第七十三話
眠そうな一人と一匹が傍観する中。
激しく音を立てながら衝突する二人。
この二人に疲労の色はない。
しかし、リビングの壁や床は傷だらけで、絨毯とソファーは切り裂かれ、飾られていた絵や、花が活けられた花瓶は床に落ち、壊れている。
(めんどくせぇな……。そろそろ止めるか…………)
ため息をついて頬杖をつくのを止め、上体を起こしたシルヴィオは口を開いた。
「ウェル、クー。その辺にしておけ」
「「?!」」
シルヴィオの言葉に、二人は驚き。
クーは大きな斧を振り上げ、ウェルコットはそれを砕くべく、右手を出そうとして、固まった。
「ここは室内だ。そんなに暴れたいのなら、外でやれ。もちろん。ここを元通りにしてからな」
彼はそう言って、あくびをすると、足元のタヌキを抱える。
「ところでお前。痛くないのか……?」
すっと刺さっている鍵に手を伸ばしたシルヴィオ。
彼の手がそれに触れるか否かのところを、クーとウェルコットがガシッと掴んだ。
「何をしているんです、シルヴィオ!」
「消えたいの?!」
血相を変えてどなった二人。
「……だったら早くこいつをどうにかしてやれ」
「あ。いっけなぁい! 忘れてた!」
呆れ顔のシルヴィオに、クーは「てへっ」といって笑い。
ウェルコットは困惑気だった。
「……って。どうしてこの様なものがタヌキの背に…………?」
「あ、これね。ウェルの知ってるのと違うから。これはあたしが零級で作った、魔術とか呪いとかを解除するための鍵だよ」
「と言うことは、魔法学校入り口の鍵ではないのですね?」
「うん。ただ、あれみたいに可愛い感じにしたかったから、お手本にしただけ」
「そうですか」
ニコニコ笑うクーに、安堵の表情を浮かべたウェルコット。
置いてきぼりを食らったシルヴィオ。
彼は膝に乗せたタヌキの頭を撫でながら、二人のやり取りをただ聞いていた。
しかし、昔話に花を咲かせようとし始めた二人。
それを聞き流すが、終わりそうになかったので強制的に二人の会話を終わらせ、タヌキの話に戻した。
「それで、タヌキにかけられてるモノを解くんじゃなかったのか?」
「あ。そうだったね。それ、貸して」
そう言ってシルヴィオからタヌキを取り上げたクー。
彼女はタヌキを床に下ろして、背中に刺さっている鍵に手を添えた。
これによって、タヌキの周りに色とりどりの魔方陣が浮かび上がり、タヌキの姿がザザッと乱れる。
「やっぱり……。これ、ウェル気づいてた?」
「……いいえ。あなたは良く気づきましたね」
「あたしは、零級の気配を感じたからね」
「…………零級は、零級を扱える術者にしかわかりませんし、解除もできませんから」
そういって苦笑したウェルコット。
彼はため息をついて、タヌキからシルヴィオに視線を移した。
「シルヴィオ。あなた、『発生途中の魔術や錬金術は危険だからふれてはいけない』と、言い聞かせていたでしょう? 忘れたのですか」
「……そんなこと言ってたか…………?」
「言いました。あなたがうんと小さい時でしたが、ちゃんと言い聞かせていました」
呆れ顔のウェルコットに、シルヴィオはめんどくさそうに『知らん』と言った。




