第七十一話
「で、その『一部』なんだけど、他と違う所があるの。なんだと思う?」
そう言ってクーは、両手で顔を挟むようにして頬杖をついた。
「…………異形に人権を与えているか否か……。違うか?」
「う~ん。カン、いいね……。正解。で、今崩壊してるのが、異形を【人】じゃなくって【物】として扱っている国だよ」
「そうか……」
「あ! それと、あの液体化した人間? まぁ、どっちでもいいけど。あれ、何千万って人間が使われてたよ。しかも、程んど異形に分類される人間。きっと、どこかの国じゃ異形が居なくなってたりして」
冗談めかして言ったクーは、くすくすと笑い。
シルヴィオは苦笑。
「そうだな。ファバルから異形が消えたのも頷ける」
「……え…………。それ、本当……?」
「あぁ。一人もいない」
「……そう、なんだ…………」
シルヴィオの発言に、クーは頬杖をつくのをやめ、表情を曇らせて俯いた。
その後。
二人は何も話さず、沈黙。
「…………あのね。あたし、あの人たちを元に戻してあげたい。でも、もうあの中に魂はない……。だから、もし戻せたとしても、魂のない抜け殻なんだ」
そう言ったクーは俯いたまま。
この様子に、シルヴィオはそうか、と言い。
リビングは再び沈黙が支配した。
「うんびゃ~~……ぁぁ…………」
沈黙を破った変なだみ声。
シルヴィオは声のした方を向く。
「タヌキ。起きて来たのか……?」
彼の問いに返事をするかのように、二人がいるテーブルに近づいてくるタヌキ(腹が揺れている)。
クーは現れたタヌキを食い入るように見つめ、席を立ち、それに近寄ってしゃがみこむ。
しばし、もふもふと毛にふれていたが、スッと立ち上がり、真剣な表情でシルヴィオを見据えた。
「この猫。なにがあったの……?」
「? なにって、エサの食べ過ぎたろう……?」
当たり前のことを聞くクーに、シルヴィオは怪訝そうに答えた。
しかし、クーは彼の返答が気に入らなかったらしく、声を荒げる。
「もう! そうじゃなくって、なんでこんなのがかけられてるの、って聞いてるの!!」
「……だから、なにがだ…………」
「しらばっくれないで! ウェルが言ってたでしょ!!」
「だから何を……」
「もう、この子零級がかけられてるの!」
「……その零級とやらは、【錬成圧縮】だけじゃなかったのか?」
「当たり前でしょ、難易度を示すだけの基準なんだから! もう馬鹿じゃないの!!」
声を荒げるクーにシルヴィオはとりあえず、そうかとだけ言った。
「むぅ……。ウェル、何も言わなかったの?」
「あぁ。何も……」
「そっか。まぁ、零級以外にも、魔法を何十に重ねて巧妙に隠してあるもんね。気づかなくて当然か……。あたしも、零級の気配を感じて気づいたくらいだし」
悔しそうな顔でクーは腕を組んだ。
「しかも、あたし。魔法解除苦手なんだよね……」
へにゃっと笑ってへにょへにょ床に座り込むと、じめじめとした雰囲気を醸し出し、指で床に【の】の字を書き始めた。
ありがとうございました。
明日に続きます。




