第六十九話
扉をふさぐようにして固まるシルヴィオとテファ。
驚愕の表情を浮かべる二人の先には。
覆いかぶさる幼い子供に、必死で枕を押し付けているウェルコット。
『ウェルコットが少女に襲われている』
この現実が二人の頭を覆いつくした。
「うるせーな……。何があったんだよ…………」
首筋を掻きながら、眠そうなフォードの声。
後ろから聞こえる複数の足音。
「?! こっちに来るな!!」
「?! こっちに来ちゃダメ!!!!」
シルヴィオとテファは声をそろえ、慌てて振り返ると部屋の中を見せないように子供たちの前に立ちふさがった。
「いや、もう来てるし……。先の声、魔導師のあんちゃんだろ? どうしたんだよ」
「え、えっとね……。そう! だいじょ、大丈夫なの!! ね! ほ、ほほほほら、お、お部屋にか、かか、帰りま、しししょ!!」
「…………やっぱり何かあったんだろ……?」
不審過ぎるテファの反応に頭を抱えそうになったシルヴィオ。
もちろん不審過ぎる彼女に気づかないほど、フォードも鈍感ではなく、疑う視線を寄越した。
「ギク……。い、いやね、フォード。わ、私をう、うう疑うの?」
「…………………………これで疑うなって方がおかしいと思うのは俺だけか?」
フォードはテファに対して困ったように笑い、シルヴィオに言い。
言われた方のシルヴィオは片手を顔に当て、ため息をついた。
「フォード。良い子だから、皆を連れて部屋に帰りなさい。ウェルは大したことはないから」
「大したことありますから!! 変に勘違いしないでください、早くこのカマを、っぐは…………!」
ドッと重い音が響いた。
これに子供たちの顔に恐怖の色が生まれた。
「いやだぁウェルったら~。『カマ』って何の事~? あ、わかった農具の鎌ね! よし、それでウェルの手足切り落としてあげるね!」
そう言って左手を広げたかと思うと、次の瞬間には鋭く光る紅い刀身の鎌が握られていた。
「「「「「「?!」」」」」」」
聞こえたクーの言葉に、恐怖を覚えたラティ達小さい三人は今にも泣きだしそうになり。
それを見たテファが慌てて三人を抱きしめた。
彼女が居なくなったことによって、室内が見えたフォードとルルカ、ルルク。
三人の驚愕と恐怖の混じった顔に驚き、慌てて振り返ったシルヴィオ。
四人の視線の先。
ぐったりとしたウェルコットにまたがったまま、クーが鎌を振り上げている姿があった。
「「「あ……!!」」」
「?! やめろ……!!」
シルヴィオは慌てて室内に入り、鎌を振り下ろしたクーの手を、ウェルコットの腕にふれる前に止め。
出血がないか彼の衣服に目を向けた。
衣服は切れているが、出血は見当たらない。
これにホッと一息ついて、彼はクーに目を向けた。
「なんで止めるの? 両手足落としちゃえば、ウェルはあたしから逃げたりしないしぃ~。あたしが面倒見れば問題ないしぃ~。実験体確保しなくていいし。良い事づくしでしょ?」
ケロッとした顔で笑うクー。
その無邪気さに、シルヴィオは言い知れぬ恐怖を感じた。




