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愚者の歩  作者: 双葉小鳥
愚者の道
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第十八話

 彼が向かった先は、昨日と同じく王宮、の人気の少ない廊下。

 執務室を目指し、シルヴィオはゆっくりと歩き始めた。

(にしても、腹減ったな。そういや昨日は朝飯にパンを一つで、昼飯は食ってねぇしな……。しかも、晩飯があれで、今日の飯は足一つ……)

 ファバルの食事はこんなものだっただろうか?

 シルヴィオはそんな疑問と同時に、深いため息をついた。

(…………まぁいい。いつでも食べようと思えば食える。今は、内戦に導いた奴と、宝物庫を空も同然にした貴族の処分、国土の回復。この二つだな)

 めんどくせぇ。そう、シルヴィオが思い顔をしかめたとき。

 一人の気の強そうな女が、腕を組み、怒りをあらわに立ちはだかった。

「先ほどからあたくしが話しかけているというのに、無視とはどういうことですの?!」

 女は腰に剣を下げ、ファバル皇国では男性の格好。

 つまり、左合わせで踝よりやや上の上着を、幅の広い紐で縛っており、その下には裾を縛ったズボンを着用している。

 しかし、ファバル皇国はこのような姿が一般に許される物ではない。

 それに女の話し方からして、おそらく貴族だろう。

(また厄介そうなのが……)

 そう考え、シルヴィオはため気を着いた。

「なんて無礼なの! あたくしが話しかけてあげているというのに、無視の次はため息ですの?!」

 勝手に怒気を深めた女。

 この女は何様気取りなのだろうか。

 そうシルヴィオの頭に浮かび、彼は女を見なかったことにし、通り過ぎようとした。

 それをみた女は、素早く剣を抜き、シルヴィオの喉元に向け、言った。

「どこへ行きますの? あたくしの話はまだ終わっていませんことよ!」

「はぁ……。何の用だ…………?」

「まぁ! あなたこのあたくしを知りませんの? いいですわ。教えて差し上げますわ。あたくし、クリスティアラ・ナフィ・ロドファンといいますの。あぁ、あなたは名乗らなくて結構ですわ。だって、これからあたくしに倒されるんですもの! おーほっほっほ!!」

 高らかにそう宣言し、声高く笑う女・クリスティアラ。

(誰もお前の名前なんぞ興味ねぇっての……早くいなくなってくれねぇかな…………)

 しかし、そんなシルヴィオの願いは届かず、クリスティアラは何か言っている。

 めんどくさくなったシルヴィオは剣を向けられたまま、彼女の話を聞き流すことにした。

「さぁ! あたくしと勝負なさい!!」

 クリスティアラがそういったのは、約三十分後だった。

 そして、シルヴィオは彼女に鍛錬場に連行された。

 どうやら彼が姿を現したところは鍛錬場が近かったらしい。

「で。私に何の用だ?」

 シルヴィオは、倉庫から剣を一本持ってきたクリスティアラに問う。

「何の用、ですって? あたくしの部下に傷を負わせたのはあなたでしょう!!」

「皆目見当もつかないのだが」

「とぼけても無駄ですのよ! あたくしの部下がそう言いましたの! さぁ、剣をおとりなさい」

 クリスティアラはそういって、持ってきた剣をシルヴィオの足元めがけて投げ、腰に下げていた剣を抜いて構えた。

 それを見たシルヴィオはため息をつき、踵を返す。

「あいにく、私は忙しいのでな。失礼する」

「まぁ。しっぽをまいてお逃げになるの? そう、あたくしに恐れをなしたのね。いいわ。あなたのようなヘタレで弱虫。あたくしの敵ではないわ」

 フンと鼻を鳴らしたクリスティアラはそういって剣を納めた。

(なんだこの高飛車な女は……。怒り通り越してあきれるな)

 シルヴィオは腹の中で笑って、鍛錬場から歩いて王宮に戻る。

 その間に、昨日宝物庫で見たイルシールの姿を思い出し、執務室に行かずにイルシールを探すことにした。

「で。俺はなぜ、誰とも合わずにここに戻るんだ?」

 そう、今彼の前にあるもの。

 それは秘が高くなる前、クリスティアラに強制連行された鍛錬場。

「方向音痴じゃねぇはずなんだがな……」

 シルヴィオはそういってため息をついた。

 そして、見上げた空に浮かぶ太陽は頭上近くに着ていた。



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