第二話
シルヴィオは少しだけ笑みを浮かべ、『ウェルコット』と呼んだ男にいった。
「おぉ、オルバーナ。すまないが、シンディに説明を頼む。私は少々用事を思い出した」
「あ、私も失礼しますね」
さっと踵を返した兄たち。
「な?! 待ってください兄上! 兄さん!!」
シルヴィオが声を上げたとき。
ゼフェロスとイルシールの姿はなかった。
「チッ……逃げたか」
忌々しそうに言うシルヴィオに、ウェルコットは苦笑した。
「シルヴィオ様――いえ、殿下。先に一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「…………なんだ……?」
ため息交じりに言うシルヴィオに、ウェルコットは気まずそうな顔をする。
「それは、その……お戻りになられて、よろしかったのですか?」
「………………見ていたのか……」
そういえば、ウィルロットは魔術師だったな。と、シルヴィオは先ほどの登場で思い出した。
というより、彼の中では当たり前すぎて忘れていたのだ。
「はい、つい先日。殿下を見つけることが出来ましたので……その、申し訳ございません」
「……気にするな。お前に見つかっていなくても、戻ってきていたさ」
「然様でございますか」
「あぁ。で。何故、こうなった」
シルヴィオは目の前にある、変わり果てた王都を見ていった。
それにつられたように、ウィルロットもそちらに目を向ける。
「はい。実は、殿下の死亡説と、陛下の奥様、エルセリーネ様の失踪です」
「……………………俺のせいか…………」
ボソッと小さく漏れた言葉。
これをウィルロットは聞き逃さず、「えぇ。そうですよ」と笑顔でいった。
シルヴィオは自然とため息をついて、頷く。
「……わかった。私が何とかすればいいんだろ…………」
「えぇ。もちろんです」
輝く様な笑顔のウェルコット。
そんな彼に、シルヴィオはまたため息をついた。
(だが、この内戦で傷ついた民を癒し、国土を取りかえすとなると……忙しくなりそうだ…………)
シルヴィオはこれからのことを考え、頭を抱えた。
そんな彼にウェルコットは、微笑ましそうに笑う。
「殿下、私もおります。それをどうぞお忘れなきよう……」
「ウェル……そうだな。お前の力をもってすれば一瞬だな」
そう、彼は魔術師だ。
シルヴィオはそれに気づいてにやりと笑っていった。
「え……えっと、そのようなことは――」
「よし。では、今から国の整備を行い、同時に帳簿の確認。そして、我が国を荒らす無礼者の処理だ。忙しくなるぞ」
「え?! と、とりあえず。一つに絞りましょう」
焦るウェルコット。
そんな彼をしり目に、シルヴィオは思い出したように口を開いた。
「良いだろう。追加で宮殿の風紀も改めるとしよう」
「ま、待っ下さい! ですから一つに――」
「それと、兄上たちを対立にそそのかした愚か者を、炙り出さねばな」
シルヴィオは表情を引き締め、ウェルコットの方をむいた。




