第三話 森の中、出逢ったのはクマさんではなく、似非関西人の槍使い
関西弁って難しい……
俺達は、早速街を出て、隣町まで歩いていくことにした。
道中に俺が落ちてきた(はず)森を通るらしい。
「あそこは奥に行けば行くほど、魔物が出やすくなるから」
「魔物?」
「それも知らないのね……」
また呆れられた。
てか、異世界から飛ばされてきたんだから、仕方ないだろ。
「魔物っていうのは、動植物に魔素が入り込んでしまったら、魔物になっちゃうの」
「魔素?」
「魔素は魔王がいる限り、あちこちに漂ってるの」
「じゃあ、魔物だらけになるんじゃね?」
「それが、魔素ってのは、対象が弱ってると入りやすいの」
「じゃあ、死にかけの奴とかか?」
「そ。あと、精神的に弱ってるとか。普通の状態でも、多少は魔素ってのが入り込んでくるんだけどね。まぁ、植物に関しては、まったく入らないらしいんだけどね」
「それってやばいんじゃ?」
「少々の魔素で、魔物には変わらない。けど、五年に一度ぐらいは、神殿でお祓いをしてもらわないといけないわ」
「面倒だな。……てか、その口振りだと、人間もなるのか?」
「そうね」
そこで、俺はゾンビを思い浮かべた。
「まさか、ゾンビみたいになるのか?」
「……ゾンビ?」
「えーっと、体が腐敗してて、それでも動いて、みたいな?」
「うーん、アンデッドのことかな。それなら、次の段階だね」
「どゆこと?」
「つまり、最初は無言で剣やら斧やらを振り回す奴になるけど、攻撃して相手を倒すじゃん?そうすると、それに稀に魔素が入り込むことがあって、そうするとアンデッドになるの」
「アンデッドってのは、爪で攻撃したり、噛み付いたりするのか?」
「それが、アンデッドのメイン攻撃だからね」
「強いの?」
「アンデッドは高位の魔物だよ。動きは速いし、攻撃しても怯まないし」
い、いつの間にそんな強くなったんだ、ゾンビ。
「ま、森にアンデッドはいないから、安心して」
「お、おう」
俺は魔物の姿を勝手に想像し、若干怯えながらシリアの後について行くのだった。
現在、森の中を進行中。
十分程前に森の中に入ったので、結構深い所まで来ているようだ。
てか、ずっと思ってたけど、どこ見ても一緒のような風景だよな。
これじゃ、迷うだろ、絶対。
「うーん……」
「どうした?」
「えっ!?あ、なんでもないよ!?」
「何で慌てる?」
「あ、あ、慌ててなんかない」
「そうか?」
「そうだよ。まったく変なこと言わないでよ」
変なのはお前の言動だ、と言いかけたが、やめておいた。
こんな事言ったら、絶対殴り掛かってくる。
ドスッ!!
「なんで!?」
何も口に出してないのに、殴られた。
「失礼な事、考えてただろ?」
「いえ、そんなことは……(汗)」
「顔に書いてある……気がする」
「えぇ!?気がしただけで、俺殴られたの!?」
理不尽だ!!
「まったく……」
そう言うと、シリアはまたキョロキョロしだした。
まさかとは、思うけど……
「迷ったのか?」
「……!!」
俺がそう言った瞬間、傍から見ても分かるぐらい飛びあがった。
「やっぱりな」
「まままままま、迷ってなんかない!!」
「嘘つけ。お前、めっちゃ挙動不審だったぞ」
「そ、そんな……」
「迷ったなら、ここは野生の勘を使って……」
「余計に迷うだろうが!!」
「じゃあ、どうすんだ?」
「そ、それは……」
長い沈黙が辺りを支配した。
……あぁ、耐えられん!!
「とりあえず、野営の準備をしよう。そろそろ、暗くなってくるんじゃないのか?」
「そ、そうね!!」
俺達は、野営の準備を始めることにした。
これからどうするかについて考えるのはその後だ。
野営の準備といっても、そんなに大層な物じゃないから、すぐに終わった。
「なんか、アンタすごく手際よくなかった?」
「そうか?こういうのは何度かしたことがあるからかな」
小学生の頃、よくキャンプとかに参加させられていたからだと思う。
それから、適当に干し肉等の保存食を幾つか食べた。その間は、お互い無言だった。
そして、たき火を挟んで座り込んだ後、俺から口を開いた。
「さて、明日どうするか、だな」
「そうね……」
「てか、なんで迷ったんだ?普通なら迷わないんだろ?」
「当たり前でしょ。……確証はないけど、たぶん魔物のせいだと思う」
「魔物?こんなことできる奴がいるのか?」
「実際に見たことは無いけど、話に聞いたことはある」
「どんな魔物なんだ?」
「かくかくしかじか」
「なるほど、植物系の魔物か」
「かくかくしかじか、と言っただけなのに、なんで通じてんの!?」
「それは、いちいち書くのがめんどくさいからじゃないか?」
「世界観壊すようなこと言うなよ!!」
ま、そんなことは置いておいて。
つまり、その魔物の花粉を吸ってしまったから、方向感覚が役立たずになってしまったってわけだ。
で、それを直すには、元凶を絶つと。
「明日はそれを探すことになりそうね」
「……俺に考えがある。明日は俺に任せてくれ」
「へぇ、何?」
「ま、お楽しみということで」
「そういうことにしといてあげる。じゃ、結界張るの手伝って」
「結界?なにそれ」
「私達が寝てる間に魔物が近寄ってこないようにするの」
「なるほど」
俺はシリアから、小石くらいの大きさの像を二つ渡された。
「あっちとあそこに置いてきて」
「了解」
俺は言われた通り、像を置いてきた。
向こうも同じようにして来たらしい。
「これでいいわ」
「これでいいのか?簡単すぎないか?」
「あれは、いわゆるレアアイテムってやつ。二つ以上で魔物だけに効く結界が作れるの」
「へぇ、それを四つも持ってるなんてな」
「ま、二つはもらいものだよ。あとは偶然見つけただけだし」
「運も実力のうち、だな」
そして、しばらく他愛もない話をしたのち、俺達は眠りについた。
目が覚めると、そこは俺の部屋だった。
……なんてことは無く、目の前に棒らしきもので俺をつついている女がいた。
―なんで、こう、目が覚めると、変なことになってるかな……
そんなことを思っていると、その女と目が合った。
「……………」
「……………おはようございます」
何故かあいさつされた。
「…………おい」
「………はい」
「………なにしてる?」
「……」
「……」
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
ソイツは突然、手にしていた棒を高く振り上げ、振り下ろしてきた。
「うおぉぉぉう!?」
俺は咄嗟にその場から飛びのいた。
「な、何すんだ!!」
「ししししし死体が、喋ってるぅぅぅぅ!?」
「勝手に殺すな!!」
「やぁぁぁぁぁ!!」
棒に見えていた物は槍だったらしく、迫る先端に刃物らしき光が見えた。
俺は腰にぶら下げていた「銀」を抜き、居合い切りの要領で槍を弾いた。
「いやぁぁぁぁぁ!!こっちくんなぁぁぁぁ!!!」
狂ったように俺に突きを繰り出す、バカ二号(勝手に命名。ちなみに、バカ一号はあの王様)。
「やめろ!!つか、人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
俺は雨のような突きを何とか潜り抜け、バカ二号を押し倒した。
その時、どこからかうめき声が聞こえた。
「うるさいなぁ、静かにして……よ……」
起きて来たシリアと目が合ってしまった。
今あいつの頭の中で行われている、方程式が容易に分かるぞ。
―[レン+押し倒されている女の人]×今までのレンへの恨み=悪いのはレン
「おのれは朝っぱらから何しとんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ドゴォォォォ!!! ←パイルバンカー(のような右ストレート)
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!」
り、理不尽だ……ガクッ
俺が気を失っていたのは、約二十分程度だったらしい。
その間に、あのバカ二号の方も落ち着いたらしく、まともに話せるようになっていた。
「ほんと、すまんかった!!」
「気にすんな」
「いや、アンデッドか思うてな」
「それより、お前も迷ったのか?」
「そうらしいの」
どうやら、俺が気絶している間に、バカ二号の事情はシリアが聞き出していたらしい。
「なるほどな。じゃ、森を抜けだすまでは、一緒に行動しとこうぜ」
「えんか!?そりゃ、助かるわ」
「俺は鬼灯蓮だ。好きなように呼んでくれ」
「私はシリア。よろしくね」
「ウチはカノンや。見ての通り、槍使いや」
バカ二号改め、カノンが仲間に入ったのだった。
はい、次にようやく戦闘シーンっぽいものが出てくるはずです