第十七話
人によってはグロく感じるかもしれません。
しかし、キッチンには居てほしくない人物がいた。
「あ、しーちゃん。おはよう」
シルヴィオの姿を確認したテファが、満面の笑みで振り返り。
「おはようございます。シルヴィオ」
テーブルとセットの椅子に座っているウェルコットが、読んでいた本から顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべて言った。
シルヴィオは二人を見て、ただでさえも沈んでいた気分がさらに沈んだ。
「………………あぁ……」
「いかがなさられましたか?」
怪訝そうなウェルコット。
シルヴィオは軽くため息をついて、彼の座っている椅子の向かい側に座った。
「ウェル。国はお前に関係ないだろうが、テファは関係あんだろ?」
「…………はい」
ウェルコットは読んでいた本を閉じ、テーブルの端に寄せ、顔を上げた。
「ならなんで、あいつはああなった?」
そういいながらシルヴィオは、親指でキッチンを示す。
「……申し訳ございません」
「まぁ。あぁなったものはしょうがない。としか言えないな……」
困ったように肩をすくめたウェルコットに、シルヴィオはそういってため息をついた。
「あ! そうだ、しーちゃん!!」
突然思い出したように振り返ったテファ。
何故か嬉しそうだ。
「私、男になっていいわよね?」
「………………はぁ?」
「だから、男になりたいの!」
シルヴィオは、目を輝かせ、興奮気味に宣言したテファから目をそらし、正面のウェルコットに目を向けた。
「…………どういうことだ。ウェル」
「申し訳、ございません……」
ウェルコットはそう言いながら、目だけでなく顔もそらす。
それを見たシルヴィオは、突然おかしなことを言いだしたテファと、こちらを見もしないウェルコットに頭を抱えた。
(おいおい、勘弁してくれよ……)
声に出さすに愚痴った時。
テファが青い料理が載った皿をテーブルに置いた。
「ねぇ、いいでしょ? 私、しーちゃんのためになりたいの」
「…………だったら女に戻ってくれ……」
「? 私、まだ女ですわ」
そういってコロコロと笑うテファ。
シルヴィオの切実な願いは届かなかった。
「ね、シルヴィオ様。いいでしょ? ファムロードでは跡形もなく綺麗に男の人になれるんですって、素敵だわ!」
再び目を輝かせるテファ。
シルヴィオはそんな彼女の言った『ファムロード』と言う言葉で、ウェルコットに冷たい視線を向ける。
「おい、ウェル――」
「私ではございません! 断じて!」
勢いよくこちらを向いて、必死にまくし立てたウェルコット。
そんな彼をシルヴィオの疑いの目が射抜く。
「ではなぜ。テファが海の向こうの国のことを知っているんだ? ……お前が教えた以外に何がある」
「ですから、私が手を焼いているんのではありませんか…………テファ! いいかげんに、誰にそれを聞いたのか教えてください!!」
ウェルコットはそういって、シルヴィオの隣に立つテファを見つめた。
「う~ん……言わなきゃダメかしら?」
テファはそういって頬に右手を当てて、首をかしげた。
「えぇ。ぜひ」
「わかったわ。噂よ。近くの港町で黒い変な服を着た人に聞いたの」
「黒い変な服?」
「えぇ。服に帽子みたいなものがついてて、裾がひらひらしていたわ。それがどうかしたの?」
テファはそういって、ウェルコットの顔が引きつっていることに気が付いた。
(つまり、ファムローダの回し者だな……)
面倒だ。
そう思ったシルヴィオは、テーブルに頬杖をついた。
「…………ちなみに、顔は?」
「無理よ。だって、その帽子が大きくって、口元だけしか見えなかったもの」
テファはそういって肩をすくめると、ウェルコットは椅子から立ち上がった。
「そうですか、わかりました。魔法結界を強化してまいります」
「おい、お前らちょっと待て。近くの港町って、馬で三日かかるぞ? それに、今のファバルに港町はない」
「えぇ。そうですわ。昔の話ですのよ?」
「いや……まぁ確かに、俺が居たころはあったが……」
「……と言うことは、私はずいぶん昔からファムローダに見つかっていた、と…………?」
絶望的な表情のウェルコット。
「そうらしいな」
「そうですわね」
シルヴィオとテファ。
二人から同時にあっけらかんとした言葉がぶつけられ、ウェルコットは先ほど立ち上がった椅子に、再び力なく腰を下ろし、うなだれた。
テファがその様子を見て、困った様な顔をして椅子に座り、テーブルを囲んだ。
「それで、話は変わるがな。テファ、これはなんだ?」
シルヴィオは目の前の皿を指さしていった。
「え、これ? ご飯よ?」
「いや……これはどこをどう見ても人に近い何かの足。だよな?」
「えぇ。おいしいのよ?」
「…………材料はなんだ」
「オーガルって鳥の足」
「鳥?」
「えぇ。足だけ人で、骨まで食べれるわ」
そういって、テファはその足をつかんで口に。
――ボキ。ゴリゴリ。
ちなみに、頬張ったテファの口回りは、それから飛び出した青い液体で汚れている。
「…………俺、用事を思い出した……」
シルヴィオは口を押えて立ち上がる。
「え? まだご飯――」
口の周りが青い液体まみれのテファ。
彼はそれから目をそらす。
「いらん。それとお前は二度と料理をするな」
「でも、そんなことしたら、ご飯は誰が作るの?」
「俺が作る」
ため息交じりの返答に、テファが音を立てて立ち上がった。
「そんな! しーちゃんにそんなことさせられないわ!!」
「……だったらまともな飯を作れ」
「? まともよ?」
「………………とにかく、お前は二度とするな。命令だ」
「……命令なら、仕方ないわ…………」
いかにも不服そうな顔で、テファは再び椅子に座って、足を頬張る。
ウェルコットはその間もうなだれていた。
そして、シルヴィオは再び聞こえ出した骨の砕ける音を聞く前に、姿を消した。




