第七十四話
「とにかく……。もう二度とこのような真似しないでください」
ため息をついた後、真剣な顔で言ったウェルコット。
シルヴィオはめんどくさげに「あぁ」と返事を返す。
その返事と態度に、ウェルコットが彼を鋭く睨んだ。
「シルヴィオ―――――」
「やった! 見て、全部解けたよ!!」
そう言って床に座り込んで、嬉しそうな顔でシルヴィオたちを見つめるクー。
言うまでもなく、ウェルコットの話は強制終了。
「……痩せたが………猫のままだぞ?」
そう。
彼らの視線の先には長毛の黒い毛をもつ、豚のように肥えた猫……。
ではなく、すらりとした猫。
その猫はがっくりと項垂れ、どんよりした雰囲気を出しているように見えるが、シルヴィオは気のせいだと思うことにした。
「う~ん。そうなんだよね……。でも、ちゃんと解除したんだけど…………」
むーっとうなった後。
クーは驚愕と恐怖を露わに、おそらく地声で「馬鹿な……」と言った。
不審に思ったシルヴィオは、近くに居るウェルコットにも目を向けたが、こちらもクーと同じように、驚愕と恐怖の表情で固まっている。
これに彼が眉を寄せた時。
クーが先ほど出した地声で呟いた。
「古の、呪いだと……?」
「…………タヌキ……失礼。あなたは、貴方様は何者です? なぜ、そのような呪いを受けておられるのですか………………?」
まっすぐにタヌキを見据え、問うウェルコット。
タヌキはそんな彼を鼻で笑い、口を開いた。
「何者、ね……。フッ。これが見えているのなら、お前らが思っている奴だろうよ……」
タヌキはそう言って、首をひねって背中を見た。
しかし、何もない。
あるモノは、長い黒いふわふわの毛。
(……俺は何から驚けば良いのだろう…………)
シルヴィオはテーブルに頬杖をつき、それを考えたが、めんどくさくなってやめ、視線を感じる方を向く。
そこには、彼を見つめるタヌキの姿。
その瞳は、金から鮮血の様な紅に変わっている。
静まり返った中。
シルヴィオがすっと目を細めると、タヌキもその瞳を細め。
口を開いた。
「アルティファスが、壊れた」
突然の言葉に、この場に居る三人は「?」を浮かべる。
「神が……。壊れたんだ…………」
痛みをこらえるように俯き、絞り出すように言ったタヌキ。
その言葉に、三人はただただ固まり、タヌキの言葉を待った。
「……確か、クーとか言ったな。お前の見立てでは『異形を認めている国は崩壊していない』。そう言ったな?」
「あぁ。それが、なんだ……?」
タヌキはすぐ傍で、両膝を抱えて座るクーの方を向き、クーは怪訝そうな顔をして、地声で問い返す。
「正解は『今のところ。崩壊していない』……だ」
重々しく発せられた言葉に、クーは目を見開き絶句。
シルヴィオとウェルコットは眉根を寄せ。
ゆっくりとシルヴィオが目を閉じたと同時に、ウェルコットが口を開いた。
ありがとうございました。
明日に続きます。




