第三十九話
「い、いえ。私はてっきり、王と剣を交えたのかと思っておりました」
「私はシルヴィオ様が剣を抜きたくないとお考えで、別の風に命令されたのかと……」
ウェルコットとエルセリーネが、ばつ悪そうな顔でいった。
「しーちゃんが極悪非道な子になってる……あぁ、奥様。申し訳ございません。必ず、必ずやしーちゃんを更生させて見せます。奥様、どうか私たちをお見守りくださいませ!」
「はいはい。戻ってこようかテファ……」
手を組んで天井を見上げるテファ。
シルヴィオはそんな彼女に深々とため息をつき、疲れた様子で声をかける。
「あぁ、奥様。しーちゃんが不良に……。あぁ、あぁ…………」
テファは戻ってこなかった。
むしろ深みにはまった様子だ。
シルヴィオは彼女の様子に呆れ、ウェルコットの方を向くと、彼は困った顔で肩をすくめた。
その様子を見て、シルヴィオの頭によぎった疑問。
『代償』と、聞こえた『声』。
そして、いうことを聞かない『風』。
まず、『代償』これについて、シルヴィオは罪を犯したと同時に、人間になった時の視力を失った。
そして、今。
髪の色も失った。
(確か、『代償』は『二つ目の姿のなかで、一番大切に思っている物』だったはず。この『大切』と言う基準は生命維持機能を意味してはいない。そう、あいつは言っていた。だが、どこまで失うのかは不明だ。と……)
顎に手を当て、考え始めたシルヴィオを、ウェルコットとエルセリーネは不思議そうに見ている。
テファは相変わらず何か祈っていた。
(まぁそれはどうでも良いが、問題は『声』と、余計なことをする『風』だな。この二つは俺の行動が影響してないはず。だが、断定はできない。厄介なことになったな)
「シルヴィオ。何か思い当たる節でも?」
「あぁ、あり過ぎる」
シルヴィオはウェルコットの問いに、満面の笑みで答え、それを見たウェルコットがあきらめた様子で小さくため息をついた。
「ふふ、エドレイ王子様のものまね、とても上手ですわ」
「似てたか?」
「えぇ、とっても」
シルヴィオは「そうか」と言ってエルセリーネと一緒に小さく笑う。
その様子を見たウェルコット。
「宝物庫のアレは、その『エドレイ皇子様』とやらのものまねだったのですね……」
彼は二人から目をそらし、諦めたようにフッと息を吐いた。




