第八話
「そうか。まぁ、遅かれ早かれそんな年になるんだ。早めに所帯を持てよ」
笑いが収まったシルヴィオ。
ウェルコットはそんな彼に冷笑を浮かべ、刺々しく言った。
「そうですね。でも今は手間のかかる主人のおかげでとても忙しくしておりますのでね」
「…………だから、皇子らしく振舞ってただろ」
「ずっと続けて下さい」
「別にお前しかにないからいいだろう」
「その油断が命取りだと言っているんです」
ウェルコットに一括されたシルヴィオは、返す言葉も無く沈黙し、流れていく映像に目を向けた。
するとタイミングよく、今より少しだけ若いイルシールが映し出され、シルヴィオはウェルコットに早回しをやめるようにいった。
これによって、尋常じゃないほど早く動いていたイルシールは、人間らしい動きで庫内を歩き出す。
彼は数冊の帳簿を抱え、顔をしかめた。
『……やはりとういうか、なんというか…………』
そういってため息をつき帳簿を開き、ペラペラとページをめくる。
と、イルシールは何かを見つけたのか、ページをめくるのをやめた。
『これは……まったく。あの子は』
そういって微笑み、床に転がっていた危険物を拾い上げた。
その映像を見てあらら、と言わんばかりの顔をしているシルヴィオに、ウェルコットの鋭い視線が刺さる。
シルヴィオはその視線に気づかないふりをして、映像に目を向けたままにする。
『…………シンディ……。あなたが死んで、もう五年たったのですね……。あなたが生きていれば……十六歳だったのに」
イルシールは俯いてそう呟いた。
「………………」
シルヴィオは静かにそれを見つめ、目を閉じた。
その様子を見て、ウェルコットはゆっくりした口調で問う。
「なぜ、イルシール殿下が泣いておられるのか、わかりますか?」
「……………………」
シルヴィオは沈黙し。
ウェルコットはそんな彼に微笑んだ。
「賢いあなたの事です。わかっているのでしょう。でも、その賢さをもっと生かしてほしかったですね」
ため息をついたウェルコットに、シルヴィオは苦く笑い、危険物を持ったまま扉に向かうイルシールを見送った。
「早回し」
シルヴィオの一言にウェルコットははい、と返事をして、映像を先ほど同様に早く送った。
そして、映像をすべて見終わり、彼らは宝物庫を後にした。
「殿下。どちらへ向かわれるのですか?」
人気の少ない廊下を選んで歩くシルヴィオに、彼の後ろを歩くウェルコットは問うた。
しかし、シルヴィオは何も答えず、廊下を進む。
不審に思いつつも、ウェルコットは何か考え中なのだろうと思い、とりあえず彼の後をついていく。
廊下は彼が曲がるにつれて王宮から遠くなり、人気はなくなっていく。
そして、完全に人気のないことを確認して、シルヴィオは立ち止まり、口を開いた。
「……執務室」
彼はそれだけ言って、再び歩き始め、ウェルコットははぁ。と返事をして後に続いた。
「ところで殿下。先ほどより口かずが少ないようですが、いかがなされましたか?」
「…………おまえな……口調がうまく戻んねぇんだよ」
あきれたような口調で言ったシルヴィオに、ウェルコットは納得したような顔をした。
「あぁ、それで」
「……わかったら黙ってろ!」
シルヴィオはそういって、ウェルコットに背を向けて歩き始めた。




