えてみれぱアミアのイベントには数名のガーディアン職員も参加していたようなので、今日の騒ぎは既にマスターの耳にも入っているはずである……セシリオは戸惑いつつも職員へ誘導されるがまま、奥の部屋へと入室した。
その部屋はランクアップの試験を行うための広い部屋であった。
セシリオ達がランクカードを取得したセルディアでも、最終試験は同様に広い部屋でマスター相手に実演という形であった。
(…なぜこのような部屋に……どうなっているんだ?)
キサやフィミリーも自身の経験からこの部屋が試験場だと気付き、不思議な表情をしている。
依頼は失敗に終わったのだから、優先的に試験を受けられるということはないはずだが……まさかセルディア王子ということで特別待遇ということになってしまったのだろうか…
(!)
その時、セシリオの視界に一行以外の人影が入った。
薄桃色の繊細な髪を腰の辺りまで伸ばし、あどけなさの残る表情と背丈から年端のいかない少女に見える。
しかしその身体に似合わない頑丈そうな鎧を身に付け、背筋をピッと伸ばし腕を組みこちらを凝視する姿は、とても少女と呼べるものではなかった。
「…セシリオ王子ご一行。よくはるばるこのシントライデルまでお越しいただいた…」
少女はセシリオ達に語りかけながらゆっくりと近付いて来る。
「私はメフィという者で、このガーディアンのマスターをさせていただいております…よろしく」
ぺこりと頭を下げつつも、メフィは腰に携えたレイピアに手をやった。
「…まぁあまりくどくどと語るものでもないでしょう……ではガーディアンマスターメフィ、参ります!!」
そう言うが早いか、こちらが身構える隙もなくメフィはレイピアを抜き、猛スピードでセシリオ達と距離を詰める。
何が何なのかまったく理解出来ないセシリオ達は、とにかくその一閃をかわすことしか出来なかった。
紙一重で攻撃をかわしたセシリオ達とメフィの間には、その場に竜巻でも起こったかのごとく激しい砂ぼこりが舞った。




