第七十話
「あ。そうそう、忘れちゃうとこだった! ねぇ、シルヴィオとウェルは、一部を除いて世界中が大変なことになってるの、気づいてる?」
絶句するシルヴィオを見上げ、いつの間にか鎌を消したクーは無邪気に笑って小首をかしげた。
シルヴィオはそんな少女に呆れた様子で、ため息をつく。
「…………話はそれの上から降りて、治療が済んでからだ……」
「え? 治療? そんなもの必要ない必要ない! だってウェルは勝手に回復するんだから」
「………………テファ。子供たちを部屋に。それが終わり次第休んで良い」
シルヴィオは疲れた顔でクーの腕をつかみ、ウェルコットの上から退かし、ずかずかと部屋から出てくる。
テファは振り返りポカンとしたが、すぐに表情を引き締め、頷いた。
「分かったわ。でも、休むのは無しよ。それで、話はリビング……?」
「あぁ……」
「そう。よし、さぁ皆。お部屋に帰りましょうね?」
天使の微笑みを浮かべて不服そうなフォードと双子にそう促し、涙を流してしがみついているラティたち三人を抱きかかえ、子供たちの部屋に行くテファ。
シルヴィオは彼女を見送り、思った。
顔に似合わないムキムキの体が実に残念だ、と。
「ちょ、ちょっと、痛いって!」
「うるさい。黙ってついてこい」
「ヤ! ウェルといるの!!」
上目づかいで駄々をこねるクー。
この姿だけを見ていれば、実に害のない。
しかし、クーの発言によって、シルヴィオの頭の中を不吉な予想が駆け巡った。
そう例えば。
この少女をこの部屋に置いておくとする。
一向に目覚めないウェルコット。
おそらくこいつなら、伸びているウェルコットを確実に殴打するだろう。
それでなくても、何かしらの危害を加える。
先ほどが良い例だ。
再び刃物など取り出されてはたまらない。
彼はそう判断した。
「何? 何か言いたいことあるの……?」
ムッとした様子で問うクーに、シルヴィオはため息をついてなんでもないと言うと、再びつかんでいる手を引いてウェルコットの部屋を後にした。
――――こうしてリビング。
シルヴィオとクーはテーブルを挟んで座った。
「……で、どういうことだ?」
「ん? あぁ、さっきの続きね。そうだね~、今まで起きたことだとね。異形と魔術師の力の少量ながらの返還に、大地の大崩落。水源の干上がり。それに伴う作物の不作。で、大飢饉! 大変なんだよ?」
「大変」と言っておきながら、そんなこと毛ほどにも思っていない様子のクー。
シルヴィオはひどく疲れを感じた。
「で。それがどうした……?」
「どうしたって……。どうもしないよ? でも、食料を求めて――ってこともありうるでしょ?」
「今のところこの国ではそのような現象は確認されていない。それに、俺も、ウェルも力の返還は行われていないはずだ」
「だから、『一部を除いて』って言ったじゃん?」
「……つまり、その『一部』にファバルが含まれてる。と?」
「っそ。せ~ぃか~い!」
パチパチと手を叩いて笑うと、テファは表情を引き締めた。




