第九話
そして、背後からウェルコットの小さく笑う声が聞こえ、彼は顔をしかめる。
「あなたは本当に変わりませんね。シルヴィオ」
「……お前は一層扱いにくくなったな」
シルヴィオが鼻で笑って刺々しく言うと、ウェルコットは小さく笑った。
「お褒めにあずかり、光栄にございます」
「……………………」
褒めてないと言いたかったが、シルヴィオはあえて沈黙する。
否。めんどくさくなったのだ。
彼はそれを誤魔化すように、歩く速度を上げた。
しかし後ろに、嬉しそうなウェルコットの雰囲気が着かず離れずの位置にある。
(あいつは置いといて、とりあえずキャラを戻そう。そうだ、それがいい)
ということで。
シルヴィオは、崩れてしまった皇子としてのキャラを取り戻す事に集中した。
が。いくら戻そうとしても思うようにいかず、ため息をついた。
(ダメだ。昔の記憶が邪魔しやがる)
ちなみに、彼の作り上げたキャラ。
その数は彼にもわからない。
ただ、ウェルロット以外の人間を前にしたり、場面に合わせてキャラのスイッチが入るのだ。
よって、彼には制御不能。
「殿下。口調は戻りそうですか?」
「うるせぇ。見てわかんねぇのかよ……」
シルヴィオが不機嫌そうな顔で振り返ると、ウェルコットは苦笑した。
「困りましたね。あなたの口調が昔のままなので、私も昔みたいに話してしまいそうになります」
「勝手にすれば良いだろ」
「そうですね。ですが、私はあなたの従者ですので」
笑って言うウェルコットに、シルヴィオはいかにもめんどくさそうな顔をして、ため息をついた。
「……勝手にしてろ」
彼はぶっきらぼうにいい、踵を返して再び歩き始める。
その後をはい、勝手にします。と言ってウェルコットはついて来た。
シルヴィオは人気のない道を選んで進む。
理由はただ一つ。
この城の中で人に会いたくなかった。
それだけだ。
そして、ちょうど人が寄り付かない宮殿の中庭に差し掛かった時、ウェルコットが慌てたように声を上げた。
「あ。殿下ちょっと止まってください」
彼の言葉に、シルヴィオは立ち止まり何事かと辺りを見回した。
しかし、人気は無い。
ではそれ以外の何かかと、首を巡らせるも、彼が慌てるようなものは無い。
「殿下、そっらではございません。あちらです」
そういう彼の指さす方は、色とりどりの花が植えられた大きな花壇。
綺麗だとは思ったが、それがどうしたと思ったシルヴィオに、ウェルコットは苦笑して、「その奥です」と言った。
彼の言葉にしたがい花壇の先に目をやると、ふわふわとした金髪の少年が居た。
だから何だ思ったが、口調が戻っていないので、声を出さずにウェルコットに訴える。
そのせいで、再びウェルコットは苦笑した。
「陛下と、エルセリーネ様のお子様です」
「あぁ。そういえば、生まれた子供は金髪だったな」
シルヴィオは小さな声で確認するように言うと、ウェルコットは真剣な顔でこちらを見た。
「……やはり、エルセリーネ様の記憶を引き継いでおられるのですか?」
「まぁな。あいつは俺の体の一部だったからな」
「では、具体的にどの部分だったのです?」
「お前見てたんじゃないのか……?」
シルヴィオが不思議そうに問うと、ウェルコットはため息をついた。
「国が吹っ飛ぶのを目の前でみて、気が動転しない人間が居ますか?」
あきれ顔のウェルコットに、シルヴィオはまた小言が始まりそうだと感じ、目をそらす。
だが、早めに答えないと、確実に彼の小言が始まる。
そう考えたシルヴィオは、会話を続けることを選んだ。
「…………そうか……。まぁ、俺が材料にしたのはすべての異形がもっている、異形としての核だ」
「そんなものあるのですか?」
「あぁ、ある。だが、俺みたいなヤツら以外呪いを受けているからな……取り出すのは無理だろう」
「と言うことは、その呪いをおかけになられた創造主にしか解けないと?」
「まぁそんなとこだ。ついでに、それを取り出すと異形ではなくなる」
めんどくさそうに言ったシルヴィオに、ウェルコットは怪訝そうな顔をした。
「? では、異形ではなく、何になるのです?」
「ただの非力な人間だ。当たり前だろう?」
「いえ、まぁ。なんとなくそんな気はしてましたよ……」
めんどくさそうな態度を崩さないシルヴィオに、彼はため息をついた。




