第四十三話
太陽が顔を出し、明るくなり始めたころ。
ウェルコットはリビングで本を読んでいた。
窓の外から聞こえる鳥の囀り。
しかし、それに混じって聞こえる蹄の音と、数人の足音。
これにウェルコットは本を閉じた。
――――トントン。
控えめに聞こえたノック。
ウェルコットは座っていたソファーから立ち上がり、そこに本を置いて玄関へ。
そして、扉を上げた所に居たのは、フードつきのマントを身に着け、頭からすっぽり全身を覆った男。
ウェルコットは一瞬身構えたが、目深くかぶられたフードの合間に、銀色の髪が見えた。
それに彼は驚いたが、それをおくびも出さずに微笑み、その人物を屋敷の中へ迎えた。
男は小さく頷いて家に入ると、扉が閉まったのを確認し、かぶっていたフードをとる。
「シンディはどこです?」
男・イルシールは、目の前にいるウェルコットを見据え、問う。
「二階に上がられまして、左奥のお部屋に」
「そうですか、ありがとうございます」
イルシールはそう言って階段を上がっていた。
この間イルシールの表情に変化はない。
そのせいで、冷酷そうな印象を受ける目元が一層際立っていた。
(シルヴィオ。イルシール様がお怒りですよ……)
内心で手を合わせるウェルコット。
実は彼。
イルシールが父親に似た目元を気にして、常に微笑みを浮かべていることを知っていた。
彼の微笑みが完全に消え失せた時。
必要以上かかわってはいけない。
ウェルコットは一つ頷き、そそくさとリビングに戻り。
先ほど腰かけていたソファーに座り、読みかけの本を開いた。
このころ。
シルヴィオはまだ布団の中。
そしてそんな彼の部屋には、静かに激怒しているイルシール。
彼は勢いよく、シルヴィオがくるまっている布団を片手で取り上げた。
「……ぅ…………」
「シンディ。起きなさい」
布団片手に、呻くシルヴィオを見下ろす、イルシール。
「…………兄さん……。どうしたんです? こんなに朝早くに」
いかにも眠たげなシルヴィオ。
そんな彼に、イルシールは表情を動かさずに言った。
「『どうしたんです』……って? それは私が聞きたいことですよ。シルヴィオ」
「ぁ……。えっと、なにか?」
イルシールの様子に気づいたシルヴィオの顔色が変わる。
「「なにか』ではありません。誰がブタブッティ国、国王並びにブタブッティ国民を殺せと言いました? おまけに自国の貴族まで……。それ相応の理由があるのでしょうね?」
「理由と言うより、訳ならあります」
「聞きましょう」
「ありがとうございます。ブタブッティ王と自国の貴族の死ににつきましては私の監督不行き届きです。本来であれば尋問の上、処刑する予定でした。そして、ブタブッティの国民は殺した覚えはありません」
「……ではなぜ。一瞬にしてブタブッティ中の人間が消えるのです?」
「どういうことですか?」
「言葉のとおりです」
「いえ、ですから――」
困惑するシルヴィオに気づいたイルシール。
彼は一つため息をついた。
「青い光のと爆音の後。ブタブッティ国中から人が消えました。おまけに部下の話では、目の前で仲間が消えたとのことです」
イルシールの言った言葉に、シルヴィオが目を見開く。




