第五話 街の騒ぎに巻き込まれる、いたいけな俺!?
「僕っ娘」っていいよねぇ~
再び目を覚ましたのは、翌日の朝だった。
俺はベットから抜け出し、窓を開ける。
ちなみに、俺は一人部屋、シリア達は同じ部屋を取っていたらしい。
―久々に一人を満喫できるのではないか?
よし、そうとなれば、奴ら(シリアとカノン)に見つかる前に、この部屋から抜け出してやる。
俺は早速、剣を腰に携え、一応置手紙をしておいた。
そして、窓から飛び降りた。
何故窓から、かって?そりゃ、あれだ。部屋の外に出たら、あいつらに見つかるに決まってるからだ。
「よっと」
昔もよく、こんなことをしていたな。
学校の窓から飛び出したり、家の窓から飛び出したり……。
―あれ……?これじゃ、俺が悪ガキみたいじゃん。
俺はいたいけで、ごく普通の純白な学生である。
自分で言ってて、すごい違和感があるが……。
「さてと……行きますか」
俺は当てもなく街を彷徨うことにした。
しかし、彷徨うなんて、呑気なことができなくなるのは、これから数分後の話。
とりあえず、市場を回ってみようと思い、そちらに足を向けた。
「へぇ~、結構賑わってんな」
早朝にもかかわらず、人が多くひしめき合っていた。
「ぃらっしゃい!!」
「安いよ~」
「新鮮だぜ!!」
あちこちで、店員の声が飛び交っている。
俺は特に何もするわけでもなく、ただ人の波に乗って歩き続けていた。
その時だった。
ドンッ!!
「きゃ!!」
「おうっ!?」
人とぶつかってしまった。
「す、すいません!!」
「いや、いいんだが……」
「待てやコラァァァ!!」
「ヒィッ!!」
「ヤ」から始まる職業の方のような声を聴いた途端、目の前の奴は一目散に逃げ出した。
……ご丁寧に俺の腕を掴んで。
「おあっ!!ちょ、何してんだ!!離せよ!!」
「す、すいません~」
何故か半泣きになりながら、俺を引っ張り相当なスピードで駆け抜ける。
スゲーな、コイツ。俺を引っ張りながら、人ごみの中よく走れんな……。
そのせいで、俺は先程から様々な人とぶつかりまくりだ。
若干痛くなってきたぞ、体中が。
「ヒィィィィ!!」
未だに奇声をあげながら、走り続ける奴。
しかし、突然路地裏に駆けこんだ。
「はぁはぁはぁはぁ」
「……」
俺はどうすればいいんだ?
「待てっつってんだろうがぁぁぁぁ……!!」
「ヤ」から(省略)は俺達が入り込んだ路地裏を通り過ぎて行ったようだ。
んで、俺はどうすれば?
「おい、行ったみたいだぞ」
とりあえず声を掛けてみた。
「は、はい、そのようですね……」
「大丈夫か?相当疲れてるように見えるんだが」
「い、いえ、その、すいませんでした!!勝手に連れてきてしまって」
「いや、別に……よくはないが、気にすんな」
「す、すいません……」
よく見ると、背中に大きな剣を携えているのが分かった。
「お前、あんな怖そうな人達に追いかけられてんだ?」
「あの、それは……その」
「あン?」
「父の臣下なんです……」
「……ハァァァァ!!?」
今なんつった……?
父の臣下?あの「ヤ」(省略)がか?
つうか、臣下ってなんだよ、臣下って。
「……どゆこと?」
「えっと、僕の家って昔から、ヤクザなんですよ」
「や、ヤクザ、ねぇ……」
「それで、僕は現頭領の子供と言いますか……」
「な、なるほど。お前の身の上はだいたい分かった。だが、何故追われてるんだ?」
「それは、僕が逃げ出したからなんです」
「何から?」
「……は、花嫁修業、からです……」
「は、花嫁!!?」
コイツ、花嫁っつったか?
つーことは、コイツは女なのか?
いやいや、だってコイツ女には……
「……?(上目づかいで首をかしげている)」
……そんな仕草してっと、女にしか見えねぇぇぇぇ!!
「あ、あの……どうしたんですか?」
「いや、この世に中性的っていうのが実在するとは、思わなくてな……」
「……?」
「いや、分からんならいい」
「そ、そうですか……」
「とりあえず、どうすりゃいいんだ?」
「えっと……とりあえず、逃げましょう」
「俺も?」
「おそらく顔を見られてると思います……すいません……」
「マジか……」
こりゃ、あれだ。あれだあれ。まさかの、駆け落ち?
ふざけんなよなぁ……。
「……ま、行こう。こうなったのも何かの縁だ」
「あ、ありがとうございます!!」
「感謝されても困るけどな」
とりあえず、俺達は路地裏から離れることにした。
しかし、どこか行く当てがあるわけでもない。
当然街をぶらつくことになった。
「そういや、お前名前は?」
「へっ!?」
「……いい名前だな」
「違いますっ!!エリスです!!」
「エリスか。俺は鬼灯蓮だ。好きなように呼んでくれ」
「えっと、じゃあ、レンさんで……」
何故頬を赤く染める。
「で、どうすんの?ってか、その恰好で花嫁修業だったのか?」
エリスの恰好は、軽装備ながらも鎧を付け、背中に大剣を背負っている、といった感じ。
到底、花嫁修業の恰好とは思えない。
「あ、それは、家出をしようと思いまして……」
「家出ねぇ~」
「それで、抜け出そうとしたら、見つかってしまって……」
「なるほど。で、今さっきの状態に、と」
「はい……」
……気まずいな、この雰囲気。
ま、あれだな。気は進まんが、宿に戻るか。
「……さらば俺の自由時間……」
「何か言いましたか?」
「いや、俺が泊ってる宿に来いよ。そうすれば、しばらく身を隠せるだろ」
「い、いいんですか?」
「まぁな。……若干帰るのが怖いけど」
「?」
「さ、行こうぜ」
こうして、俺達は宿に向かって歩き出したのだった。
十分程歩き続けていると、目的の宿屋に着くことができた。
しかし、宿屋を目に入れた瞬間、見てはいけない物を見てしまった。
「……(イライライライラ)」
「……ウチ、もう、あかんわ……はよ帰って来てぇ……」
ダメだ、あれは近づいたら、殺される……!!
踵を返そうとした瞬間、後ろから殺気が飛んできた。
振り返ると、そこには阿修羅と手を合わせているカノンがいた。
「……レン……?」
「あっちゃ~、ご愁傷様……」
「し、シリア……おはようっ☆」
可愛く言ってみた。
「『おはようっ☆』じゃねぇぇぇぇぇよ!!!!」
ドゴォッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ライダーキックをされた俺の断末魔が響き渡った。
数分後、目が覚めるとそこはお花畑。
『蓮ちゃん、こっちだよぉ~』
今は亡き祖母の声の元へ駆けだそ「死んじゃだめやで~!!」……ハッ!!
「い、今、俺はどこに……」
「ふぅ~、危なかったでぇ~?」
「ふんっ!!」
「あの、えと……」
宿のベットの上に横たわっていた俺と、心肺蘇生に努めたと見えるカノン。
俺を心肺停止に追い込んだシリアはそっぽを向き、それを見ておろおろするエリス。
「ま、とりあえずレン、シリアに謝っとき?結構心配してたんやで?」
「ちょ、カノン!!」
「そ、それは悪かった」
「だ、だいたい、あんな置手紙してたら、誰だって自殺しますって解釈すんでしょうが!!」
ちなみに俺が書いた置手紙の内容は、『探さないでください。もう生きるのに疲れました』だ。
「いや、あれはジョークで……」
「うるさいっ!!」
「すんませんっしたぁぁぁぁ!!」
今のシリアの視線なら、睨むだけで人を殺せるんじゃないだろうか……?
「まぁまぁ、そこまでにしとき。とりあえず、レン。こっちの子は、誰やねん?」
「あぁ、たまたまソイツの面倒事に巻き込まれてな」
「す、すいません……」
「んで、ほとぼりが冷めるまでは、ここにいた方がいいんじゃねぇかって思ってな」
「そりゃまた、奇抜な案やな」
そうして、話していると突然、俺達がいた部屋のドアが勢いよく開いた。
そして、入ってきた男は肩で息しながら、エリスに詰め寄った。
「わ、若!!さ、探しましたよ!!」
「え、テツ!?な、なんで、ここに……」
「何でも何も、突然いなくなった若を探してるからに決まっているでしょう!!」
「こ、これは、いわゆる修羅場っちゅーやつか?」
「いや、修羅場じゃねぇだろ」
「てか、どうしてここにいるのが分かったのよ」
シリアの言う通りだな。
何故、ここに連れ込んだのがばれたんだ?
「いやぁ~、たまたま見かけましてね~」
何故か照れながらそう答える男。
「さ、若。帰りましょう」
「……や」
「え?」
「ぼ、ぼぼぼ僕は!!れれれ、レンと、か、か、駆け落ちするんだからぁぁぁぁぁぁ!!!!」
テ〇ドン級の爆弾発言をした、エリス。
そんなこと言ったら、ほら、皆固まってんじゃん。
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」
「はぁ……」
溜息をつくしかない俺。
これから、どうなっちまうんだ俺……。
次回予告
ヤクザの元を運ばれ、何故かエリスにふさわしいかどうか、確かめられることに……。
忍び寄る「ヤ」から始まる職業の方の影。
はたして蓮は、切り抜けることができるのか!!?